第十二話 買い物
「魔法使いが弟子を取るとき、自身と同じ属性であることを重要視する人もいます。弟子の魔力を操作できると魔力操作や魔法の習得がしやすいからです。そして、魔力操作ができることを重要視する人もいます」
非魔法使いがよく勘違いすることの一つに、魔法使いは全員魔力操作──魔力を認識し操作できる才能──できるというものがある。実際には、魔力を操作しなくても発動できるタイプの魔法がたくさんあるとシルヴィアは言う。
「トオルは私と同じ青属性で魔力操作の才能もある。魔法を学ぶ上でかなり好条件と言えるでしょう」
「おお!」
魔法が使えれば嬉しいな程度に思っていたのに、まさか俺に魔法の才能があったとは……これは希望が持てるぞ。
興奮を抑えられない俺を見てシルヴィアが諭すように言う。
「私が教えられるのは聖騎士魔法だけです。そして、トオルは聖騎士魔法を使えない可能性が高い。一応教えますが、あまり期待しないでくださいね」
「わかりました。でも、強くなれる可能性が少しでもあるなら、俺は全力でやります」
「ふふ、良い心掛けです」
……少し褒められただけで嬉しくなる俺は、もしかしたら本当にチョロいのかもしれない。
「ではまず、魔力操作の訓練をしましょう」
「はい、よろしくお願いします!」
魔力操作の訓練を終え昼ごはんを食べた後、俺たちはお母さんの車で服屋に来ていた。
家の近くの服屋はダンジョンが近いせいか閉まっていた。だから少し遠くの店にやってきたのだが、意外と人が多かった。
ダンジョンが現れても、近くになければ大して影響がないということなのかな? 最初のダンジョン化から一度もダンジョンが現れてないから、というのも理由の一つかもしれない。
兎にも角にも、シルヴィアの服が買えそうで良かった。あんな美少女にサイズの合わないジャージをいつまでも着せ続けるわけにもいかないからな。
シルヴィアの服を楽しそうに選んでいるお母さんにシルヴィアが気圧されている。それでもどこか楽しそうに見えるから、異世界の女の子もショッピングが好きなのかもしれない。
「あ、下着も買わないとね」
お母さんの言葉を聞いて即きびすを返す。
一瞬シルヴィアさんの下着姿を妄想してしまったせいで顔が熱い。いつ下着を選び終わるかわからないし買い物が終わったら連絡くれるだろうから、それまで男物の服を見て時間を潰すことにした。
ずらりと並ぶ服を見て回る。
今まで俺はファッションに興味がなく、容姿を磨くなんてこともしてこなかった。それにお金をかけるくらいならラノベやゲームを買いたいと思っていたからだ。
女の子と付き合ってみたいと思ったことは何度もある。でもそのたびに、どうせ俺なんてモテないと言い訳して努力することから逃げていた。
そのことを後悔するようになったのは、茜とシルヴィアの二人に出会ったからだ。
二人と一緒にいるたびに他人から向けられる『なんでお前みたいなやつが隣りにいるんだ』という視線。それを感じるたびに、俺は二人の隣に立っても恥ずかしくない人間になりたいと思うようになった。
ネットで色々調べたところ、スキンケアをしっかりして食生活に気を配り、ちゃんと運動してファッションを勉強すればどんな男でもかっこよくなれるらしい。俺の顔は醜くもないはずだし、頑張ればかっこよくなれるはずだ……多分。
「うわ、高いなぁ……」
一般的には安い値段だろうけど、バイトをしてない俺にとっては高く感じる。何をするにもお金が必要だった。
──売るしかないか……
ゲームやラノベ、漫画を売れば多少の資金が手に入るだろう。修行と自分磨きを始めればきっと娯楽に手は出せないだろうし、家に残してたら誘惑に負けてしまう可能性すらあった。
「ん?」
ブルブルとポケットが震えるのを感じスマホを取り出す。
『会計終わったから帰るよ』という連絡に返信して、俺は車へと向かった。
服を買った後も家具や食材を買い、家に帰り着いた頃にはもう夕方になっていた。
買った物の片付けを済ませ、夜ご飯を食べ、夜の素振りを行いヘトヘトになった俺は、湯船で体をマッサージしながら今日のことを思い返す。
他人を住まわせることでかかる精神的、金銭的な負担はダンジョン庁との面会のときに考えたつもりだった。それがいかに浅はかな考えだったか、今日の買い物で嫌というほど思い知らされた。
「はぁ……」
ダンジョンに眠る魔法のアイテムや金になる資源を売って両親に数倍にして返す、なんてことを考えてた自分を今すぐ殴りたい。取らぬ狸の皮算用とは正しくこのことだ。
俺の命の恩人だからとシルヴィアを家に住まわせる許可をくれた両親に絶対報いたい。だからこそ、俺は絶対に強くなる。
「修行、頑張るぞ……あと自分磨きも」
どこに行っても注目を浴びていたシルヴィアを思い浮かべ、俺は決意を新たにした。




