狂科学者、「フハハハ、最強の生物が完成したぞ!」と大笑いするも、その最強生物に自分が襲われてしまう
数々の機械が置かれた研究所にて、白衣を着た老齢の男が生き生きと狂気的な笑い声を上げていた。
「フハハハハ……! ついに……ついに完成したぞ!」
男の名はジスト。
自ら研究所を建て、長年に渡り“最強の生物”を造ろうと研究を重ねてきた。
そして、ついに完成の日が訪れたのである。
ジストの目の前にある培養液で満たされた巨大なカプセルの中には一体の怪物が眠っていた。
全身毛むくじゃらで筋骨隆々、鋭い爪を持ち、口にはそれ以上に鋭い牙が生えている。
ジストがカプセルの外のスイッチを押すと、怪物が目を覚ます。
「最強の生物が完成したぞォ!!!」
このジストの歓喜の声に呼応するように、怪物は内部からカプセルを割って外に出る。
「おおおっ、凄まじいパワーだ!」
怪物は身長3メートル以上の巨体を誇り、ジストを見下ろす。
その眼光は爪と牙以上に鋭かった。
ジストはそれを見上げながら、にんまりと笑う。
「素晴らしい……!」
ジストがこの研究を始めてからおよそ十数年。ようやく結果が実った。
“強い”とされるあらゆる生物から遺伝子を採取し、それを最適な割合で組み合わせて生命を造ろうとする、まさしく狂気といえる研究だった。
失敗に次ぐ失敗。なかなか生命体はできあがらなかったが、やがて一体の生命体が誕生し、ジストは根気よくそれを成長させた。
それが、この怪物なのである。
「フハハハハッ! お前のことは“ダズマ”と名付けよう!」
怪物の名前が決まった。しかし、ダズマは――
「ナゼ、アナタハ……ボクヲ、生ンダ……?」
「ん? おお!? もう喋れるのか!? すごいぞ、ダズマ!」
「答エロ……。ナゼ、ボクヲ生ンダ……?」
どこか悲しげなダズマの問いに、ジストは楽しそうに答える。
「そんなもの、戦ってもらうために決まっているだろう! お前は生まれながらにして最強であり、戦うための生き物なのだから!」
この答えにダズマは怒りの形相を見せる。
「ソンナ下ラナイコトノタメニ……ボクハ生マレタ、ノカ」
「下らない? 何を言う、人類の歴史は戦いの歴史といっても過言ではない。崇高な使命ではないか!」
ダズマは失望したように首を横に振る。
「モウイイ……。ボクハ、アナタニ従ウツモリハナイ……」
「なに?」
「アナタヲ、殺シテ……ボクモ……死ヌ!」
「なっ!?」
「ガアアアアアッ!!!」
目覚めたばかりの怪物が反逆を起こした。
ダズマは鋭い踏み込みから、右拳を凄まじいスピードで振り回し、それをジストの体に叩き込んだ。
戦車すら破壊できるほどの威力であり、ジストの命はこの一撃で失われ――
「ふふ……」
――てはいなかった。
「!?」
「なかなかよかったぞ、今の一撃」
ジストがニヤリと笑う。
「ソ、ソンナ……確カニ命中シタハズ」
「どうした? 私を殺すんじゃなかったのか?」
「ウ、ウオオオオオオッ!!!」
挑発され、ダズマはジストに何度も拳を叩き込むが、まるでビクともしない。
ついには無意味を悟り、攻撃を止めてしまう。
「ナゼダ、ナゼ……?」
ジストは微笑む。
「お前の攻撃は効かない理由は、こういうことだ」
ジストは白衣を豪快に脱ぎ去り、上半身裸となった。
そこには逞しい肉体が備わっていた。鋼の肉体、などという言葉では生温いと感じてしまうほどに、頑強に精密に鍛え抜かれた肉の集合体であった。
ダズマは絶句してしまう。
「確かにお前は最強だ……。私を除けば、の話だが」
「アナタハ……イッタイ……?」
ダズマの問いに、ジストは静かに答え始める。
「私は格闘家だった。己の肉体を鍛え上げ、技を磨き、強靭な精神をも身につけた。私はあらゆる格闘技に参戦し、勝ちまくった。ボクシング、柔道、空手、ムエタイ、レスリング、テコンドー、サンボ……この世に存在する全ての格闘技で頂点を極めてしまった」
ジストはうつむく。
