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敵と花武③ 蓬々の家の璃音姫Side

 飛び込んだ茶館の空いている部屋を素早く探して、誰にも見られないうちに美梨の君の衣に着替えて、顔の化粧を変えた。


 手早く美梨の君に変身した。


 急いで通りに戻ると、遠くから花武皇子(けいむおうじ)が手が振って合図をしているのが目に入った。駆け寄ると彼は私に囁いた。



「激奈龍の赤劉虎将軍しゃくりゅうこしょうぐん雅羅減鹿(がらあごんろく)が御咲の国に密かに来ているんだ。連れてきた姫に法術をかけて、鷹宮暗殺をしかけるつもりだ。激奈龍は帝王紅碧火薔薇宝の主は鷹宮だと思っている。だから、彼に法術をかけられない。すぐそばの姫に法術をかけようとしている。花蓮姫は後宮深くの春の宮に守られているからすぐには手が出せない。前宮で一番鷹宮に選ばれそうな姫を拉致したんだと思う」


 

 花武皇子(けいむおうじ)は素早く私に囁いて、さりげなく顎で酒楼を指し示した。


 私たちが立っている屋台の数軒隣に大きな酒楼があった。人の出入りはそれなりにある。館を見上げて、私はため息をついた。この酒楼は中の庭もそれなりに大きいだろう。



「荷車はここの中に入って行ったんだ」



 花武皇子(けいむおうじ)は浮かれて歩く民の間を歩きながら、私にこっそり囁いた。



「この酒楼の見取り図は頭に入っている。雅羅減鹿(がらあごんろく)が拉致してきた姫に法術をかけるとすれば、広い空間が必要なはずだ。術は高度なものでなければならないから。法術がかけられたことを誰にも気づかれてはならないし、本人の記憶も消さなければならないから」



 私はうなずいた。


 

 よし、姫を救い出そう。

 この花武皇子(けいむおうじ)がここまでしてくれる理由は分からないが、協力し合うことはできそうだ。



 私は顔の下に薄布を当てて、顔の半分を隠した。花武皇子にも布を貸してやり、顔を半分隠させた。頭巾も被って顔も半分隠している花武皇子はお忍びで名家の息子が遊びにやってきたと思われるだろう。


 

 私たち2人はこうして酒楼に入って行き、広間の天井に隠れて待っていたのだ。すると、あの五色の装束を着た男に、邑珠(ゆじゅ)姫が連れてこられたのが見えた。


 だが、驚くようなことが起きた。

 

 花蓮が赤い竜の主だと知った敵が今度は鷹宮に法術の攻撃を仕掛けようとすると、邑珠(ゆじゅ)姫が法術を使って、それを阻止しようとした。


 私は花蓮が攻撃されたと知り、心配で心配でたまらなくなった。そこにいきなり邑珠(ゆじゅ)姫が衝撃の嘘をついたのを聞いた。



 「鷹宮さまも福仙竜の主よ。花蓮姫もそうだけれど、世継ぎの夫婦は揃って2人とも竜の主あるじなのよ」



 今世最高美女は鷹宮に法術の攻撃をかけるのをやめさせようと、必死の嘘をついていた。


 天井から見ていていも、将軍の赤い瞳が危険な輝き増して、邑珠(ゆじゅ)姫を見透かすように見つめているのが分かった。



「真実よ。今世最高美女を差し置いて、選抜の儀32位の末席の姫が妃に選出されてしまった理由がそれよ。鷹宮さまと花蓮姫は福仙竜同志の(つがい)なのよ」


 (つがい)なのよ。

 (つがい)……。

 (つがい)かぁ。



 私にとって一番聞きたくない言葉だったのかもしれない。

 親友と最愛の人が番だと言われて、のたうちまわりたくなるほどの、ヒリヒリするような心のざわめきを感じた。



 気づくと、倒れた邑珠(ゆじゅ)姫の衣の袂から文のようなものが落ち、そこから文字が立ち上がった。立定的な文字がぐるぐると周り初めて、激奈龍の兵を蹴散らし始めた。



 秦の術か!?

 誰が使っている?



「行くぞ!」



 戸惑う私は、花武皇子(けいむおうじ)に合図をされて、天井から広間に飛び降りた。


 私と花武皇子(けいむおうじ)は剣を構え、邑珠(ゆじゅ)姫の周りに近づく者たちを威嚇した。



「逃げるぞ、邑珠(ゆじゅ)姫」



 私が私の邑珠(ゆじゅ)姫を呼んだ瞬間、邑珠(ゆじゅ)姫はなんとも言えないうっとりとした、恥じらいを含んだ潤んだ瞳で私を見た。



 だめだ、邑珠(ゆじゅ)姫。

 そんな顔をして私を見るな。

 私は女だぞ?



