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荒廃世界《北欧/スカンディナヴィア》  作者: 威剣朔也
2.勃発
6/23

2-1


 入隊試験の翌日。無事に【陸上探査艦‐ŋ(ユングヴィ)】の隊員となったニアズは、仲間となった者たちと共に船尾の甲板で戦闘態勢を取っていた。


「マォ、行くぞ!」

「はいにゃ!」


 突如として船へと襲い掛かって来た【邪竜(ワーム)】の群れ。それを前に、眩いほどの光子を纏わせた光子鎚をソールが横薙ぎに振れば、その黒い列がはじけ飛ぶ。直後、その攻撃を避けるようにして上空へと跳躍していたマォが、落下に合わせて手足に在る光子手甲と光子鉄靴で【邪竜(ワーム)】を叩き潰した。

 強さはともかくとして、数だけはやたらと多い地を這う黒竜。それらを悉く倒していく二人の姿を後方で見守りながら、ニアズは漠然とした疑念を抱く。

 飢えているならわかるが、通常人間は勿論、大型船を襲うことなどあり得ない【邪竜(ワーム)】が群れを成してまで船を襲うなど、いったいこの船は何をしでかしたのだろうか? あるいは何を保持しているのだろうか?

 襲われる理由が必ずある。と訝しみながら、ニアズは隣にいる二人の人物へと視線を向ける。

 一人は、大盾持ちの獣人ヴィーザル。表情こそ仏頂面ではあるものの、視線の先には必ずソールとマォの姿が在ることから、仲間の動きに気を配っていることが窺い知れる。

 そしてもう一人は、この船に乗った際にオレを案内してきた冷ややかな印象の強い女、シェリー。華奢な身体で大型の改造銃を構える彼女もまた、ヴィーザル同様硬い表情でソールとマォの戦いに目を向けている。

 今回は班を組んでの初任務ということもありこの二人と共に後衛に着いてはいるが、近距離系の武器であるオレもいずれは前衛に回ることになるだろう。もしそうなった場合、無用な不和。例えば、味方からの誤射を受けないようにするためにも、彼らの戦いは熟知しておくことは不可欠だろう。

 決意を新たにニアズは持っていた光子剣を握り直し、前方のソールとマォを見据え直す。すると、通信係も兼ねているシェリーが「ヴィーザルさん、ソールさん」と、二人の名を呼んだ。


「どうしたシェリー」

「ソールからの連絡で、【邪竜(ワーム)】を二頭こちらに流したいそうです」

「了承してくれ。こちらはいつでも迎撃可能だ」

「了解しました」


 迅速ながらも的確にシェリーと言葉を交わしたヴィーザルが、ニアズへと視線を向ける。


「ニアズ。前に出過ぎず、なおかつ甲板を破壊しないように【邪竜(ワーム)】を倒せ」

「了解した」


 シェリーの返答を真似し、返答したニアズ。そんな彼を見るヴィーザルはゆるく口角を上げ「よし」と頷いた。


「……っ」


 顔つきも体格も、似てはいない。にも関わらず、どうしてヴィーザルの表情や立ち振る舞いがシグルズさんと重なるのだろうか?

 彼はシグルズさんのように大口を開けて笑わない。彼はシグルズさんのように饒舌でもない。だがそれでも、所作の一つ一つが、シグルズさんに似ている。

 船を襲う【邪竜(ワーム)】の群れに加えて、更に募る疑問。だが今はソレに気を取られている場合ではないだろう。

 気を新たに、ニアズはソールたちの方へと向き直る。するとタイミングを見計らったかのように、二体の【邪竜(ワーム)】がドタドタと音を立てニアズたちの方へと向かって来た。

 翼のない【邪竜(ワーム)】たちとの戦いは【飛竜(ワイバーン)】に比べて随分楽だ。だが地を這っている分、甲板を破壊してしまいかねない危うさがある。


 ――とはいえそれは所詮、些細なことだ。


 向かってくる黒竜に対し、光子を纏っていない状態の光子剣を向け、身を低くしたニアズ。彼は平らで殺傷能力のない樋の部分で【邪竜(ワーム)】の身体を横薙ぎにし半回転させる。そして、瞬時に光子剣に光子を纏わせ、仰向けになったその腹を真っ二つに焼き切った。

