37「良くお似合いですよ」の巻
イヤメテの町の衣料品量販店『ムニクロ』。
店内で物色するカフェルが着ている【女戦士を女扱いするワンピース】(ラッテプロデュース)を見て、コレどこで買ったんだろう…という顔をする女性店員さん。
「こちらなんかいかがでしょうか?」
服飾のプロとして、真面目に服を選びカフェルに勧める女性店員さん(新卒3年目)。
女性店員さんは、『このお客様の目を絶対に覚まさせる!』という気概と職業意識に満ちたいい目をしている。
女性店員さんがカフェルのために選んでくれた服は、最近この町で流行りの厚手の生地で出来た80年代風チェック柄の上着に、シンプルなニットのハイネックインナー、ハイウェストのワイドレッグパンツ、そして、小物として上着と揃えたチェック柄の8枚接ぎハンチング帽。4点で、〆て20,900テラ。
「こんなの、初めて着る……」
試着室から出てきたカフェルは少し照れつつも満更でもない感じで、鏡に映る自分の姿を確認しながら、ちら…とオレを見た気がする。
「良くお似合いですよ!お客様は手足が長いからお洋服が映えますね!」
まともな服に着替えたカフェルを見て、手を叩いて喜ぶ女性店員さん。
見たこともないような半透明のおかしな服(試着室のカゴに入れっ放し)を着替えさせたことで、お客様に対するプロとしての責任を果たし、女性店員さんは安心感と喜びに満ちた表情をしている。
内心では、他の客から通報されるのではないかとヒヤヒヤしていたのだ。
「そ…そうかな?」
カフェルが恥ずかしそうに店員さんに返事をしながら、また、ちらっ…とオレを見る。
普段は冒険用の革鎧しか着用しないカフェルだが、ボーイッシュな普通の格好をすると、なぜか逆に女の子らしく見えた。そもそもカフェルは、元々すごく『美人さん』なのだ。
「……似合ってるよ」
ファッションに詳しくないオレには、女性物の服の是非なんて分からない。でも、さっきまで着ていたワンピース(まだカゴの中)に比べれば1,000倍マシだろう。ちゃんと色々隠せてるし。
オレの返事を聞いて嬉しそうに顔を赤らめるカフェルを見て、オレはふと気付いた。
……そう言えば、『友達と二人で服屋に来る』のオレ初めてだ。子供の頃は誰かのお下がりの服しか着たことないし、冒険者になってからは『普通の服屋』なんて入ったことない。人知れず苦労してきたオレには、なんとなく感慨深いものがあった。
「……モビーには、こういうのが似合いそうだな」
一人で感慨にふけっていたオレに、カフェルは、店内にディスプレイされていた小さくて丈夫な肩掛けマントを手に取って見せた。カフェルは、自分のセンスにあまり自信がないらしく、恥ずかしそうに控えめに、手にとったマントをオレに向かって差し出した。
『マント』……。
冒険者と言えば…な装備だが、実際にマントをまとっている冒険者は少ない。昔の冒険者は野外での防寒着として着用していたらしいが、現代では高性能な防寒着や折りたたみ式のテントや寝袋もあるので、屋外でのマントの実用性は低いと言わざるを得ない。
しかし、オレは大好きだマント!
機能的な意味はなくても、見た目がカッコいいと思う。
「こちらも、最近徐々に人気が再燃しているお品になります。新素材が使われておりまして、低価格にそぐわない高性能な逸品となっております!」
ここぞとばかりに畳み掛ける店員さん(店長に課された一ヶ月の売上裏ノルマ20万※違法)。
「……良いじゃん」
藍色でシンプルなデザインのマントを、オレは気に入った。首に巻きつけるタイプではなく、肩アーマー(ギルド推奨、冒険者用必須装備)にパチッと留めるタイプのマントだ。
オレの返答を聞いたカフェルが恥ずかしそうに、「日頃のお礼だ!」と言ってそのマントをオレにプレゼントしてくれた。
……人から服プレゼントされたのも初めてだ。
カフェルはすごく楽しそうに見えたし、生まれて初めての『女性の友人からのプレゼント』を貰ったオレも嬉しかった。
そして今月のノルマを達成できた店員さんも、オレ達の見えない所で、ホッと一息ついたのだった。
続く…
・好きなマントは『ひらりマント』です。




