所詮は田舎者だということで
次の更新は来週の水曜日です。
頭部は衝角……軍艦とかに付けられた体当たり用の固定武装に似た装飾のついた冑、所謂衝角付冑、後頭部や首周りを守るために垂らした帯状の鉄板、所謂錣、頬当、胴回りは小さな板を革や糸で上下に結び合わせた小札甲を身に着けて。
膝回りや脛にも小札製の佩楯や脛当、肩甲をかけた両腕には籠手が付けられている。
武装は太刀と弓。背中には矢を収めた箙を背負う。
まさに教科書に載っている埴輪だ。
土偶というのは同じく土で出来た人形ではあるけれど、まず見つかる遺跡の年代が違う。
それから見つかる場所も違ってて、土偶は集落遺跡辺りで見つかり、埴輪は副葬品として古墳から見つかることが多い。
他にもあるけれど簡単にいうと違いはこんな感じだろう。
上空を通り過ぎて行ったそれに、萌木さんは唖然としてる。しかし、だ。こんなのは序の口で。
四季島市市民運動場の上空にピタッと止まったキビツヒコは降下を始めた。そして地面に足を付けると背中の箙を外す。あれが飛行ユニットのカモフラになってるのは一応内緒だ。
大きさ19.7メートルの埴輪は、その体長から想像できるより遥かに軽やかに地面に立ったお蔭で風圧もない。
そしてカッとキビツヒコの全身が輝く。
「え!? え!? なんですか!?」
驚いた萌木さんが、キビツヒコから放たれる光に眩しそうにしながら叫ぶ。
「第一種配備なので今から戦闘モードに移行します」
「戦闘モード!?」
「はい」
というか、埴輪の姿自体がカモフラージュ姿というべきかな。
鬼道戦士だったころはたしかに埴輪だったんだよ、キビツヒコ。
でもそのまま運用するには強度とか、色々が現代の規格から考えると弱かった。
文化財として吉備津彦さんを保護しても良かったんだけど、鬼道戦士になったのは民を守るため。
吉備津彦さんは当時の貴種の出で、上に立つ者の責任感も意思も強かった。なので今の民は自分達が治めていた頃の民とは違うし、自分は現在では貴種でもなければ支配者でもないし、義務も責任もないといわれたとしても、やっぱり民を守るっていう役目を果たしたいって。
最早その「守ること」と、そのために「戦うこと」が、吉備津彦さんの存在意義になってしまっていたのだ。
意味なく目覚めさせられた上に、守る国も民もない。この上存在意義まで奪ってしまうのは……という人情と、その当時宇宙からの侵略が激化していたから巨大怪獣に対抗できる手段はなんぼあってもいいという実利が合致して、四季島市と国はキビツヒコを現代の規格に則って改修した……んだけど。
姿形がちょっと……その……埴輪から遠ざかっちゃったんだよね。
それにショックを受けた吉備津彦さんを慰めるために、埴輪の魔術ペイントを施してるんだ。
市のイベントとかに駆り出されるときは埴輪姿だから、皆戦闘モードの方が魔術でなんとかした姿だと思っている。けど実際のキビツヒコは戦闘モードの方が真の姿だったりするのだ。
これって地域包括不可思議現象対策課の職員になると教えてもらえる真実で、わざわざ公にしないのは吉備津彦さんのプライバシーへの配慮だったりする。
キビツヒコの発していた光が足元から消えていき、その代わりいかにもマシーンですよって感じの金属の足が出てくる。
キビツヒコの全体に使われている金属は日本原産のレアメタル・ヒヒイロカネと、ヨーロッパで産出されるアダマンタイト、それからオリハルコンが少々。
本来この三種の金属は混ぜても上手く融合してくれないんだけど、そこは錬金術と科学と魔術でどうにか。
コクピットは胸部にあって、かなり広い空間になっている。
操縦席はどこぞのマッサージチェアがそうだったんだけど円形になっていて、脱出装置が働いた場合ボールがキビツヒコの胸から飛び出してくる感じ。
そのボールの中に吉備津彦さんの魂が封じられているコアブロックも搭載されているので、機体が壊れても吉備津彦さんの魂が無事なら何度でもキビツヒコ自体は修復・再建可能だ。
