この身は、花蓮のものだ。勘違いするな 花蓮Side
なぜ、自分が煌めく赤い竜の瞳を介して天守閣の状況を観れるのか、私は全く気づいていなかった。
ただただ、衝撃を受けて、私は腰を抜かしそうになった。
本当に冥々の姫がっ!?
いや……っ!
信じられない……。
美梨の君を突き落としたのね……。
私はとんでもない所に足を踏み入れたようだ。
怖さで震えが止まらない。
人をこうも簡単に殺せるような人ではなかったはずなのに……。
宮中は恐ろしい所だ。
その瞬間、赤い煌めく竜はふわりと地上に舞い降りてきた。その美しい背には、青い衣を羽織った美梨の君が横たわっていた。
「美梨!」
いつの間にか鷹宮が姿を現して、赤い竜の背から美梨を抱きしめるように引き取った。
「ありがとう!」
鷹宮は赤い竜に感謝の言葉を言った。その瞬間、赤い竜は跡形もなく姿を消した。
「福仙竜だ!」
「帝王紅碧火薔薇宝だわ!生まれて初めて見たわ……」
「綺麗だった」
鷹宮はすぐに私が乗ってきた車に美梨の君を運び込んだ。人々が騒ぐ中で、私は鷹宮に駆け寄って耳打ちした。
「冥々の茉莉姫が天守閣から突き落としたのよ。侍女の雨明も共犯よ。まだあそこにいたわ」
私は天守閣を指差した。
「光基!兵と共に捕えろ!」
すぐさま五色の兵の半分が天守閣に向かった。茉莉姫をとらえるためだ。
「冥々の家の者を全てひっとらえろっ!」
鷹宮の言葉で、辺りは大騒ぎになり、五色の兵は冥々の家の者を捕らえた。
「朝から五色の兵が張り込んでいたのだが、まさか茉莉姫が直々に美梨に手を出すとは思わなかったのだ。すまない。本当にごめん」
鷹宮は短く私に謝って私を抱きしめた。
「ありがとう……。花蓮がいてくれて本当によかった」
その場に茉莉姫以外の30人の姫はいたと想う。
私は鷹宮に熱い熱い口付けをされた。
あぁっ……。
私がとろんとして、ぼぉっと鷹宮の顔を見つめると、その時、柳々の翠蘭姫をふくよかな優琳姫が押しのける騒ぎが起きて、人々が悲鳴をあげた。
黄色い黄梅の花が艶やかに咲き誇る元に、柳々の翠蘭姫が転がっていた。その指の先には、美しい紋様の扇子と共に短剣が転がっていた。
「この者、短剣を扇に忍ばせておりますっ!」
たわわな果実を揺らして、息を切らして優琳姫は叫んだ。可愛らしい顔が般若の顔のような形相になり、柳のように細い翠蘭姫を睨んでいた。
「柳々もとらえなさいっ!」
鷹宮の声と共に、柳々の者も全てとらえられた。
「皆、よく聞け!羅国と手を結んだ罪で冥々と柳々は処罰する」
鷹宮は私を引き寄せた。
「この身は、花蓮のものだ。勘違いするな」
「お許しくださいっ!」
冥々の者も柳々の者も、泣きながらひれ伏した。
「お前たちは、私に薬を盛り、私とそなたの家の姫たちを閉じ込めて、既成事実を作ろうと画策したな?羅国から見返りに何を要求されたのか申せっ!他の家の者たちも聞きたいはずだ。ここで申すがよい」
翠蘭姫が、縄で縛り上げられたまま、震えながら言った。彼女の顔は恐怖で青ざめて、唇はワナワナと震えていた。
「その……。申し訳ございません!御咲の宝である帝王紅碧火薔薇宝が実在するはずで、それは鷹宮さまであるはずだから、そのお子を望めと。羅国は我が家に資金援助するので、末長く竜のご加護を羅国にも分けて欲しいと。わたくしは、鷹宮様が好きで好きでたまらず、恋焦がれてしまい、このような不当な計画に乗ってしまいましたっ!大変申し訳ございませぬ」
「今、誰にその短剣を投げようとしたのだ?」
鷹宮の雷のような声が轟いた。凛々しく美しい顔は真っ赤になり、激怒している。