「しかし、やりすぎた。私はどんな格闘団体からも相手にされなくなり、出禁にされてしまった。皆から避けられ、試合はおろか組手もできず、孤独にトレーニングする日々に戻ってしまった」
頂点に立ったジストを待っていたのは栄光ではなかった。
「ならばと、私は戦場に舞台を移した。どこかの国とどこかの国が戦争をしていたら、すぐに参戦して、私は自分の強さを見せつけた。だが、私が両軍を壊滅させる勢いで暴れるので『君がいると戦争にならなくなる』と苦情を言われ、やはり出禁に。今や、『戦争するとジストが駆けつけてくるから、戦争をやめよう』と世界は平和になってしまった」
自分の強さを持て余す日々が続いた。
「しかし、ある日ふと思い立ったのだ。ならば私の相手をできる強者を作ればいい、と」
こうしてジストの研究は始まった。
自らに匹敵する格闘技者を、いや自らを超える“最強の生物”を造ろうと――
ライオンや虎、ゾウ、果ては小動物や昆虫にいたるまで、強い生物から皮膚や体毛などを採取し、実験を繰り返した。
「そして、ダズマ……お前が完成した」
「ソウダッタノデスカ……」
ジストは目を逸らす。
「しかし、これは所詮私の独りよがりだったのかもしれんな。私は自分のことばかり考えていて、生まれてくる生物のことをまるで考えていなかった。本当にすまない」
「……」
「ダズマ、お前は自由だ。戦う必要などない。どこへでも行くといい」
だが、ダズマは――
「イイエ……」
「え?」
「ボクヲ強クシテ下サイ」
「ダズマ……」
「アナタノ孤独、ボクガ解消シテミセマスッ!!!」
「ダズマッ!!!」
強者同士、二人の心が通じ合った。
こうしてジストとダズマのトレーニングが始まった。
「まずはジョギング100キロだ! 肩慣らしとして100メートル9秒ペースで走るから、ついてこい!」
「ハイッ!」
「ミット打ちだ! 私が作ったこの特製ミットに、秒間100発拳を打ち込め!」
「ハイッ!」
「組手するぞ、ダズマ! 私を親の仇だと思って手加減はするな! 生みの親だけど!」
「ハイッ!」
ジストは容赦なくダズマを鍛え上げ、ダズマもそれに懸命についていった。
***
それから三年が経った。
ジストと人造生物ダズマは研究所内のリングでスパーリングをしていた。
「でやぁぁぁぁぁっ!」
ダズマの猛ラッシュをかいくぐり、ジストのボディブローが炸裂。
内臓まで響く一撃にダズマが膝をつく。
「ぐうっ……!」
「成長したな。私相手に5分も持つなんて」
ジストが優しく手を差し伸べると、ダズマが笑う。
「僕も成長してるはずなんですが、まるで追いつける気がしませんよ」
ダズマの知能も発達し、言葉が流暢になっている。
「なんの。焦らずともいい。確実にお前は強くなっている」
すると、ダズマは――
「ありがとう、父さん」
「……!」
ジストは目を丸くする。
「お前は……私を父さんと呼んでくれるのか?」
「はい……」
「息子よッ!」
二人は互いの体を抱きしめ合った。
創造主と造られし者という関係だった二人は、今ここに真の親子となったのである。
それからしばらくして、地球に災厄が訪れる。
なんと宇宙から巨大な怪獣軍団が飛来したのである。
戦車、戦闘機、戦艦、ミサイル、あらゆる兵器が通じない怪獣らに、人々は恐れおののき、絶望する。
ところが、そんな絶望の群れに立ちはだかる二人の男がいた。
白衣を着て、老齢ながらますます肉体は漲っている科学者ジストと、その“息子”ダズマであった。
「これはなかなかいい稽古ができそうな相手だなぁ、ダズマよ」
「うん、こいつらを倒したら、パンケーキでも食べに行かない? 父さん」
「それもいいな。さあ怪獣どもよ! 最強の親子が相手になるぞ! 心してかかってくるがいい! フハハハハハッ!!!」
高笑いしつつ、息子ダズマとともに怪獣を次々にノックアウトするジストは、ダズマを完成させた時とは比べものにならないほど生き生きとしていた。
おわり
お読み下さいましてありがとうございました。