風に乗ってここで生きる
風の魔女であるミトリは、明るめの髪を肩まで伸ばし、白いドレスも可愛らしく似合っていた。
派手に着飾らなくても、16歳という若い年齢の為か、最低限の花嫁姿で充分だった。
花婿のヨージーと今日森の教会で式をあげ、夫婦になる。ヨージーは土の魔法使いだ。土を使った魔法を得意とする。
しかし、ヨージーは、式の当日、何やらミトリにケチをつけてきた。
「お前、その姿、似合っていると思っているのか?」
えっ・・!?ミトリが着ているのは、ウェディングドレス風の白い可愛らしく綺麗に見えるドレスだった。
「お前よりマイミの方が綺麗なんだ!!!」
なぜか、いきなりその様な事を言い出して、ヨージーはどこかに消えていった。
ただひとり、たたずむ若い花嫁は取り残されていた。
私はミトリ。風を操る魔女。花婿のヨージーが帰ってこない。
こうなることは予想していた。
結婚相手だったヨージーは、いつだって私の花婿らしくなかったからだ。マイミというおさななじみと仲が良く、いつもヨージーはマイミと一緒に遊んでいた。
私とヨージーの結婚は、もともと家同士が決めていて、私とヨージーは生まれた時からの婚約者同士だった。ヨージーは可もなく不可もなく、外見も中身も普通の少年だった。私と同い年で、唯一目立った特徴は、黒髪が綺麗だったことだったように思う。
ヨージーやマイミとは学校も一緒だったが、属するグループが違い、私がヨージーとデートをしたり、遊んだり、つるんだりしたことはなかった。
ヨージーやマイミ達は、明るめの性格が良さそうな、少し賢そうな、グループだった。二人だけでなく、他の似たような空気の連中と男女3人ずつの6人体制だ。
私の属するグループは、変わり者で暗くて、社会不適合のような変なグループだった。私を含め、3人の女子がいた。
ここの魔法の世界では、大体16歳になると皆結婚する。
なので他の二人も結婚相手が決まっている。マイミもだった。
魔法の国『М』では、時々こういうことがある。
ヨージーに拒否された私と、マイミに拒否されたマイミの婚約者と、行き場を失い、それぞれ、どこか見えない所で暮らさなければならない。そういう者達は周囲の視線に耐えられず、皆いつの間にかどこかへ消えてしまうのだ。
風が吹いている。ビュービューと、とても強い風…。私の気持ちを表しているこの風。
私は魔法の国の風の魔女、ミトリ。
花婿に拒否された16歳の少女だ。
行き場がないので、人間界へ行くことにした。
人間界では微風美鳥という名前でこれからは生きていこうと思う。
北海道のある公立の高校生として過ごすこととなった。
結婚破棄されたため、本当の父や母とはお別れで、お目付け役、地球での探索を兼ねたソウタとハルノが父母役だ。それぞれ、微風総太、微風波留乃が、人間界の名前だ。
私は魔法界で結婚するよりも、正直今の方がドキドキする…。どんなことが待っているのだろう?
ちなみに、ミトリを振ったヨージーや、婚約者(花婿)を奪ったマイミも、結論うまくいかなかった。
二人は結婚したのであるが、ミトリと結婚して欲しかったヨージーの親族とマイミがうまくいかなくて、マイミは逃げる様に人間界(地球)に逃げた。地球と言っても、ミトリがいる地球とは違う地球だ。この世には空間の違う沢山の地球があるようなのでわざわざ、遭遇するかもしれない恋敵のいる場所には行かない。ここで、私立の女子高校に入り、同じく地球に来ていた悪魔と恋仲になるが、横恋慕してきた天使に邪魔をされ、マイミは最後は独り身で占い師となって生涯を閉じた。
ヨージーも、親族大好きの魔法大好き、寿命も地球に合わせて短くしたくない(魔法使いは寿命が長い)ため、マイミと地球に逃げることはせず、魔法の国に残り、土に特殊な魔法をかけて、花嫁ホイホイのように年頃の女性を次から次へと呼び寄せアタックをしたが、中々うまくいかず、脱走されたり、蠟人形にしたり、間違えて殺したりして、要注意人物として、周りから嫌われていた。最後は等身大の美しい人形に魔法をかけて魂を入れ、動かして、ヨージーと一緒に暮らしていた。時々、人形が動き出して、魔法の国の騎士の銅像と逢引きをしていることは彼は知らない。知らぬが仏だ。
彼らはこのミトリの物語には今後、出てこないが一応記しておく。
~北海道、とある公立高校入学式~
ミトリは新しい制服に身を包み、アパートの外で風を感じている。
まだまだ雪が残っている所もあるけど、スニーカーを履ける程雪がなくなっている。
総太と波留乃が保護者としてくることになった。ミトリと共に入学する高校へ向かう。
彼らは入学する高校の近くにアパートの部屋を借りることが出来た。三人で歩いて学校へ向かう。
ミトリの他にも同じ学校の制服を着ている男子や女子達がいて彼らも新入生っぽかった。
ここではミトリは、書道部に入った。字を書き気持ちを集中した。
字の見本を見て次から次へと書き出す。書いた物は新聞紙に挟める。学校の放課後でも家でもひたすら字を書き続けた。同じ手本で書くと、書けば書くほど慣れてきて前よりも少しうまく書けている気がする。
書いた次の日に乾いた字の半紙を新聞紙からすべて出す。それを自分で見て評価する。これは良いほうだと思う作品はとっておいて、あまり良くないと思う作品はゴミ箱に捨てる。
年に一度の学校単位で出している書道展に向けて、練習している。
しかし、ここの書道部は活動が緩く、何事ものんびりしたいミトリは楽だった。
そうこうしているうちにミトリは書道の魅力にはまり、書道を徐々に極めて行き、
今は書道の先生として、生活している。
35歳独身である。男はこりごりである。