表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/65

宮廷の牢獄で 冥々の家の茉莉姫Side

 なんですって……?


 あの地味姫が福仙竜なの?

 うそよ!

 信じたくないっ!



 煌めく美しい鱗を持ち、空を自由に飛び、万霊を掌握すると言うあの福仙竜……?


 あの地味姫が!?



 私が天守閣で見たのは、陽の光を浴びて宝石のように煌めく赤と白の鱗を持つ竜だったわ。


 天界の生き物かであるように神秘的で綺麗だった……。


 あれは地味姫が召喚した竜?



 なかでも最上格とされていて、赤い煌めく竜、つまり幻と噂される帝王紅碧火薔薇宝(こうへきかばらほう)と呼ばれるもの。



 羅国は、鷹宮が福仙竜の可能性が高いと言って交渉を持ちかけてきたけれど……。



 いや?

 そうよ!


 あの時、確かに鷹宮さまが到着する前に赤い煌めく竜が現れて美梨の君を救ったのだわ……。



 美しさでも、家の懸ける期待でも、いずれもわたくしは劣らぬはずなのに、わたくしがあんな地味小娘にやられるなど……あってはならない事態なんて。

 

 とんだ愚か者は私の方だわ……!


 鷹宮さまは常にうっとりとして頬を赤らめて花蓮姫を見つめていた……。


 あの恋する眼差し、私の苛立ちを凌駕するほどの愛のときめきを鷹宮さまは花蓮姫にずっと示していた。



 鷹宮さまは最初から知っていたのだわ……!


 私が恋焦がれている以上に、純粋に鷹宮さまは花蓮姫に恋をしているのねっ!


 あぁ……わたくしとしたことが。

 


 必ずしや、鷹宮の寵愛を奪ってみせますわ、なんて。


 よくもまあ息巻いてとんでもない騒ぎを起こしてしまった……。



 どんな手を使ってでも、この体、色香、美貌、技量を使ってでもと、邪に無理やり鷹宮さまを襲おうなんて、もはや犯罪人と変わらぬ考え。



 花蓮姫に優っているというこの気持ちは、犯罪人めいた考え。


 狭量で浅はかに留まらず、無理やりとはもはや……。


 冥々の家の経済が厳しいから、負けたのではないわ。


 私の心が醜く、お慕い申し上げるお方に薬を盛ってでも、無理やり襲うと考えを持ってしまうわたくしの心が、みすぼらしいのですわ……。



 あぁ。なぜなの?

 なぜ、あの地味姫は、赤く美しい、痺れるほど格好良い竜使いなの?


 

 わたくし、発狂しそうですわ……。


 わたくしの醜い心より、あの気位の高い今世最高美女の邑珠姫の方は美しい心の持ち主なのですね……。


 あんな地味姫に負けても、いじましく鷹宮さまを素直に思い続けて清い気持ちを保つことができているなんて。



 いや?

 ただの地味花蓮姫ではなかったのだから、わたくしに見る目が無いということになるのね……。

 


 冥々の家の茉莉姫は、爪をギリギリと自分の手ひらに食い込ませて、一人怒りと想いの激しさに身悶えた。




 己の不甲斐なさを悔しがり、恋の激しさに身をやつす茉莉姫は、美梨の君を殺めようとした罪で牢獄に入れられていた。


 鷹宮に薬を盛って無理に襲う計画は実行前に阻止されたが、美梨の君を拉致して襲った件と、美梨の君を天守閣から突き落とした件で、当分牢獄からは出られないと思われる。



 美貌と気立の塩梅が絶妙で最高だと謳われた、妃選抜の儀第二位の茉莉(まあり)姫は、白魚のような手を空中に漂わせて、見えない琴を弾き始めた。



 人を狂わせてしまうほどの恋というものがこの世には存在する。


 傍目には何もかも、手にしているような姫であったのに、経済の厳しく傾きかけた家であったとしても心さえ正しく持ち続ければ、きっと違う道があっただろう。



 春の桜が咲く頃には冥々の家の処罰が正式に決まる。



 数年の間、茉莉姫は厳しい監視の元に置かれ、南の地で農作業に従事する処罰がくだると思われる。冥々の家は、領地を半分以上取り上げられるであろう。




 牢獄の窓に春の日差しは差し込み、春の鳥が囀る声が聞こえていた。


 見えない琴を奏でる茉莉姫は、うっすらと微笑み、涙を流して自分の愚かさを悔いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