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荒廃世界《北欧/スカンディナヴィア》  作者: 威剣朔也
1.船内にて実力の開示
5/23

1-3


 ぱた、と長すぎる服の袖を揺らしながら「怪我、しないでください、ね」と手を振るヒルデ。

 好ましささえ感じる彼女に手を振り返したニアズは、ホールの最奥から階段の方へと移動し――心の内で大きく息を吐いた。

 僅かな間であったにも関わらず、オレはおそらく、否、確実に。ヒルデに対して守ってやらねばならないという、使命感を抱いている。それこそ「シグルズさんに頼まれたから」という言い訳さえ自分に出来ない程に。

 今だって、あそこに一人で残っているヒルデのことが気がかりで仕方がないし、あの脆弱で護衛する人の姿さえ無い彼女をオレが守らずして誰が守るのだ? と思いさえする。

 これが『庇護欲』というものなのだろうか? それとも、『父性』?

 逸る気持ちと疑問を抱きながら、階段を駆け下りるニアズ。ホール内へと降り立った彼の前に、徐に影が掛かる。


「テメェの相手はオレ様だぜぇ? 残念だったなぁ!」


 どうやらオレより早く到着していたらしい。第二試験の対戦相手であるドゥムが下卑た笑みを吐き捨てながら、ヒト一人分はあるだろう金属の棍棒――メイスを付きつけてきた。


「今からテメェを、ひき肉にしてやるからな」


 興奮しているのだろう。鼻息を荒げながらそう言ったドゥムに対し、ニアズは「はぁ、」とこれ見よがしに大きなため気を吐いてみせる。


「今からオレをひき肉にするとか。アンタ、相当な虚言癖があるな」

「ッテメェエエ!」


 ニアズの言葉を煽りと捉えたドゥムは額に青筋を立て、メイスを大きく振り上げる。

 軽く当たったでけでも、簡単な獲物であれば容易に吹き飛ばされるであろう武器。それを真っ向から受け止める気のないニアズは、その真下から僅かに動き、自身の腰元にある光子剣へ手を掛ける。

 だが「ドゥム! まだ戦闘開始は告げていないぞ、武器を降ろせ!」とフィオナの鋭い声が響いた瞬間、二人の行動はピタリと止まる。


「二人とも! 今すぐに、武器から、手を放せ!」


 馬鹿な相手にでも分かるようにという配慮か、言葉を区切りながら念を押すフィオナ。だがその表情には怒りと苛立ちが含まれており、今にも「連帯責任だ。貴様ら二人、失格だ!」の言葉が飛んできそうだ。

 しかもその隣には、あの獣人の大男――ヴィーザルの姿もあるため、これ以上彼らの目の前で騒動を起こすことは得策ではないだろう。

 ちらり、とフィオナたちの方に向けていた視線を目の前のドゥムに戻せば、彼もまたフィオナの苛立ちに気が付いたのだろう。「チッ、気を削がせんなよ」と小言を言いながらも、メイスを降ろした。


「二人とも、ホール中央部へ移動しろ」

「はい」

「オウ」


 いかにも不服です。と言わんばかりの顔をしながらも、フィオナの指示通りホール中央部へと移動するニアズとドゥム。そして双方ともが距離を保った状態で相対すれば、「これより、ドゥム対ニアズの模擬試験を行う。両者、戦闘開始!」とフィオナが戦闘の開始を宣告する。


「じゃあ、オレ様から行かせてもらうぜぇ!」


 にちゃり、と不敵な笑みを浮かべたドゥムは自身の身体を跳躍させ、ニアズの上空を取る。


「死ネェエエエッ!」


 咆哮と共に、頭上で高らかに振り上げられるメイス。それを受け止めるため、オレは腰部にある細身の光子剣を抜き、ドゥムへと向ける。勿論、先の第一試験で【自己修復人形バ・クティリエ・ロイド】を一撃で屠ってしまったという反省も踏まえ、今回ばかりは光子を纏わせてはいない状態だ。


「オラァ!」


 落下による重力と、ドゥム自身の腕力。唯人ないしは、安い武器であれば膝を着かせるどころか容易に屠りさえするだろう彼からの攻撃を、ニアズは細身の剣で難なく受け止めきる。


