番外編 運が良かった人々
「あ、茜? 勇斗? どこに行ったんだ!?」
「え? な、なにこれ……ここどこ!?」
日に焼けた肌に短い髪の美少年と黒髪を背中まで伸ばし薄く化粧をしている美少女が狼狽する。
少年の想い人と友人の姿は忽然と消え、いつの間にか古代遺跡の小部屋のような部屋に立っていたのだ。まだ小学校を卒業したばかりの彼らが気が動転するのも仕方のない話だった。
「さ、斎藤くん、ここどこなの!?」
「し、知らねぇよ! 杏里は知らねぇのか!?」
「知らないわよ!」
少年を斎藤と呼んだ少女が叫ぶ。
ここはダンジョンで、叫べば人を襲うモンスターを呼び寄せてしまう。そんなこと、普通の子供が思い至るわけもなく、むしろ口喧嘩にまで発展させてしまった。運が悪ければゴブリンが集まり、二人は惨殺されていただろう。しかし、二人は運が良かった。
「君たち、大丈夫かい!?」
スーツを纏った頭が寂しい中年の男性が二人に駆け寄る。
子供特有の甲高い声を聞いた彼は、この異常事態に子供も巻き込まれてしまったことに気付き保護しに来たのだ。
「だ、大丈夫……です」
「おじさんはここがどこかわかりますか!?」
大人の男性への安心感から、少し平静を取り戻す二人。
少女を宥めるように男性が答える。
「いや、おじさんにもわからないよ。だけど安心して、二人はおじさんが家に帰すから」
その言葉を聞いて完全に落ち着いた二人を見て、龍司は胸を撫で下ろす。
神隠しにあってしまったのは不幸だったが、子供を保護できたのは幸いだった。彼らを家に帰してあげたいし、愛する家族のもとへ絶対に帰らないといけない。そんなことを考える男性に、何かに閃いた顔をした少年が言う。
「これ、異世界転移じゃね?」
『異世界転移……?』
聞き慣れない単語に首を傾げる男性と少女。そんな二人に少年が続ける。
「知らねぇの? 漫画とかアニメのやつだよ!」
「ごめんね、おじさんはあまり見ないんだ」
「私も知らなーい」
二人の言葉を聞いて、少年が説明を始める。
話半分に聞いていた男性は、説明が一区切りついたのを見計らって口を開く。
「説明してくれてありがとう、よくわかったよ……それで、まずは自己紹介をしないかい? おじさんの名前は田中龍司というんだ」
「俺は斎藤慎太郎! サッカー部のキャプテンだ!」
「えー……私は桐生杏里、です」
自己紹介をした三人は、まずはこの場所を探索することにした。
三人が探索を始めてから一時間。
その間、ダンジョン化に巻きこまれた人々が徐々に合流していき、気が付けば十人の集団になっていた。
先頭を歩く龍司が呟く。
「まさかこの年になって、ヒーローのような力を手に入れるとはね……」
「ほほ、そのおかげで儂らは生きているのじゃから、良いことじゃろうて」
「そう、ですね……確かにそのとおりです」
杖を持って歩く老年男性の言葉に龍司は頷く。
探索の途中、龍司と老人、それと慎太郎の三人は超人的な身体能力を得ていた。そのおかげで凶器を持つモンスターから身を守ることができているのだが、龍司は体が改造されたようで気味の悪さを感じていた。
その気持ちを汲み取った老人──坂本太郎の気遣いに感謝した龍司は慎太郎を見る。
「このチートはほんとに凄いぜ! 体が羽のように軽いし力が漲ってる……この力があれば、絶対全国に行ける!」
「……そう、だな。お前なら行けるよ」
「おう、あんがとな勇斗! お前も早く覚醒するといいな!」
「……ああ! すぐに覚醒してやるよ!」
慎太郎と杏里の友人、久我山勇斗も早い段階で保護されていた。
チートに目覚めた友人に嫉妬して顔を俯かせていた勇斗は、慎太郎の言葉で前向きになる。
逸れてしまった友人はあと一人。学校のアイドル、佐竹茜だ。
想い人の絶体絶命のピンチに颯爽と現れる自分を妄想していた慎太郎がぼやく。
「しっかし、田中さんと坂本さんも『超肉体』に目覚めたのは残念だよなー。チートは被らないのがふつーだろ!」
「まあ、そうだよな……でもシンプルに強いし良いスキルだろ」
「そうなんだけどなー」
勇斗は心の中でほくそ笑む。
強いと言った自分の言葉に嘘はない。だけど、傍から見ても慎太郎のチートは龍司や坂本のチートよりも出力で劣っていた。
被っている上に劣っている。その事実が勇斗の薄暗い気持ちを落ち着かせた。
そんなこんなで探索を続ける龍司たち。
幸運なことに、力に目覚めて探索していた人や隠れ潜んでいた人たちと合流できた彼らは、最終的に二十五人に膨れ上がった。
「あれは……っ、見ろ! 出口だ!!」
通路の先に門を見つけた男性の言葉に歓声が上がる。
彼らのような運が良かった人々は、こうして無事にダンジョンを脱することができたのであった。




