表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

猪瀬 先生

過去のステージ

現在のステージ

未来のステージ


どのステージも自分の足で立つ。

揺るぎない決意と共に。

「ねぇ、いのせっち。今日のテストやめてさぁ、何か面白い話ししてよ」


授業の一環でグループ研究と称した勉強会が始まると、教卓の近くでよく通る声が話しかけてくる。


「面白い話し、か。お前らのテストの成績次第だな。学年の平均点以上が半数超えたら…次の授業で披露してやるよ」

「えーマジ?半数以上は無理っしょ〜。もうちょいクリア条件下げてよ〜。」

派手な髪色にピンクのネイル。制服はあって無いような物だ。白く綺麗な歯並びの大きな口が笑いかけてくる。成績はあまり良く無いが人懐っこく笑顔が絶えない生徒だ。フレンドリーと言えば聞こえがいいが、距離感を間違えると痛い目に合う。

そんな生徒、伊藤紬は授業そっちのけでおしゃべりに夢中だ。

「伊藤。喋ってばかりいないでちゃんとレポートまとめろよ。提出できなかったやつは放課後補習あるからな。テストだけじゃないぞ」

「えー。マジやば」

あちこちから声が上がる。ざわつきが大きくなる。

「ある程度まとまったらリーダーは一度報告に来い。方向性間違ってないか確認するから」

「ほーい」

「うぇーい。先生〜方向性違ったらやり直し?いちから?」

真ん中辺りのグループからリーダーの田端直樹が質問する。伊藤同様にクラスの中では中心的な存在だ。

「そうだな。一からやり直しもあるな。気ぃ抜くなよ。ちなみに出来の良かったグループから…グループ全員の評価高く付けていくからな〜。いつも評価D以下のやつ、評価上がるチャンスだぞ〜」

