32「マジックスミス」の巻
「……オメェか、わざわざミスリル使って『箱作りたい』なんてバカは!」
情け容赦のない言葉でマジックスミスの爺さんはオレに言った。あの素材屋のお兄さん一体どんな説明したんだろう……。
あの後、15分程で戻ってきた素材屋のお兄さんは、「ここ行ってみて。ミスリルに詳しい人がいるから」と言ってオレに手書きの地図を渡した。そこには、この町のマジックスミスの作業場までの経路が書かれていた。
『マジックスミス』は普通の鍛冶屋さんとは違って、魔術専門の道具を造る魔術師の鍛冶屋さんである。カフェルの武器箱について素材屋のお兄さんと話を進めるうちに、何故かここを紹介されたのだった。
「……どんなバカだかひと目見てえと思ったが、なるほどバカそうなバカの顔だな!そんで設計図の方は出来てんのか!?」
「……コレです」
バカバカ言われて少しむくれたオレは、少しぶっきらぼうに自作の設計図を差し出す。
マジックスミスの爺さんはオレの様子には目もくれずに、オレの手から箱の設計図を引ったくった。
オレが作った【箱の設計図】には、新しく購入したカフェルの武器の収納方法の他にも箱として組み立てる前の各部ミスリル板の形と厚み、それと計算上導き出されるミスリル板の大まかな強度と重量も記入してある。
マジックスミスの爺さんは、オレの作った設計図を吟味した後でオレに質問してきた。
「……ミスリルの強度計算もしてるみてえだが、諸元はどっから引っ張ってきた!?」
『ギヌロ』っという感じで爺さんがオレを睨みつける。鍛冶師でもある爺さんの顔の皮は目の周りが火床の熱で真っ赤に腫れ上がっているので、凄まれると迫力がある。
「一応、素材屋さんに素材の強度データ見せてもらってオレが計算しました。専門家じゃないんで数字は大まかですけど」
「……フン。バカ」
ものすごく大雑把にオレをバカにした後、ものすごい勢いで爺さんはオレの作った設計図に修正点を記入しだした。
「……材質の違う部品同士を組み合わせるなら、設計はもっと単純でなきゃいけねえ!外板のミスリルがいくら丈夫でも『繋ぎ目部分』が壊れたら意味ねえからな!……だが、設計思想としちゃ悪くねえ。坊主がイメージしたのは『板金鎧』か?」
どうやら設計図を見ただけで、マジックスミスの爺さんはオレの発想を全て看破してしまったらしい。すごく口は悪いが職人としての腕は確かな爺さんのようだ。
「はい。少し荒っぽく使うもので…」
「……明日の朝まで待ってろ!儂が設計し直してやる」
有無を言わせぬ強い口調で爺さんは言った。
そして、爺さんは作業場の製図台の前に座ると、【女戦士の武器箱】の再設計を黙々とやり始めた。
『この人の意見には素直に従った方がいい』
『その方が絶対にいいものができる……!』
そう思ったオレは、マジックスミスの爺さんに武器箱の設計図を預けたまま、爺さんの作業場を後にした。
後のことは爺さんに任せて、カフェル達と合流することにしよう。……冷静に考えてみると、『あの二人』を長時間野放しにしてよいハズがないのだ。
続く…
好きなバカは『大バカ』です。