キビツヒコの全身が素焼きの赤土から黒でペインティングされた金属に変わっていく。
「……あの、なんか、埴輪がロボットにかわっていくんですけど!?」
「アレがキビツヒコの戦闘モードですよ」
キビツヒコはそもそも人体の構造を古の魔術とカラクリで模してあるものを、現代の科学技術と魔術で補強している。
金属の身体でありながら、人間の肉体がごとくの骨格や筋肉、関節の可動域を持つ。
その姿は西洋の甲冑を纏った巨人、そんな感じに見て取れた。まあ、肌とかは金属だから機械機械してるんだけど。
因みに武装は色々あるんだけどビームランチャーや魔術剣、ナイフ、無線ビットなどが搭載されている。あとは最高機密なので職員の僕でも知らない。
そんなようなことを説明すると、萌木さんが何とも言えない顔つきになった。
「異世界、どんだけ……」
「平行世界の日本にはこういうものは無かったんですか?」
「アニメとか特撮ではありましたけど!」
「あー……、何処の世界の人間も想像することはさほど変わらないんですね」
「実現できるこっちは凄すぎるんですけど……!」
「そうですか? でもそれってこっちは魔術だの呪術だの巨大ロボットだのがいないと立ち行かないっていう現実があったからじゃないですかね?」
「そう、なんでしょうか?」
「そうだと思いますよ。人間の質がいいとか悪いとかはないです」
多分。
心の中で付け加えておく。
萌木さんの世界にもあった問題が、この日本にだってちゃんとある。
萌木さんのいたところより、少しこの地球全体が平和だとしたら、それは同じ人間だけが敵って訳じゃないからだろう。
宇宙からの侵略者なんていたら、人間同士或いは地球人同士で争ってる場合じゃない。魔族だろうが妖怪だろうが獣人だろうがエルフだろうがドワーフだろうが、同じ惑星に住んでる者として手を取り合って当たらないと。
だから同じ地球人同士で大きな争いをしないよう睨み合っているだけに過ぎない。
だって元々は皆動物。動物は弱肉強食だ。争い合うように出来ている。
『染谷君、風圧大丈夫?』
インカムから長嶋課長補佐の声が届いた。
それに「大丈夫ですよ」と答えたら、あちらからはそのまま結界を維持するように指示された。
どうも新たな情報が長嶋課長補佐のほうに入ったらしい。
『銀連から連絡があった。例の宇宙エリマキトカゲの件なんだけど、殺さずに捕獲して銀連警察に引き渡してくれって』
「二匹とも?」
『そう。密猟の重大物的証拠だからってさ』
「マジっすか……」
うへぇと肩をすくめると、インカムから同じく大きなため息が聞こえる。
それが僅かに聞こえていたのか、萌木さんがこちらを不思議そうな顔をしてみていた。
「銀連というのは僕ら地球が所属している銀河系惑星の連合体です。銀河連合、略して銀連」
「えぇっと……国連みたいな?」
「はい。それの宇宙版ですね」
「なるほど」
萌木さんが小さく頷く。
ほとんどの惑星は単一国家であるに対して、この地球は数少ない国家集合体。齟齬は色々あるし、銀河をまたにかけた犯罪は国連の宇宙対策部を通じて、地球の関係国家各々に通知される。
今回日本の宇宙航空管理局が国連の宇宙対策部を通じて、銀連に宇宙エリマキトカゲの照会をしていたところ、思いっきり銀河の外れの惑星が棲息地って判明したそうな。そして宇宙エリマキトカゲが保護対象稀少生物だったってことも。
さらに密猟が頻繁に起こっていて、つい最近二匹の宇宙エリマキトカゲがその惑星より連れ出されたって情報がようやくさっき届いたという。
これも銀河が広範囲だからで、太陽系がかなり中心部から外れているせいだ。
つまり地球ってところは広い銀河からすると田舎な訳だよ。
文明レベルは……頑張りましょうって感じだね。
僕の説明に、萌木さんはふわっと遠い所を見る目になった。
お読みいただいてありがとうございました。
感想などなどいただけましたら幸いです。




