6「ここはわたしに構わず先に行け!」ってほんとにいう女戦士の巻
「ここはわたしに構わず先に行け!」
女戦士カフェルは真剣な表情でオレ達に叫んだ。
カフェルは必死な表情である。
しかし、別にモンスターに襲われている訳ではない。
洞窟の壁に古代文字で『ここ引いてみそ』と書かれたレバーを見つけて「これを引けばいいんだな、よし!」と独り合点したカフェルが壁のレバーを引き、自分の足元に空いた穴に落ちたのだ。
バカのくせに、古代語を解する知恵を持つことがカフェルの最大の不幸である。バカなので一切躊躇がないので止める間もなかった。
カフェルは落とし穴のフチに長い手足を踏ん張りギリギリで耐えていたが、背中に背負った重たい木箱と装備した重たい革鎧と、腰のベルトに下げた無骨なバスタードソード(重量4キログラム)の重みで徐々にズリ落ちてきているズボンを片手でたくし上げながらなので長くは持つまい。むしろ、よく落ちんな。
「もう、ドジなんだから!これに掴まってっ」
女魔術師ラッテが、ヒラヒラした魔術師のローブの袖口に仕込んでいた細い銀色の鎖を、カフェルの手首に器用に巻き付けた。
魔術師として高位の家系に生まれ育ったラッテは、魔術師であると同時に『一流の暗器使い』でもあり、体中に『細い鎖』や『仕込針』の類をいくつも隠し持っている。今はそれが役に立った。
「クッ、すまない…」
細いが丈夫な鎖を掴みながらカフェルが礼を言う。
しかし、ラッテの袖口から出した銀色の鎖はどこかに結びつけるには長さが足りない。
やむを得ず、オレとラッテの二人で引っ張り上げることにした。
「いいか、カフェル。『せーの』で引っ張るからな。『せーの』で鎖を両手で掴め!」
オレからの指示に、分かった…と返事を返す女戦士。
女戦士の呼吸が荒い。早くなんとかしないと。
「「せーのっ!」」
―――しかし、非力なマッパーのオレともっと非力な女魔術師のラッテの二人では、装備と荷物と本人の体重合わせて総重量100キロを超えるカフェルを引き上げることはできず、全員で長い長い悲鳴を上げながらダンジョンの床に開いた落とし穴の中へ落ちていった。
続く…
好きな古代文字は『愛・おぼえていますか』です。