 私は邑珠(ゆじゅ)姫を守るために敵と私の間に素早く立ちふさがった。



「お前、鷹宮かっ!?」


 

 赤劉虎(しゃくりゅうこ)将軍は花武皇子(けいむおうじ)の姿に驚いて目を見張って叫んだ。



「悪いねぇ、彼女は私の妻になる人だ。私の妻になる人によくも狼藉を働いてくれたね。私は許さない」



 邑珠(ゆじゅ)姫を花武皇子(けいむおうじ)の妻に!?

 敵を欺くためにそう言っているのか?


 私はチラッと花武皇子の表情を見た。

 

 

 本気か?

 本気だな!?



 驚いて花武皇子(けいむおうじ)の顔を見上げた邑珠(ゆじゅ)姫に、彼は艶っぽい流し目をして美しく微笑んだ。



 おぉ、妖艶だ。

 鷹宮より大人っぽい。


「法術が使えるなら、飛び降りれるな?邑珠(ゆじゅ)?」



 花武皇子が邑珠(ゆじゅ)姫に囁く声がして、邑珠(ゆじゅ)姫はうなずいた。




 花武皇子と邑珠(ゆじゅ)姫か。

 ありかもしれない。

 いや?

 どうなんだろう?



 邑珠(ゆじゅ)姫が縛られていた縄を花武皇子が解いた。



「美梨、いくぞっ!」



 花武皇子が鋭く言い、私は真っ先に広間の窓に突進した。



 花武皇子(けいむおうじ)邑珠(ゆじゅ)姫の手をとって私の後を追ってきた。振り向いた邑珠(ゆじゅ)姫が赤劉虎(しゃくりゅうこ)将軍と兵に法術をかけたのが分かった。


 

 選抜の儀第1位の今世最高美女はとんでもない力を隠し持っていたようだ。



 敵は一瞬、足元が揺れたかのようによろめいて倒れかけたが、すぐに体勢を立て直して追ってきた。



「行くぞぉ!」



 私が窓から飛び降りると、花武皇子と邑珠(ゆじゅ)姫がすぐ後から飛び降りてきた。一瞬だけ黄色い竜のようなものが煌めき、私たちが地面に激突するのを防いでくれたように思った。



 今のは何だった!?




 満開の桃の花の上に積もった雪がそれはそれは美しく見えた日、花武皇子と邑珠(ゆじゅ)姫と私は賑やかな都の通りを馬で駆けた。途中で邑珠(ゆじゅ)姫を探していた夜々の家の者たちとも合流できて、結局彼女を無事に貞門まで連れて帰ることができたのだ。



 私が持っていた梅香の衣装を着せ、いつの間にか貞門で合流した秦野谷国の柳武皇子(りいむおうじ)の協力も得て、邑珠(ゆじゅ)姫をなんとか宮中に戻すことができた。


 

 雪の残る都を馬でかけるのは冒険だった。あちこちのレンギョウの黄色い花の上に乗った雪が馬で駆ける私たちの体にあたり、黄色い花びらから雪が飛び散るように落ちるさまは儚く美しかった。



 絹の薄い衣がはだけるのも構わずに、髪を靡かせて馬に跨ってかける今世最高美女は最高だった。


 別れ際、花武皇子は彼女の頭をぽんぽんと撫でてよくやったと褒めてあげていた。


 秦野谷国の狙いは何なのか分からない。

 だが、私の目にはは花武皇子(けいむおうじ)は本気で邑珠(ゆじゅ)姫に惚れたように見えた。



 邑珠(ゆじゅ)姫、あなたの(つがい)はもしかすると秦野谷国の次期皇帝かもしれない。



 ふと私はそう思った。



 だが、貞門を抜けたところで空を飛翔して行く赤い竜を見て、私はすぐに敵の酒楼に戻ったというわけだった。





***


 今、敵のアジトになっていた酒楼で合流した花蓮、鷹宮、私の3人は、赤い煌めく竜に乗って宮廷に戻った。


 天蝶節のこの日、御咲の国の先帝、現皇帝、次期皇帝を一網打尽にする暗殺計画が激奈龍(げきなんりゅう)によって仕掛けられたと悟ったからだ。




 私の入内は予想もつかない展開となった。 



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