喜びと落胆が入り混じる声が上がる。

猪瀬翔也の授業はいつも賑やかだ。


ざわついていたクラスもそれぞれのグループでディスカッションが始まり、レポートにまとめながら作業が進んでいく。

教室のグループの間をゆっくりと縫うように歩きながら、生徒に声をかけて行く。

「いのせっち〜これってさ」

「せんせ、せんせー。ちょっと教えて」

「あ、こっちもいいですか?先生。質問が」

しばらくするとあちらこちらで声が上がり、手が上がる。声の上がった順にグループを周り質問を解消して行く。

人気者になったようで、少し気分が良い。

中には相性が悪く敬遠する生徒も居るが、大半の生徒は猪瀬の事を頼りにしている。

「これはさ、自分たちで考える事だろう。答えを求めるなよ。お前らの悪いとこだ。質問するのはいいが、それをどう思うかは俺は答えられないぞ。」

「えへ、バレたか。良い方法だと思ったんだけどな〜」

「えへ、じゃない。俺の言った事そのまま丸パクリもダメだからな。評価D以下が付くぞ」


「えー、先生、これはダメ?何か読めないんだけど〜この資料。これ、何が書いてあるのぉ?」

それぞれが持ち寄った資料が机の上に置かれ、散在している。プリント、書籍、写真…形態は様々だ。

中にはどこぞの蔵の奥から引き摺り出したかのように埃まみれの巻物まである。

「おい、これ…誰が持ってきた資料だよ。」

渡された古びた一冊の本を何となくめくり、目に入った文字を口にした。


がらりガラリぐるりグルリ とおきちかき

ばらりバラリ パラリぱらり… …


「なんだこれ。呪文か?何の資料持ってきたんだ?お前ら…って、ん?え?おぉあ?」

何も記されていない古びた本のページからモヤのような物が滲み出てくる。

「な、何だ?猫?いや…狐、か?」


「えー?先生、何?何か書いてあんの?」

この本が読めないと質問してきた生徒が覗き込む。が、彼女には何も見えていないらしく声を上げている自分と本を交互に眺めている。

「何だ?綾瀬、お前これ…見えない?のか?」

「うん、何も書いてないページじゃん。いのせっち、何か見えてんの?」

二人の会話を聞いて他の生徒たちも本を覗き込んでいる。

「えー、何?なんかドッキリみたいな?マジックやってんの?いのせっち〜」

「ここのグループだけずるいじゃん、俺にも見せてよ」

「うぉ〜マジ?マジ?何かすげー。出てきてね。なにあれ。ヤバくね〜」

「何もいないジャーン。手品やってんじゃないの?」


色々な声と会話と入り乱れ、何人かの生徒がモヤの中から何か出てきていると口にし始めた。

…そんな声が徐々に…悲鳴へと変わって行くのにそう時間は掛からなかった。


「せ、先生。猪瀬、先生。何か、何か居る」

伊藤紬が椅子を後ろへ蹴倒しながら立ち上がる。

「な、何?何あれ…いや、やだこっち来ないで」

蹴倒した椅子の脇に尻餅を付いた状態で後退りする。


モヤの中から出てきたであろう獣じみた塊が、いつのまにか伊藤紬の足元へ移動していた。

伊藤紬が叫ぶように悲鳴を上げた頃にはもやの形もくっきりとしており、真っ白な狐の形を成していた。

「せ、先生。先生。いや、誰か、助けて」


白狐のような物はふわり、ふわりと舞う様に動き、飛び回る。人間に危害を加えることは無いのか一定の距離を保ちながら移動を繰り返す。


「みんな大丈夫か?このままここにいない方がいいかもしれない。外へ出るぞ。入り口に近い奴らから順番に、だ。一気に走り出すなよ。」

冷静さを取り戻すと生徒達を落ち着かせる様に、声のトーンを落とし、淡々と号令をかける。

「せ、先生。あれって…狐だよな。文字読んで出てきたって事は…最近噂されてる?サブスタじゃね。」

隣にしゃがみ込んで得体の知れない物を凝視しながら話しかけてくる。やけに落ち着いているように見えるが、握りしめた拳は僅かに震えている。

「田端…お前はあれが見えるんだな。なら、あれに影響受けてない奴らをまとめて外へ出すの、手伝ってくれ。あれからなるべく遠い位置にいる奴らからゆっくりと、だ。」

狐のような物を目の端にとらえながら、田端に指示を出す。生徒に頼るのもどうかとは思ったが、この際、仕方がない。この状況を冷静に判断できる人間が一人でも多くいた方がいい。

数人ずつのグループがゆっくりと教室を後にする。

あと、5名。

最初にSWSを発見し、倒れ込んだ伊藤紬、それを介抱して傍にいる日向さくら、それから田端直樹、その横で田端同様にSWSの存在を認識している長谷川鉄。彼は田端の幼馴染なのだそうだ。

「せ、先生。さっき、叔父に連絡を入れました。俺の叔父さん…実はSWS対策の仕事してて…多分…すぐに来て、くれる、はずです」

「おう。サブス対策室…いや、悪い。本当は先生である自分がやらなきゃならない事だったな。助かった。ありがとう長谷川。」

そんな会話をしながら、狐のような生き物がふわり、ふわりと動き回る様子を見つめながら、タイミングを見て外へ出ようとしていた時…だった。



ガラリと教室の扉がスライドする。

同時によく通る声が響き渡る。


がらりガラリぐるりグルリ とおきちかき

ばらりバラリ パラリぱらり…?デ、リー…ト?


「ん、これなんだ…この呪文、中途半端だな。

Rebornか。解読からしないといけないな…半田…、はんだぁ。ちょっと手伝え」


教室の机の上にあった古い書籍を手にしながら呪文を唱えた人物、鈴宮拓人はSWS対策室本部所属のcollectorだ。長谷川鉄の叔父にあたる人物である。

鈴宮に半田と呼ばれたのは同じくcollectorの半田正克。鈴宮の後輩にあたり、バディでもある。

「せ、先輩。呪文の書かれた書籍はこれだけみたいっす。解読…不鮮明なとこあるんですけど…何とかなりそうっすね。ちょっとお待ちを〜。って、それよりこいつRebornした人居ますよね。その辺に…」

