第2話 では、やる気を出していきますか。
前回のあらすじ:転生したけど1人だけだったからやる気全く無し。
・・・暇である。いくら無気力状態だからとはいえ暇なものは暇なのである。赤ん坊の状態で転生したのは初めてだし、そもそも最初の人生における赤ん坊の記憶なんてものはあるはずがない。一部の天才であれば赤ん坊の記憶があったとしてもおかしくはないが、こちとらいくら自分を過大評価してもせいぜい中の上が関の山である。
・・・そういえば、様々な転生をしてきたが何もファンタジー満載の世界ばかりでは無い。今の地球と同じような世界にも転生したこともあったな、確か。そのときに一番興味を持ったのが武術系の動画だったりする。・・・美味いメシ? もちろん興味はあったからガッツリ覚えたよ。
その武術系動画で身体操作の練習について触れていたのを思い出したので、折角暇なので試してみることにした。確か、中心軸を意識して寝る、だっけかな。これであれば、寝ることしかできない俺でも練習できる。どんなに素質がなくても、これならガッツリ時間を潰すことが出来る。ということで、レッツスタートである。
参考にさせてもらうのは、数百年前から一子相伝の古武術を受け継いでいる方で、確か名前はレインパレスさんだっけ。とりあえず寝ている状態で姿勢を作る説明があったのはこの方の動画だけだったな。当人のチャンネルじゃなくてコラボの方の動画だったけど、、、。他にも参考にしたいものは沢山有るので、それは追々やっていくとしますか。
この修行を始めてから1ヶ月が経過した。最初の数日はさっぱり訳がわからなかったが、日を追う毎に何となくわかってきた。はっきりとわかってきたのは2週間くらいかな。
日課の日向ぼっこで、シスターアリサが俺を抱え上げようとしたときだった。いつもならあっさりと抱え上げられるところ、その日はあっさりとは無理だったのだ。もちろん、赤ん坊だからスクスクと成長しており体重も重くなっているのだが、もちろんシスターもそれは理解しているだろう。けど、それ以上に重みを感じている様子だったのだ。
修行の成果がしっかりと現れてきたので嬉しくなって思わずニッコリとしてしまったようだ。シスターアリサはあり得ない手応えよりも別のことに驚いていた。というのも、重くて持ち上げられなかったことよりも俺が笑った、ということに驚いたようで、孤児院内では大騒ぎになってしまったのだ。
その日以来、俺とシスター達の持ち上げ対決が幕を切って下ろされた。・・・言うまでもなく俺の全敗である。いくら持ち上げづらくなったとはいえ、所詮は赤ん坊である。その重さはたかが知れている。その上シスター達は日々肉体労働を始めとした様々な作業をこなしており、見た目は普通っぽくてもパワーはそれなりにあるだろう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなこんなで数ヶ月が過ぎ、ついにハイハイができるところまで成長した。ようやく自分で好きに動くことができるようになったのだ。流石に外出こそできないが、動き回れるのとそうでないのとでは雲泥の差がある。何より修行できる種類が増えたのは大きい。
いくら暇つぶしになるとはいえ、寝る姿勢だけをひたすら行うのはきついのだ。それこそシスターとの対決方式にしなければあんなに姿勢作りなんてものはできはしなかった。生憎動画で出てきた達人のようなストイックさは持ち合わせていないのだから、、、。
姿勢も大事だが、筋力もつけなければならない。ということで、同じハイハイでの移動でも、姿勢を意識しながらのハイハイと筋力をつけるため形もクソもないハイハイの2種類を修行の項目に加えて日々練習を繰り返している。
ちなみに、この孤児院のベッドはそれほど高さがあるわけではないので簡単に床に下りることができるからこそ、こんなことができている。降りたら上れるかって? 無理に決まっているじゃないですかぁ。そんなときこそシスター達の出番ですよ~。まぁ、シスター達だけじゃないけどね。
そういえば、他の孤児の3人も俺のお世話をするようになってきた。今までは一切笑うことがなかったので、不気味に思われていたかもしれない。今は修行が楽しく笑う機会も増えてきたので俺に構うようになってきたんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さらに1年が経過し、俺もついに歩いたり走ったりできるようになった。ということは修行項目も増えたということである。とはいえ、まだまだ満足に動ける状態ではないので、出来る範囲での行動ではあるのだけどね。
また、動き回れるようになったことにより、好きなときに日向ぼっこができるようになった。とはいえ、孤児院の敷地を出るようなことはしない。物騒だからだ。生きることに執着してないとはいえ、自殺願望があるのかといえばそれはない。何よりシスター達や孤児の3人に迷惑をかけたくないからだ。いくら無気力とはいえ恩を感じる程度の心は持ち合わせているつもりだ。
