8「くちづけ」の巻
「………」
あまりの情けなさに、顔を覆ってしまいたい。
しかし、オレの両腕は行動を封じる不可視の鎖型アーティファクト【光縛式鉄鎖】(銘:火遊び百合姫数珠繋ぎ)でダンジョンの壁に括られており、オレが少しでも身動きすれば、鎖のもう一端で床の上に縛られている女戦士の手首と股間を締め上げることになる。
そんなに長くもない鎖の少ないリソースでなぜこうも上手く縛られてるんだ、女戦士(コイツ)は。
さらに、【催眠幻覚薬筒】(脱法)によって、女戦士と女魔術師は未だに悪夢(ユメ)を見続けている。
「ぉ、おーくなんかにクッ……。わたしは、負け…たり…しない!」
「いゃびぁ!こわれゆっ!こわれゆって、ばぁあっ!」
わざとやってんじゃないだろうな、この二人。
女戦士ちょっとニヤケてるし。
「………」
仲間達の痴態を死んだような目で見るオレ(苦労人)。
そんなオレを『じー』っと見る『敵』。
「…こんな状況なのに、あなたって『普通』なのね」
よく言われる。
【モービウス・デルトロ・バブルポップ】こと、オレ『モビー』は普通であることを、何より誇りに思っている。普通は素晴らしい。フツーイズビューティフル。
「…ふぅ〜ん」
……やばい。『敵』|(わりと美人)は、いつまでも晒し続ける仲間達(バカ×2)から目をそらし、オレに興味持ち始めてる!
コッコッコッ、と獣骨で出来たピンヒールで床をキャットウォークしながら、『敵』はオレに近付いてくる。
「…あなたに、決めたわ」
そして、壁に括り付けられているオレの唇に、『敵』は突然口づけをした。
続く…
好きなオークは『紳士的なオーク』です。