第8話 では、次にやることはおべんきょ一択です。
前回のあらすじ:お風呂完成、とりあえず人心地が付いたね。
出来上がったお風呂は非常に好評で、夕食後における毎日の習慣として定着しているので作った甲斐があったというものだ。
今更だけど、石鹸などの消耗品はここには存在しない。仕入れようにもお金がないのだ。それ以上に、いきなり石けんなどを欲しがってしまうと何か勘ぐりされてしまうのも嫌なので、自分たちで手に入れる他ない。
頼りっぱなしで申し訳ないけど、マーブル達に頼むしかない、って、マーブル達石鹸とか知ってるのかな? 俺と一緒にいるときはアマデウス印の聖水だったからそういったものは不要だったんだよね。
じゃあ、俺も探すのを手伝いますかって言いたいけど、いかんせんまだ3歳ちょっとのちびっ子である。孤児院のみんなには普通の子じゃないという認識が広まりつつあるとはいえ、流石に許可は下りないだろう。実際許可もらおうとしたら反対されたしね。
という理由で、石鹸等の問題は森への探索許可が下りるまでは保留ということで。それ以前に、そういえば俺、石鹸の原料とか、石鹸の役割として使える植物って知らないんだけど。よく他の転生もので出てくるムクロジだっけ? 見たことないんですけど、、、。
ということで、俺にも仕事が発生したというわけです。俺の仕事はお湯の温度管理と孤児院のみんなの洗浄である。洗浄自体は水術を使えば楽勝なんだけど、人数が、ね、、、。
当初の計画では、狭いのでグループ分け、もしくは各個人で入浴する予定だったけど、一々個別に洗浄するのは非常に面倒くさいので、予定を変更して全員一緒です。まとめて洗浄、洗い終わったらしっかり乾燥もしますよ。アフターサービスもバッチリです。
こうして立派な浴場ができあがったので、次はこの孤児院の修復と改修作業である。
今度はすんなりと受け入れられた、というか、むしろお願いしますとまで言われた。フフフ、どうだ、マーブル達は凄かろう?
この作業はあっさりと完了した。というのも、材料を集めたのはそれも含めてだし、日頃この施設を見ている+何より小規模だから。
それでも材料が余りそうだったので、机や椅子などの備品をレベルアップしてみた。もちろん見栄えを悪くする細工も忘れない。
それでも見る人が見れば違いがはっきりわかってしまうと思うけど、それがわかるランクの人がここに来るとは思えない。精々位だけは高いけど見る目のない人物だろう、それも1年に1回来るかどうか。
レベルアップした机や椅子を見て、プーカとワンタは大喜び。ミィコは、複雑な表情をしてたよ、、、。
頑丈になった孤児院を見て、シスター2人も大喜びだったよ。まぁ、バレないようにボロっちく見せる作業に入ったときは勿体ないという目で見てたけどね。
これで孤児院の建物については完了したので、次の段階を進めたい。
「というわけで、みんなでおべんきょをがんばりましゅ!!」
「ミィ!」「キュゥ!」「ピィ!」
とある日の朝食を食べ終えた俺達は、いつも通りみんなの前で右腕を突き上げ、正面に並んだマーブル達も同じように右腕を突き上げる。ちなみにアクアとマヌールは不参加ね。
いつも通り唖然とする獣人3人。シスター2人も唖然としているかと思いきや、ハイハイ、いつものこと、と言わんばかりに冷静であった。
「アイスちゃん、お勉強を頑張る、と言ってくれたのは嬉しいけど、何でいつも唐突に、というわけで、が最初に出てくるの!? 理由全く聞いてないんだけど!?」
「ボクのなかでは、りゆうがありましゅ。」
「いやいや、アイスちゃんの中では理由があっても、いきなり言われるこっちは全く聞いてないからね。」
「そうなんでしゅけど、こうしないと、つっこみがでてこないから、、、。」
「・・・一々ツッコミを期待しないでね、、、。で、アイスちゃん。もう、読み書きはできるようになったんだよね? ということは、アイスちゃんもみんなと一緒に計算の勉強を始めるってこと?」
「そうでしゅ! けいさん、だいじでしゅ!!」
「アイスちゃん、あまり聞きたくなかったけど、実はアイスちゃん、計算できるよね?」
「はい、できましゅよ!」
俺のこの発言で、何度も転生しては一緒に過ごしているマーブル達は当然、といわんばかりに頷いている。シスター2人は、ああ、やっぱりか、といった驚きと呆れが混ざった感じ。
しかし、獣人3人はとても驚いていた。当たり前か。特に頭は悪くない癖におべんきょが苦手っぽいミィコは「ズルイ」だの、「納得がいかない」だのと騒いでいた。まぁ、これは論より証拠ということで、俺も一緒に参加しての勉強の時間となった。
3人はいつもの席に座り、俺は新たに用意された席に座った。俺だけ小さいので3人の席より低く作ってある特注品である。マーブル達が作ってくれたやつだからタダだけどな!!
