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T君へのお便り
そういえば、随分と昔に街で、君にそっくりな人を見かけて、思わず目で追ってしまったんだよ。
と、会話の端緒になればと、小林一郎が切り出した言葉は、端緒となるどころか、かえって二人の間にあるぎこちない関係性というか、有り体に言ってしまえば、乗り越えがたい壁といった感じのよそよそしさを浮き彫りにした。
3秒ほどの沈黙を経て、真顔の美優が、返したのは、はあーん、という、なんとも気のない、鼻音であった。
小林は、そうした、冷たいあしらいに慣れている。殊更に激昂して、はあーん、とはなんだ、はあーんとは、と声を荒げたりしない。はあーんにはあーんをもって贖え、のハンムラビ法典準拠の因果応報作戦を展開し、美優を罵倒する元気はなくなっちゃった、