半田が辺りを見回している。

「あ、居た。貴方。ん、先生かなぁ。ねぇ、先生。これ、もっかい読んでみてくれない?」

少しニヤつきながら半田と呼ばれた青年が本を手に近付いてくる。

この状況で、意気揚々と来るあたり…慣れではあると思うが少し常識外れな奴だと呆れてしまう。

「いきなり、何なんですか?SWS対策室だか知りませんが、まず子供たちの安全を優先して頂きたい」

「あ、それはすんません。でも、これ、読むことの方が最短最速、最も安全な解決法なんですよ、実は。」

怯む様子もなく本を差し出してくる。

「ね、お願いしますよ。ここのちょっと読みにくいとこも全部含めて…最後にdeleteって言ってもらえれば尚、いいんですけど」

始終ニヤニヤしながら話しかけてくる。嫌なタイプだ。

「とりあえず、専門家なんだよな、君達は。信じていいんだよな」

「もちの、ろん。ですよ。よろしくお願いします‼︎」

さらに目の前に差し出された古びた書籍の開かれたページを見る。読む。


がらりガラリぐるりグルリ とおきちかき

ばらりバラリ パラリぱらり ひろきあさき


ならなら ひゆり まらまら だるり

きらきら ななつみ あきあき ななこし


delete


耳元でキュンッヒュンッと金属音のような音がした。

後で聞いた事だが、あまり聞く事は無い珍しい音なのだそうだ。いわゆる、断末魔のようなものらしい。

その時はとにかく子供たちを何とかしないと、と言う思いと自分がこれの出現に関わったのかもしれないと言う不安が入り混じっていて、自分でも何をしていたかあまり覚えていない。


呪文を唱え、本を半田に渡す。

半田は自分が歌唱した呪文を同じように繰り返している。呪文を繰り返している間、ふらふらと宙を舞っていた狐のような物は動きを止めこちらをじっとみていた。

「さあてさて、狐様よ。こちらへ入ってくださいな、と。」

動きが止まったというよりも、動けなくなったそれを半田がゆっくりと掴み、本の中へ押し込んでいく。

体躯はさほど大きくないせいか、すんなりと吸い込まれるように本の中へ移動が終了した。


「おぉ〜先生〜上出来。Rebornとdeleteできるって事か…何気…すげぇな。先輩っ長谷川先輩、先生のdelete完璧っす。ちょっと確認してもらえます?」

手にしていた書物に文字が刻まれている。

黒く塗りつぶされた文字。最後にナンバーが刻まれている。半田という青年曰く、deleteが終了したって事らしい。

「え?Rebornやって…delete…って。妙な人材発掘しちゃったな。まぁ、とりあえずこの案件は終了って事で…先生の処遇は、後回しだな」

手にしていた本を半田から長谷川と呼ばれた人物が受け取りページを捲る。中の文字に歪みがない事を確かめると、その本を特殊な呪を施したと言われる風呂敷様の布に包み木箱にしまった。


この書籍はRebornが可能ではあるものの、解除が不完全なBookとして研究所に送られる。通常のcollectorが使用するBookとはまた別の扱いになるようだ。

研究所には他に何冊かこういったような研究用の書籍があるらしい。この書籍がいつ、誰によって作成されたのか。今の所詳細な研究結果は公表されていない。


通常のSWS出現は、誰かが用意した鏡文字になっている呪文を共鳴した人間がなぞり、読んで…と言う一連の行動を取ってSWSを呼び出す。

だが、猪瀬翔也は書籍から直接SWSを呼び出す事ができた。文字を呪文として書き起こす作業ができるのだ。一度、デリートしたSWSも書き起こす事ができ、この書き起こしをRebornと言う。ちなみに、RebornされたSWSを再度Bookにcollectする事をrewriteと言うそうだ。


この事件があった後、故意的にこの状況を作り出していないと判断され、罪を問われる事は無かった。ただ、Reborn能力の高さを評価され、それらをBookに取り込むことができるcollectorとなる為に教職を辞する事になった。

今はSWS対策室の中枢に居る。


教職を辞する事に迷いは無かった。単純にSWSという物そのものに魅せられてしまったのだ。取り憑かれたようになってしまったと言った方がいいかもしれない。生徒たちにはずいぶん引き留められた気がする。けれど、答えを変える気は無かった。


新しいステージだ。


ワクワクする。





Reborn

白狐 


狐の妖怪。人を騙して楽しむ。

取り憑いて呪うことはないが騙して堕落させるようだ。

様子を伺い隙を見つけると付き纏う。

耳元で悪い事を囁くとも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