俺が座ると、左肩にマーブルが、右肩にはジェミニ、頭の上にはライムが乗っかり配置完了。今日の先生はシスターアリサである。
「・・・アイスちゃん、そんな状態で大丈夫なの?」
「ハイ、だいじょぶでしゅよ。」
「そう、ならいいけどね。じゃあ、始めるわよ。プーカ君はこれ、ワンタ君はこれ、ミィコちゃんはこれね。アイスちゃんは最初にこれを解いて頂戴。それから判断するわ。」
それぞれに計算問題が描いてある紙が配られた。
「あ、そうだ、アイスちゃんは初めてだから、ペンを持ってなかったわね。これで描いて頂戴。」
ペンを渡されたけど、鉛筆ともインクを使用したペンとも異なるものだった。これで書けるの? と思いながらペンを眺めていると、
「フフッ、アイスちゃんも驚いたようね。これはこの計算用紙だけに字が書ける魔導具なの。とがった部分で字が書けて、逆の部分では字を消せるの、凄いでしょ?」
「おお、それはしゅごいでしゅね!!」
素直に感心した。これらの紙限定とはいえ、字を書いたり消したりできる魔導具に。マーブル達も「おおっ」と言わんばかりに驚いていた。・・・密かにこんな魔導具がこの孤児院にある、という事実の方が驚きが大きかったけど、、、。
「アイスちゃん、言いたいことはわかるわ。これって昔からある魔導具だから、ここにもあるってわけ。」
・・・なるほど、理解した。理由もわかったところで始めますかね。
問題内容についてだけど、1桁同士の足し算でした。流石に余裕ですよ。ただアラビア数字じゃないからその点は気をつけないとね、、、。
ちなみに問題数は10問。10秒以内に終了。
「おわりまちた!」
右手を高々と挙げて、終了アピールをする。マーブル達は、俺が問題を解き始めると同時に下りて部屋から出た。とある道具を作るための材料集めである。
「あら、早いわね。・・・うんうん、全部正解だね。じゃあ、次はこれを解いて頂戴。」
すぐさまシスターアリサが確認に来て、次の問題用紙を渡してきた。次の問題も楽勝だった。
・・・問題も簡単だったので、次々に問題をもらっては解き、終わると次の問題をもらう、わんこそばならぬわんこ計算問題? の様相を呈していた。気がつくと、シスターアリサが、
「アイスちゃん、、、。計算ができるって何となく思ったけど、ここまでできるとは思わなかったわ。ここにある問題全部終わっちゃったわよ、、、。」
「あれまぁ、、、。」
「折角だから、みんなに解き方とか教えてあげられないかしら? 実は私達、一応ここにある問題は解けるけど、上手く説明できないものもあるのよね、、、。・・・がっかりした?」
「がっかりなんてしてましぇんよ。ひとにはできることとできないことがありましゅ。ボクだってできないこと、たくしゃんありましゅよ?」
シスターアリサが恥ずかしそうに言ったが、できないものはできない、それでいいじゃない。これからできるようになればいいだけ。
それよりもそのことを正直にこんな子供に告げられる度量、それ以上にそれでも孤児院の子達に勉強を教えようとするその姿勢に尊敬の意を禁じ得ない。
「というわけで、これよりけいさんのやりかたをせちゅめいしていきましゅ!」
席を下りてみんなの前に出て、いつも通り右腕を突き上げて言った。・・・あ、ちょっと虚しい。いつもは乗ってくれるマーブル達がいないんだっけ、、、。いつもは他の人はポカーンとするだけなのだが、しかし、今回は違った。
「「「おー!!」」」
