28「冒険と追憶の日々……」の巻
武器屋のおじさんは、つらつらと魔弾連装杖の仕様についてマニアックな長い説明をした(誰も聞いてない)。
そして、武器屋のおじさんはサクラの手の中にある旧式の魔弾連装杖【ヴィンゼスタM1873】を眺めながら、遠くを見るような目でまた独白を始めた。
……俺も若い頃はM1873に散々お世話になったもんさ……
それは目の前の景色を見ているようで、どこか遠くを見ているような、そんな不思議な視線だった。
おそらく、武器屋のおじさんはかつての冒険の日々を思い出しているのだろう。若い頃、仲間達と一緒にともに戦い、ともに過ごした日々を……。
しかし、おじさんの話を全く聞かずに、ガシャッ!っとM1873のレバーを引きながら遠くにある木の高い所の枝先を狙うサクラ(体で覚えるタイプ)。
そして誰も聞いていない説明を続けるおじさん(思い出に浸るタイプ)。
……ヴィンゼスタ社の長年のベストセラーだったが、他社の開発した連射可能で小型な魔弾連装杖の登場で、表舞台から徐々に姿を消して行きつつある。まあ『時代遅れ』のシロモノさ……
胸の奥から込み上げてくる熱いノスタルジーに思わず固く目を閉じながら説明する武器屋のおじさん(最近涙もろい)。
そして、おじさんの話を全く聞かずに『パシュッ…ガシャ!パシュッ…ガシャ!』と軽い音を立てながら、遠くに生えている大きな木の枝先を次々と連射で撃ち折っていくサクラ(天才魔弾の射手現る)。
照準と着弾の僅かなズレから、サクラは早くもM1873という魔弾連装杖の特性を見抜いた。
……連射すると『2射目が2度』ズレるわね。この魔石の仕様かしら……
連射後に赤熱化した魔石を黒い革手袋の指先でちょんちょん突っつきながら小声でブツブツつぶやくサクラ(メカニックとしても優秀)。
まだ一人で説明を続けている武器屋のおじさん(若者に語り継ぎたい)。
……単発なんで、魔弾一発撃つごとに魔石に力を込めなきゃならねえのがネックだが。使う者の力量次第では最近流行りの回転弾倉式の魔弾連装杖にも負けねえ連射力を誇る!
まあ、『腕の見せ所』ってやつだな……
まだ目を固くつぶってノスタルジーに浸っている武器屋のおじさん(過去を想う)。
そして、話を聞かないサクラ(いまを生きる)。
……先端とレバー周りの金属はミスリル合金製ね。
まあ、これくらいなら革手袋着ければいけるか……
工夫によって自らの弱点を克服するサクラ(前向き)。
ひたすらにノスタルジーに浸るおじさん(後ろ向き)。
……本体は少し長いものの、重量バランスが良く遠くの目標を撃つ時に狙いが付けやすいのもこの杖の『魅力』の一つさ……
自分の感想を交えながら説明する武器屋のおじさん。おじさんはまだ目を固く閉じている。
そして、時計のようになめらかな動作で初めて触る魔弾連装杖の分解を始めるサクラ(ジョイントフェチ)。
……ほんっと構造は単純ね。改造し甲斐があるわ……
舌舐めずりしながらつぶやくサクラ。
紫色の瞳が新しく手に入れた研究対象を見ながら爛々と怪しい光を放っている。
「コレ、ください!」素敵な笑顔でサクラが言う。
「ヘイ、まいど!」目を固く閉じたまま武器屋のおじさんが応える。
目の前で繰り広げられるマニアどものやり取りを冷静に観察しつつ「……でもコレって旧式ですよね?」と口をはさむ抜け目ないオレ(現実的なタイプ)。
旧式なので銅貨10枚(大陸共通貨で約5,000テラ)にまけてもらった。
この時サクラが買った『旧式の魔弾連装杖』が、後にこの平和な町で大騒動を巻き起こすことになることを、オレ達はまだ知らない。
……そして、皆から離れた場所で一人黙々と剣の素振りを続けるカフェル(ひたむきなタイプ)。
……実家に帰っていて全然出番のないラッテ(才能に胡座かくタイプ)。
続く…
好きなノスタルジーは『夏の匂い』です。




