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梅雨

作者: たむら

 梅雨真っ只中、その日も雨が降り続けていた。いつもの様に車で学校まで送ってもらう。その日は外の空気が妙に冷たくじっとりとしていたのを覚えている。

 閉じそうな目を懸命に擦りながら午前中の授業を終え昼休みになった。机を囲んで弁当を食べていると、校内アナウンスで職員室に呼び出された。普段職員室に呼ばれる様なこともないため、呼ばれた理由の検討すら立たないまま足を向かわせた。

「田村さん、今すぐ帰る準備して。下の事務室前でお父さんが待ってるから」

突然の担任の言葉に僕はてなを浮かべた。その後、父と合流した帰りの車内で祖母が亡くなったと聞いた。

 家からすぐ近くの病院で入院をしていた祖母とは2日前にも顔を合わせていた。元々体の弱い祖母は入退院を繰り返していた。今回もそんな入院だろうと思っていたのだが容態が急変したそうだ。ばあちゃん子だった僕はその言葉に実感が湧かず、涙も流れていない。

 そんな僕の目の前にいたのは、布団の上に寝かせられている祖母の姿だった。声をかけたら起きるのでないかと思うほどに綺麗な顔で眠っていた。

 ほら、祖母はいつもと同じ寝顔をして眠ってるだけじゃないか。そう思いながら祖母の手を握った。

 触れた瞬間、感じたことのない冷たさと重さを感じた。訳もわからず涙が溢れる。祖母は本当に死んだのだ。2日前に見たシワシワの笑顔はもう無く、2日前に触れたシワシワの手はもう握れない。


 17歳、人生で初めて「死」を目の当たりにした────。


 去年ごろから入退院の間隔が徐々に短くなり、入院の期間は徐々に延びていた。誰も言葉にはしなかったけれど、みんな分かっていたのだ。祖母の死が近づいているということを。

 小さい頃から僕を見つめるキラキラとしていた瞳も、光を失い瞼を閉じる。


 葬式を終え、仏壇には祖母の笑顔と祖父の顔が並んで立っていた。次第に仏壇で手を合わせる時間も減っていった。夏休みには友達と海へ行き、冬休みにはスキーへ行った。


 祖母の死から1年が経とうとしていた。今日は雨。TVに傘マークがずらりと映される。久々の雨は妙に冷たく、じっとりとしていた。

「はぁ、雨だと気分も上がらないし、勉強も捗らないな」


 気がつけば、いつも通りの学校生活に戻っていた。

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