「その……花蓮様がお怪我をすれば、私にもチャンスがあるかと……」
「たわけがっ!」
「お前たちの計画など、当にばれておる。朝から、柳々の家と冥々の家には兵が張り付いておったのだ」
あたりはシンと静まり、水を打ったような静けさが訪れた。
「最下位からてっぺんを取ったとやっかむ声は耳に入っている。花蓮は傷物ではない。先の皇帝を救ったために襲われたが、事が起きる前に私が救ったのだ。傷物の噂が絶えず、最下位の入内となったが、最下位の根拠は偽りだ!」
あの……。
私が地味だから……説得力がないのではないでしょうか……。
真綿のように何かが首を絞める……。
息が苦しくて、私ははあはあと首を振った。
こんな国を揺るがす大騒動になるのは、私に説得力が皆無だからで……。
私が鷹宮の妃でいるのは国益を損なう騒乱を呼び起こすのではないでしょうか……。
私の胸が震えた。
ヒリヒリと痛む胸が、ずきゅんと私の体を貫き、私の身を縮こませた。
私が鷹宮さまのそばにいると争いを生むのだ……。
私は切なくて泣きたくなった。
不甲斐ない自分がおそばにいてはいけないお方なのだ。
どんなに恋をしても、鷹宮さまが好きだと言ってくれるからといっても、私のような説得力がない者が妃にいれば、他国につけ入る隙を与えてしまう。
足がすくむ……。
私がおそばにいない方が鷹宮さまのためには……。
私が震えながらそう考えた瞬間、ガラッと車の扉が開き、たもとを乱した美梨の君が飛び出してきた。
「花蓮っ!助けてくれたのかっ!私の命が助かったのは、花蓮のおかげなんだなっ!」
美梨の君が無我夢中で私に抱きつき、泣いた。
「ありがとう!ありがとう!」
鷹宮は美梨の君が私に抱きつく様子を優しく見つめて、断言した。
「そうだ。皆のもの、よく聞きなさい。万霊を掌握する竜使いは、我が最愛の妃である花蓮だ。先ほどの見事で痺れるほど美しい竜は、我が妃である花蓮が呼び出したものだ」
あたりはどよめいた。
えぇっ!?
嘘……。
「花蓮、俺が愛してやまない姫は、とんでもなく美しく強い帝王紅碧火薔薇宝を呼び出す姫だ。花蓮、愛しているんだ」
私は美梨の君に抱きつかれたまま、鷹宮が頬を赤く染め上げて照れたように囁くのをぽかんとして聞いた。
「美梨、助かったのだから、お前はバレないように早く姫に戻れ」
鷹宮は美梨の君の耳元に囁いた。
すぐ後ろに光基が控えていて、光基のすぐ後ろには蓬々の家の璃音姫の古参の侍女がひっそりと目立たないように控えていた。
美梨の君はそっと頷いて、涙を堪えた煌めく瞳で私を見つめると、私から離れた。
鷹宮が一気に私を横抱きに抱き抱えて、艶かかな笑みで私を見つめて皆の視線を独り占めにした。
あぁ。
ここで皆の視線を集めて、美梨の君が蓬々の家に戻る隙を作るのですね……。
私は鷹宮に横抱きにされたまま、頬に口付けをされて真っ赤になった。
「私の妃は花蓮で決まりだ。子を作るなら、まず最愛の花蓮となのだ。それ以外は考えられない。分かってくれ」
私が赤面するセリフを平気で美しい鷹宮は断言し、火のように熱った私の顔を皆の前に晒した。
ぽんっ!
煌めく鱗を持つ美しい赤い竜が空に現れて、人々が一気に空を見上げた。
おぉっ!
なんと美しや……!
噂で聞くより、宝石のように輝いているっ!
人々はまたもや姿を現した伝説の竜に興奮していた。
「鷹宮様が、今竜を出しましたよね?」
「いや、俺じゃない、花蓮だよ……」
私は口付けを再びされて、真っ赤になった。
私の後宮での花嫁生活は、予期せぬ展開になったようだ。




