24「いつも下賤なスライムの汚らわしい粘液の中に包まれていた武器(わたし)達…」の巻
「この際、装備全部新品にしたら?今お金あるし」
イヤメテの町の武器屋の店内にてオレは幼なじみの女戦士に言った。カフェルはまだスライムのシミ付き革鎧(イカ臭)を着ている。
カフェルは女戦士として常に前衛にいる。つまり、いつもパーティーの最初のダメージを引き受ける役回りなのだ。
うちのパーティー『カフェラテ・モブ』は、戦士1人マッパー1人魔術師2人というとても偏った編成なので、女戦士の防御力がパーティー全体の防御力そのものと言っても過言ではない。
カフェルの装備を強くすることが、うちのパーティーを強くすることにもつながるのだ。
女戦士の献身のお陰で手に入れた『イカ臭い触手』100本で銀貨2枚(大陸共通貨にして約50,000テラ)にはなるだろうし、今回の洞窟探検で得た収穫物(ギルドにて鑑定中)の売却が済めばある程度まとまったお金になる。
いま実家に帰っていてこの場にいないラッテ(守銭奴)だって文句は言わないだろう。
「……そうだな。有り難くお言葉に甘えさせてもらおう!念の為、木箱の中に入れてある武器の点検もお願いしたいのだが」
そう言いながら、カフェルは背負っていた重たい木箱を武器屋の床の上に降ろした。木箱の中に入っていた武器(モーニングスター×1、折りたたみロッド×2、片手剣×2、トンファー×2、三節棍×1)の状態を見て、武器屋のおじさんが太い眉を少しひそめた。
「……普段使わねえからって手入れを怠るのはよくねえな。見ろ。鎖が少し錆びていやがる」
ぶっきらぼうに言いながら、おじさんは木箱に入っているカフェルの武器を指さした。おじさんが示した通りモーニングスターの鎖の一部が少し赤錆びている。
武器屋のおじさんはウチの店で買い物してくれるなら…という条件で【女戦士の使用済み革鎧】の下取りを嫌々承諾したばかりなので今少し機嫌が悪いらしい。木製カウンターに肘をついたまま、おじさんは呆れ顔で女戦士の方を見ている。
「申し訳無い!」
武器に浮いた錆は戦士の恥だ。女戦士カフェルは『武器屋』のおじさんに頭を下げる。
『カフェラテ・モブ』は、湿気の多いクッコロ洞窟専門の冒険者パーティーだし、スライムに襲われやすいカフェルの武器はいつも粘液でネトネトしている。錆びても仕方ないような環境だが、そんなことはカフェルはおくびにも出さない。
素直に謝る女戦士に、武器屋のおじさんはふん…と鼻息を鳴らす。木箱の中の武器を親指で示しながら、おじさんはカフェルに言った。
「……こいつらもまとめて新しいのに替えたほうがいいな。鉄材として下取りに出すなら、新品の方の値段をまけてやる。今どきの武器は錆や湿気にも強いし、耐久力だって強い。……譲ちゃんの安全のためにもなる」
武器屋のおじさんはパーティーの小隊長であるオレの方をちらりと見た。このおじさんは、長年の経験と勘でパーティーの財布の管理をしているのがオレであることを見抜いたらしい。
オレは無言でおじさんに頷いて見せた。
続いておじさんは黙ったまま女戦士の方を向く。
「宜しくお願いする!」
簡潔かつ力強い女戦士からの返答に対して、木製カウンターに肘をついた武器屋のおじさんは黙ったまま頷いてみせた。
続く…
好きな武器屋は『ロン・ベルク』です。




