第六話 門
謎騎士と戦った通路。その少し先にあった小部屋で俺たちは体を休めていた。
俺よりも小柄なシルヴィアさんにお姫様抱っこで運ばれた経験は一生忘れられないだろう。しかも、シルヴィアさんは重症を負っているのだ。不甲斐なさ過ぎて気絶しそうだった。
どこか複雑な顔をした茜と優しげな笑みを浮かべるシルヴィアさんの表情を頭からかき消して、俺は体に力が入るようになったことを二人に伝えた。
「よかったぁ……ほんとに、よかったよぉ」
「いや、その……本当にごめん。あの時俺がすぐに逃げてれば、茜もすぐに逃げれて怪我することもなかったのに」
「ううん、そんなことない! 逃げたところですぐに追いつかれて……シルヴィアさんが助けてくれなかったら私も、徹くんも……っ」
俺に抱きついて涙を流す茜の背中を擦る。見た目相応の幼い様子に胸が締め付けられた。
強力な『身体強化』があるからといって、つい最近まで小学生で、戦ったことも命のやり取りをしたこともない茜は心底怖かっただろう。鎧を血が出るほど素手で殴るのは、想像を絶するほど痛かったはずだ。そう思うと、怪我一つない自分が恥ずかしくて仕方なかった。
段々と落ち着きを取り戻していく茜に俺は囁く。
「二人とも生き残れたのは茜が頑張ってくれたおかげだ。だから、本当にありがとう。」
コクリと頷いた茜が離れる。
目が赤くなっているけど、もう涙は出ていない。もう何度も思ったことだけど、茜は本当にメンタルが強いな。
生暖かい目で俺たちが落ち着くのを待っていてくれたシルヴィアさんを見る。
「シルヴィアさん、おまたせしました」
「いえ、メンタルケアは大事ですから。気にしないで下さい」
「ありがとうございます……それじゃあ、今の俺たちの状況を説明しますね」
そうして俺は、シルヴィアさんに今日あった出来事を包み隠さず話した。
途中シルヴィアさんのわからない単語を補足したり、質問に答えたりして時間がかかる。だけど、頭の中を整理できたし良い休憩にもなった。
「──という感じでシルヴィアさんが魔法陣の上に現れて、俺たちを助けてくれたんです」
「話は大体わかりました……もう安心して下さい、トオル、アカネ。私があなたたちを町まで護衛します」
その包み込むような優しい声に恐怖が、不安が解けていく。
出そうになる涙を堪えて、俺は口を開く。
「あ、ありがとうございます。だけどその怪我、大丈夫なんですか……?」
「最低限治療してあるので大丈夫です。それに、あの鎧の魔物程度でしたら少量の魔力で勝てますから」
「そう、ですか……それじゃあ、護衛、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「はい、任せて下さい」
護衛の対価やシルヴィアの素性は考えないようにする。この状況で護衛を断る選択肢なんてなかった。
それから少しだけ会話し、探索を再開する。
俺の『召喚』や茜の『身体強化』、シルヴィアさんのこと、他にもたくさん疑問があったけど、それについては脱出してからゆっくり話すことになった。
儚い笑みを浮かべる彼女の表情を思い出して、頭を振って追い出す。気になるが今は探索に集中しよう。それに、シルヴィアさんにだけ戦わせるつもりはなかった。
金髪を尻尾のように揺らして歩くシルヴィアさんの背中を眺める。
わかっていたことだけど、彼女は信じられないくらい強い。魔法か何か使っているのか聞いてみたけど、ゴブリン程度に使うのは勿体ないと言っていた。つまり、道中倒した約二十体のゴブリンを剣技一つで瞬殺したのだ。
俺や茜が出る幕はなかった。
茜がシルヴィアさんにキラキラと尊敬の眼差しを向けている。そのことに複雑な気分もあったけど、それ以上に俺もシルヴィアさんへ尊敬の念を抱いていた。
「本当に凄いな……」
「はい、とてもかっこいいです!」
「ふふ、ありがとうございます」
冷たい印象を抱かせる美貌のシルヴィアさんだけど、穏やかな笑みのおかげで凄く親しみやすい。俺と同じくらいの年齢に見えるのに大人と話している気分になる。
もしかして……茜やシルヴィアさんが普通で、俺が子供染みているのか? いや、クラスメイトは俺と同じ感じだし、二人が特別大人びているだけだ。そうに違いない。
「徹くん、どうしたんですか?」
「いや、何でもないよ」
頭を振って気を取り直す。
余計なことを考えるべきじゃない、というのは頭ではわかっているけど気付いたら気を抜いてしまう。肉体的にも精神的にも限界だから、という言い訳はあるけど油断する理由にはならない。疲れているのは一緒で、むしろ怪我まで負っている茜が頑張っているのだ。これ以上、情けない姿は見せたくなかった。
気合を入れ直していると、視線を感じた気がして振り向く。
……誰もいない。一応シルヴィアさんにも探ってもらったけど何の気配もないらしい。完全に俺の気のせいだった。
「む、あれを見てください」
シルヴィアさんが指し示す先には白い光が差し込んでいた。
もしかして、と心臓が高鳴るのを感じる。茜も期待と不安を抑えきれないのか、俺の手を握りしめていた。
「行きましょう」
シルヴィアさんの声に頷く。俺も茜も無言だった。
出口かもしれない期待とそれを裏切られる不安でいっぱいいっぱいで、声が出なかったのだ。
駆け出す体力ももう残っていない。頼む、出口であってくれ……!
光が差す十字路を右に曲がる。
その先には高さ二メートルはありそうな門があった。
『……え?』
俺と茜の声が重なる。
門の先に、ドラマで見るような進入禁止のテープが貼られているのが見えた。
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