姫が消えた ② 蓬々の家の璃音姫Side
「おんなっ!?」
「こやつは女だと!?」
そうだよ、美梨の君は、この私は女人だ……。
私はうっすらと意識が戻ってきた中で聞こえてきた声に反応した。
「となると、鷹宮のこれか!?」
あぁ、愛人っていうことね?
ちげーよっ。
私は思わず男性になった時の言葉で悪態ついた。
鷹の口調がすっかりうつってしまった。
母に泣かれる……。
蓬々の家は各家の中では一番の大金持ちで、その三の姫の璃音姫とは私のことだ。
さては、私を美梨の君だと知っていて、ここに連れ込んだか……。だが、私が蓬々の家の璃音姫とは気付いていない様子。
となると、妃候補の家のどこかが関係しているのか?
鷹宮に近づくための何かを画策しているのか?
私は薄目を開けて驚いた。
砂漠!?
やたら風通しいが良いと思ったら、砂漠の上にいるのか?
こんな術は知らんぞ……。
半月の月が輝く夜空には満天の星が煌めいていた。
移動術を使って私をここまで運んだのだな?
羅国、激奈龍、秦野国に四方を囲まれている御咲の国には、砂漠はない。羅国と激奈龍には砂漠がある。
そのどちらかの国ということか……。
私が狙われたのは、鷹宮にかなり近い者だからということか。
しまった。
迂闊だった。
気分がむしゃくしゃしていたから、警戒を怠った。連れの者もいない。まさに母上と父上が心配した通りのことが起きてしまった。
今頃、前宮は大騒ぎかもしれない。
蓬々の家の妃候補が消えたのだから。
鷹ごめん……。
お前を支える約束が果たせない。
花蓮、私の愛しい人。
二度と会えないかもしれない。
今までの人生はなんだったんだろう?
知らぬ間に涙が頬を伝った。
「お前、女なのか?」
いきなり揺さぶられて聞かれた。私は目を開けた。綺麗な女の人が私に真剣な表情で聞いていた。
「そうだが、ここはどこだ?」
「羅国だ」
「何が目的だ?」
「美梨の君は鷹宮と幼馴染でしょう?」
「そうだが?」
「お前が女だというのとは、鷹宮の愛人ということか?」
「違う。ただの幼馴染だ」
「そうか。お前に一つ働いてほしいことがある」
「断るっ!」
私はすかさず断った。もう少しで体が動きそうだ。何かの薬のせいか、体がだるくて重いのだ。
「話を聞いてからにしなって」
「断るっ!」
「第二の妃に選んで欲しい姫がいます」
「そんな話……。鷹宮が聞くわけないだろう?」
「だから美梨の君に相談しているんだ。あんなチンケな女を妃に迎えるぐらいだ。済々の家の姫で良いなら、他の姫でも鷹宮は良いだろう」
あぁ、どいつもこいつも花蓮の良さがわかっちゃいない……。
「それは違う。鷹宮は花蓮以外は抱かない」
「だからお前に頼む。お前が女人だとバラして良いのか?」
くっそ。
花蓮をみくびるのも、鷹宮をみくびるのもいい加減にして欲しい。
私をみくびるのもな。
「いいよっ!」
「そんなこと言っていいのか?お前が女人なら、簡単じゃ。男を使う」
「は?」
一瞬、意表をつかれた私は間抜けな顔をしたに違いない。
「お前たち、好きにしていいぞっ!」
そばにいた荒くれ男どもが、にやりと笑って近づいてきたのに気づいて、私はゾッとした。
汚い手を使いやがって……。
「待てっ!鷹宮にどの姫を選んで欲しいのだ?」
「20位」
「無理だ。せめて今世最高美女とか、ましな姫にしてくれよ」
盧々の家の明玉姫の前か……。
誰だっけ?
うーん、頭を打ったからか、20位の姫をど忘れしてしまった。
「西一番の大金持ちが靡くわけなかろう?」
「それもそうだが。その話を持ちかけたら、20位の命はないと思え」
私の言葉は無視された。
「2位はどうだ?」
えっ!?
今、衝撃的な言葉を聞いた気がする……。
「は?」
「2位はどうだ?」
私は黙った。
「答えなさいっ!」
花蓮、お前、覚醒できるか?
私は心の中で奇跡を祈った。
2位の冥々の家の茉莉姫は、家が傾いているという噂がある。家の者の企みか?
まさか、茉莉姫本人の企みじゃないだろうな?
「一夜を共にする既成事実だけ茉莉姫と作ることができれば良いのだ。謀って、2人を閉じ込める。鷹宮には薬を飲ませる」
私が見上げる女な背後には、美しい三日月になりかけた半月と、煌めく星が見えた。
女は恐ろしい企みを私にささやき、私は底知れぬ怖さに震えた。
私が交渉に応じるわけがない。
花蓮、お前、覚醒できるか?
護符よ……。
今、力を発揮してくれよ……。
無理か……。
花蓮は鷹に夢中だもんな……。
男たちが襲いかかってきて、私は悲鳴をあげた。私は自分のか細い女性の悲鳴を初めて聞いた。