動き回れるから動き回るけど、その分疲れるのも早いものである。修行も兼ねているのでそこは遠慮なくスタミナを使い切っている。疲れ切ったら寝る、起きてスタミナが回復したら再び動き回ってまた疲れ切って寝る、そんな日々を過ごしていた。
いつもはこれだけ寝ても夜もしっかり眠れるのに、その日の夜だけは寝ようと思っても眠れなかった。じゃあ、修行すればいいじゃん、となりそうだけど、流石に夜に動き回るわけにはいかない。他のメンバーは眠っているのである。
幸いにして俺が寝る部屋はシスターと俺の2人だけである。残りの4人は隣の部屋で寝ている。また、シスターと一緒に寝ているわけではなく別々のベッドで寝ており、距離もある程度離れているためこっそり降りても大丈夫である。もちろん、もう上ることだってできるので静かに行動しさえすれば問題無い、はず。
この辺は今までの信頼?関係があるのだ。夜泣きはしない、無駄に出歩かない、という赤ん坊にしてはほとんど手の掛からなかったという積み重ねがあったからこそである。
部屋を出て食堂へ移動する。何故食堂かというと、何となく外の様子が気になったからである。入り口は今の時間は閉めてあるので外へは出られない。他の部屋は礼拝堂と他のメンバーが寝ている部屋とトイレぐらいしかない。外の様子が気になったとして何故食堂なのかというと外の景色が見られるのが食堂だけで、他の部屋は窓すらない。食堂に窓があるのは換気ができるようにしてあるからだ。
ということで食堂に到着。早速窓へと移動する。
窓を少し開けて外を眺める。上空にたくさんの星が見えた。そういえば、転生してからこうやって夜の景色を見たのは初めてかもしれない。夜空に輝く宝石の数々にしばらく魅入っていた。
しばらくボケッと眺めていると、何となく声が聞こえてきた。・・・これは猫の鳴き声だ。しかも子猫の類いだろう。
今度はこの可愛らしい鳴き声に聞き入っていたが、その声が段々と大きくなっている。こちらに近づいてきているのだろう。窓から星は見えても残念ながら地面は見えていなかった。赤ん坊に毛が生えた程度の身長では致し方なし。
ぼんやりと聞こえていた美声は次第にはっきりと聞こえてきて、やがて窓の淵に飛び乗ってきてその姿が目に入った。
窓の淵に乗ったのは3体。1体は声の発生源である子猫。典型的な茶虎の猫だった。もう1体は白銀のようにうっすら輝いているウサギ。もう1体は薄い緑色のスライムだ。
・・・控えめにいって、可愛い。何か入りたそうにしていたので、窓をさらに開けると3体は順番にこちらに入って来るや否や飛びついて来た。猫とウサギの何というモフモフ、何という心地よさだろう、、、。スライムも負けていなかった。素晴らしきモチモチプルプル、、、。
・・・ん? この何者にも代えがたい感触、どこかで、、、。そうだ! 思い出したぞ!!
この猫はマーブルだ! ウサギはジェミニ、スライムはライムではないか!!
「マーブゥ、ジェミィ、リャイムゥ、、、。」
思わず出てきた言葉に3体は嬉しそうに私の周りを走り回っていた。
・・・そうか、俺が転生したこの世界にこの猫達も来てくれたんだ、、、。嬉しさのあまり目から涙があふれ出ていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しばらくして心も落ち着いてきたので寝室に戻る。もちろんマーブル達も一緒だ。「うんしょ」、と自分のベッドに上って横になる。マーブルは左肩の辺りに、ジェミニは右肩、ライムは頭の上の場所のそれぞれ陣取る。うん、いつもの場所だ。積もる話もあるけど、今の私は満足に言葉が出てこない。それ以前にこんな夜中に喋るわけにもいかないけどね。
『アイスさん、こうすれば話ができますよ!』
!? 何!? 念話なの!? いつの間にできるようになったの!? 凄いね! で、この声はジェミニだね。ジェミニだけできるようになったの?
『あるじー、ボクもできるよ=』
『ミャー!』
あれ、ライムもマーブルもできるんだ。って、私はこれで大丈夫? 声聞こえてる?
『大丈夫ですよ。バッチリ聞こえてますよ!』
『だいじょうぶー。』
『ミャー!』
いやー、まだ成長途中だからコレは助かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
マーブル達といろいろな話をしたが、マーブル達も大変だったんだねぇ、、、。いろいろとあったけど、こうして俺の所に来てくれた、それだけでも凄く嬉しいよ。正直、今回の転生はどうでもよかったけど、こうして3人とも来てくれたんだから楽しまないとね。これから3人ともよろしくね。
ついにマーブル達と合流しました。合流するまでに話を引っ張るのは個人的に好きではないのでアッサリと合流してもらいました。