 数秒遅れでやって来たもう一頭も同様に迎撃し、ニアズはヴィーザルの隣へと立ち戻る。


「流石、手早いな」

「師匠の教えが良かったんで」

「なるほどな」


 にっ、とほくそ笑んだ後、仏頂面へとその表情を戻すヴィーザル。


「よし、ならもう少し前進してソールたちとの距離を狭めるぞ」

「はい」

「シェリーも良いか?」

「はい、いつでも移動可能です」


 ガチャン。と大型の改造銃を構え直し、姿勢を正すシェリー。彼女と共に歩を進めはじめたヴィーザルに続き、ニアズもまた甲板の上を前進する。


「ところで今日の昼食、キッチンのヤツらにちゃんと頼んどいたのか?」

「勿論にゃ! シェリーちゃんと一緒にお願いしに行ったにゃ!」

「シェリーが行ってくれたなら間違いないな!」

「ちょっと! マォも一緒に行ったことを省かないで欲しいにゃー!」


 船の側面を登り、這い上がってくる【邪竜(ワーム)】を手際よく迎撃するソールとマォ。だが離れていても聞こえてくる二人の会話は、戦闘にはまるで関係のない無駄な雑談。

 よくこれで息の合った連係が取れるものだな。と半ば感心すると同時に、おそらくその雑談こそが二人にとって、戦闘を円滑に進めるために必要な伝達手段であり、信頼の形なのだろう。と、断じたニアズは小さく息を吐く。

 互いに背を預けて戦わねばならない窮地は遠慮したいが、呼吸を合わせての戦いはきっと胸が躍るに違いない。だが、果たしてオレにそんなことが出来るのだろうか?

 長い間、シグルズさん以外の人と碌に関わりを持ってこなかったオレが、会ったばかりの人間と雑談を交わした上に、信頼し、背を預ける?

 師匠であるシグルズさんから「人間関係のイロハを学べ」と言われ、渋々ながらも引き受けた以上、弟子として完遂させたい気持ちはある。が――果たしてそれはオレに出来ることなのだろうか?

 必要性も、利点も大いに理解出来る。しかし、そのやり方を何一つとして知らない。

 難題たる人間関係のイロハを前に「前途多難だな……」と、零しながらもニアズは覚悟を決める。

 渋々引き受けたにせよ。此処へ来ると決めたのは、他でもないオレ自身なのだから。

 ソールとマォが居る前衛から時折見逃されてくる【邪竜(ワーム)】たち。それらを迎撃しながら、今まで考えたこともないような事柄について頭を悩ませていれば、群れの波が収まったらしい。「終わったぞ!」や、「やりきったにゃー!」と軽快な声を上げた二人が、こちらへとやってくる。


「迎撃が終わったな。次は解体をするんだが、ニアズは【邪竜(ワーム)】の解体はできるか?」


 甲板で息絶えている多数の黒い竜。それらを指さしながら、訊ねてきたヴィーザルに「ああ……。はい、出来ます」と頷けば、「よし、ならこいつらを全部処理していくぞ」と彼は足元に転がっていた【邪竜(ワーム)】へと屈みこむ。


「了解……しました」

「あー、艦長以外への返事は『分かった』とか『はい』とかでも大丈夫だから、自分の言いやすい方にしておけ」


 どうやらオレの言葉に幾分かの違和感を抱いていたらしい。「そんな気張らなくても、実力さえあれば誰も文句は言わねえよ」と、続けたヴィーザルは行動を示せと言うように甲板に転がる別の【邪竜(ワーム)】を顎で指した。


「ああ、分かった」


 無理のない返事をした後、ニアズは彼からの指示に従うべく手近な【邪竜(ワーム)】へと身を寄せる。そして事切れている竜の背に沿って光子剣の刃を滑らせ、手際よく解体しはじめた。



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