何と、獣人3人がペンを持ったまま右腕を突き上げて応えてくれたのだ。ミィコは若干ためらいがあったけど、乗ってくれたのは素直に嬉しい。
指導を開始してわかったことは、3人とも進捗状況は異なっていたけどどの子もしっかり理解できているかといえばそうではなかった。基本ができていないのだ。プーカやワンタは3桁の足し算引き算はできていたが、時間はものすごくかかっていた。ミィコは2桁が精々だった。
ということで、まずは基本中の基本である筆算から取りかかった。筆算のやり方を説明して、実際に解いてもらったところ、計算速度が向上した。3人とも1桁はしっかりできるので、筆算を覚えてしまえば簡単なのだ。
3人に筆算を使って解いていってもらっていると、シスター2人も自分で机と椅子を持ってきた。
「アイスちゃん、私達にもそれ、教えてくれない?」
「いいでしゅよ。ってか、このやり方ってしらないんでしゅか?」
「知らないわね。少なくとも私達は教わったことはないわね。」
「そうね、私も知らなかったわ。」
ありゃ、筆算って浸透してないのか、、、。道理で計算がうまくいかないわけだ。
しかし、何だかんだ言っても、流石は大人である。すぐにコツを掴んで計算スピードが上がっていった。
こんな感じでおべんきょのお時間は終了。みんな疲れ切っていたが、その顔はやりきったという満足感が溢れていた。こちらとしても、素直に教えたとおりに解いてくれていたので、上達も早かったので満足である。
こちらもやりきった感満載の表情をしていると、シスターアリサが聞いて来た。
「アイスちゃん、もし、なんだけど、かけ算とかできる?」
「できましゅよ?」
「もしよかったら、教えてくれない? 私達もわからなくて、、、。」
「いいでしゅよ。明日からでいいでしゅか?」
「ええ、お願いね。」
次の日はかけ算を教えた。日本では、かけ算はほぼ全員できるが、外国ではかけ算ができる人の割合は非常に少ない。というのも、日本の教育レベルが高いのもあるけど、何よりもかけ算においては「九九」というチートなやり方が存在するからである。
他の国では「1」は「1」である。どういうことかというと、例えば英語では「ワン」であり、「ワン」以外の読み方は存在しない。回りくどい表現を使えば一応存在こそするけど、基本的には言い方は一つである。
しかし、日本語では「いち」だけでなく「ひとつ」など、数1つとっても様々な読み方が存在する。それを利用した語呂で覚えるやり方がこの「九九」なのである。
とはいえ、この世界ではもちろん日本語のようにいろいろな読み方が存在するわけではなく、英語のようにほぼ1つの読み方で固定である。じゃぁ、どうするかといえば、百マス計算でつかうような表で説明していくつもりである。
手応えとしては上々であった。九九もそうだけど、俺個人的には、かけ算の基本は暗記だと思っている。暗記の基本は繰り返しこなすことだと思う。英単語もそうだけど、いろいろな覚え方が前世でも動画でいろいろ出ていた気がするけど、結局数をこなさなければ覚えないところでは一緒だ。
幸いにしてシスターの2人も、獣人の3人も基本はまじめにこなすタイプである。ミィコは飽きっぽいところがあるとはいえ、計算能力が向上しておりやる気に満ちているのでしっかりやってくれている。これなら思ったより早く理解してくれると思う。
ある程度理解できたら、とある道具を使ってやってもらいましょうかね。
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