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第十三話 久しぶりの学校



 朝はランニングと魔法の訓練、昼と夜は素振りと稽古と魔法の訓練といった生活を送り始めて早二週間。

 筋肉痛が酷くて魔力操作や聖騎士魔法の練習がメインになってしまったけど、筋肉がみるみるついていくのを感じる。少しずつ稽古や素振りの時間も増えてるから、この調子で頑張りたい。


 ランニングを終えて以前の二倍は朝ごはんを食べ、少しふらつく体で学校の準備を終える。

 今日は学校再開の日だ。俺としては魔法の勉強の方が何倍もしたかったけど、両親に学校は行けと言われてるから休めない。これ以上二人にわがままを言うわけにもいかないからな。


「いってきます!」

「いってらっしゃい、トオル」

「車に気を付けてね~」


 俺はシルヴィアとお……母さんの言葉を背に玄関を出た。






 久しぶりの学校は以前と対して変わらなかった。

 変わっているのは教室内の空気だけ。クラスメイトたちはみんな、興奮した様子でダンジョンについて語り合っていた。


「おはよう」


 俺に挨拶を返して話に戻るクラスメイトたち。いつもよりぞんざいな挨拶だったことから、相当ダンジョンに熱を上げているのがわかった。


「よっ、徹。なんだか大変になっちまったな」

「おはよ、光彦。ほんとにね、夢みたいだよ」


 席についた俺の元に来たのは安外光彦(やすがいみつひこ)。至って普通の容姿に平均くらいの身長を持つオタク友達だ。小学生の頃からの付き合いで、俺は親友だと思っている。

 俺は教室を見渡して口を開く。


「チャットで散々話してるだろうに、みんなの話題はまだダンジョン一色みたいだな」

「当たり前だろ? 地球がゲームの世界になったんだぜ? しかも、ダンジョンが近くのショッピングセンターにできたんだ。どんなお宝が眠ってるかわからないけど、この街が栄えるのは間違いないしな」


 少し興奮している光彦の言葉に納得する。


 ダンジョンが出来たのは十九日前。

 その日から、全世界が血眼になってダンジョンを調査、攻略している。そのおかげで明かされた情報もたくさんあるけど、未だにわからないことの方が多いだろう。毎日新情報を報道されるのだから、刺激に飢えた人々が熱中するのも無理はないかもしれない。


 それに、日本人の多くがダンジョンを恩恵だと思っている。災害や人類の敵だと主張する人は少数だ。

 ダンジョンには人を襲うモンスターがいる。ダンジョン化に巻き込まれて死んだ人も大勢いた──だけど、ダンジョンは宝の山だった。


 北海道にできたダンジョンからは需要が高いコモンメタルが採れる。兵庫県には国が喉から手が出るほど欲しいレアメタルが、沖縄からは食べても問題ない野菜が採れるダンジョンができた。

 資源ダンジョンとネットで呼ばれるそれらは世界的に見ても珍しく、ほとんどが特に何も採れないダンジョンだ。だがしかし、普通のダンジョンがなんの利益も出さないわけじゃなかった。


 炎を纏える剣や嘘みたいに軽くて頑丈な全身鎧。

 飲めば若返る丸薬や欠損すら治すポーション。

 空が飛べるローブや謎の数値を測る腕輪。

 使用すれば超能力や魔法のような力に目覚めるカード。


 そんな、ファンタジーでオカルトなアイテムの数々がダンジョンの宝箱に眠っているのだ。

 新しいダンジョンが出来てほしいとすら考える人がいるくらいには、ダンジョンは人類に多大な利益を与えていた。


 心底不思議そうに光彦が呟く。


「しかし、ダンジョンってなんだろうな」

「なんだろうねぇ」


 俺も同じ気持ちだった。小説やゲームでは疑問に思わないことでも、やはり現実だと気になってしょうがない。


 もしダンジョンの先に真実が眠っていたとしても、現在三階層までしか探索出来てない人類がそれに辿り着くのは当分先のことだろう。自衛隊には無理しない程度に頑張って欲しい。


「やっぱ、ダンジョンに一般人も入れるようにするべきだよなー。危険なのはわかるけど、ダンジョンに入れば身体能力が向上するんだろ? スキルカードや魔法の武器だってある。だったら別に、軍人じゃなくても良いはずだろ」

「……そうだね。冒険者ギルドとかできればいいんだけど」


 俺は光彦の愚痴に同意する。


 今のところダンジョンからモンスターは出てきてない。それに、ダンジョン周辺の土地を国が買い占めて防衛基地の建設が進んでいる。そのおかげもあって、ほとんどの日本人がダンジョンに不安や恐れを抱かず、むしろダンジョンに入りたいと思う人間も多く出てきた。


 平和ボケしてるなと思う。でも、仕方ないとも思っていた。

 ゴブリンに嬲り殺された死体を見てないから。一階層のモンスターが弱いから。スキルカードで簡単に強くなれるから。

 だから、ダンジョンを侮ってしまうのだろう。


「──そこで驚きの新情報! 冒険者ギルド、創設されるぞぉ!」


 俺たちの会話を聞いていたのか、クラスのお調子者──佐川龍二(さがわりゅうじ)が俺の肩を組んで教えてくれる。

 龍二が見せてくるスマホを見ると、掲示板サイトに『冒険者ギルド創設!』と書き込みされていた。


「ソースはあるのか?」

「もちろんあるぜぇ」


 光彦の疑問に答えた龍二がURLをタップすると、ダンジョン庁のホームページに飛ぶ。

 そこに書かれていた情報は、確かに冒険者ギルド創設に関するものだった。


 俺は思わず呟いてしまう。


「嘘だろ……?」

「気持ちはわかるぜぇ。なんせ、頭のお硬い政治家が『冒険者ギルド』なんて名前をつけるとは思わなかったしなぁ」

「ああ、異空間門庁みたいな名前つけると思ってたぜ」


 龍二と光彦が小馬鹿にする。


 確かに、アナザーディメンションゲートや異空間迷宮と名付ける政治家がネット小説みたいな名前をつけるとは思わなかった。

 最近、オタク文化に詳しい政治家がダンジョン庁のトップになったと掲示板サイトで見た気がするけど、それが関係してるのかもしれないな。



 キーンコーンカーンコーン。



 チャイムが鳴る。俺が知らない情報があるかもしれないからもっと話したかったけど、昼休みまでお預けだ。

 先生が教室に入ってくる。


「みんなおはよう。ホームルーム始めるから席につけ。他クラスの生徒は自分のクラスに戻りなさい」


 疲れてるからか授業が憂鬱だからか、急に眠くなってくる。

 だけど、勉強も頑張ると決めたんだから眠るわけにはいかない。俺は先生の言葉を話半分に聞きながら手の甲を抓った。



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