「オレ様の初撃を受けても潰れねぇとは、テメェ随分と頑丈だなぁ!」

「アンタも、ただのヒトとは思えないほどの腕力だ、なぁっ!」


 キンッ、と音を立て受け止めていたメイスを弾き、ドゥムから適度に距離を取るニアズ。

 おそらくドゥムはシグルズさん同様、力で他者を圧倒する戦い方が得意なのだろう。だが、戦い方そのものはシグルズさんとは比べられないほど大ざっぱで、隙だらけ。それこそ、メイスを振り上げた好きに胴を真っ二つにすることだって可能だったほどだ。

 よくこんな奴が外の世界で生き残って来られたものだな。とドゥムの実力を推し測っていれば、相対するだけで攻撃する素振りを一切見せないオレに痺れを切らしたらしい。「舐めやがって!」とドゥムが咆哮し、二撃目を放つべく再度跳躍しメイスを振り上げてくる。

 だがメイスが振り降ろされる前にニアズはドゥムの傍から離れ、距離を取り直す。


「テメェ、戦う気あんのかよ!」

「アンタこそ、獲物はきちんと狙ったらどうだ?」


 ニアズが移動したせいでホールの床を抉ることになったドゥム。それを忌々しげに引き抜く彼を見ながら、ニアズは煽る目的で口元に笑みを浮かべてみせる。

 そうすれば、その笑みに神経を逆撫でされたらしい。ドゥムが「テメェ! オレ様をおちょくるのも、いい加減にしやがれ!」と、突進するようにしてニアズへと飛びかかった。


「っと、」


 猪突猛進と呼ぶに相応しい真っ直ぐすぎる移動に、力任せに振り上げたり横殴ったりするだけの力任せな攻撃。単調な動きを繰り返すだけのドゥムを見ながら、メイスが当たる寸前でそれらを全て躱すニアズ。

 だがすべてを見切られ続けている側のドゥムにとって、彼の行動はただただ腹立たしいばかりだったのだろう。ドゥムは興奮気味だった形相を更に獰猛なモノにさせ、「テメェ、いい加減にしやがれ!」と怒号を放った。


「オレは獲物をきちんと狙ったらどうだ、と言っているだけなんだがな」


 獲物が逃げるならその行く手を阻むなり、多少は知能を働かせろと遠まわしに言っているつもりなのだが、怒り昂るドゥムには全く通じていない。否、それどころかオレの言葉によって彼の怒りは頂点に達してしまったらしい。

 口元に手を当てた彼は、ぎょろぎょろと目を左右に動かし「ヴヴォ、オアア!?」と嗚咽を零す。そして、その身体の肉をみぢみぢと沸き立たせ――唯でさえ大柄なその身体を一回り以上大きなものへと変化させた。


「……アンタ、本当にヒトか?」


 あるいはオレが知らないだけで、ヒトの身体はこうも容易く大きさを変えられるものなのだろうか?

 シグルズさんでさえ見せなかった肉体の増大変異。だがソレは、やはり「普通」のことではなかったらしい。ホールの二階席からもオレが思ったことを代弁するように「何だよアレ!」と驚きの声が次々と上がる。

 しかし、ドゥムの取り巻きたちにとって彼の変異は当たり前のことであったらしい。「やっちまえドゥムさん!」や「アニキ、すげぇよ!」等の声も同様に上がってきた。

 驚きと歓声。それらの声に気を良くしたドゥムは少しばかり冷静さを取り戻し、自身の舌で上唇を舐める。


「ヒヒッ、次はゼッテェに当ててやるぜぇ!」

「当てられるものならな」


 怒りからなる興奮の代わりに、不穏な雰囲気を纏わせはじめたドゥム。彼の様子にただならぬ危機感を抱いたニアズは、煽りを込めた軽口と叩きつつ手元の剣を握り締める。


「なら、行かせてもらおうか!」


 どこか嫌な予感を感じる中、目の前に居たドゥムが床を蹴り、跳躍する。

 だがその行先はオレの頭上ではなく、少し離れたホールの上階部分。それこそ、つい先程までオレが座っていた人気のないあの最奥。


「まさかっ、」


 彼の狙いを察したオレは竜脚で床を蹴ると同時に、ドゥムの視線の先へと目を向ける。すると案の定と言うべきだろう。オレたちの戦いを観戦していたと思しきヒルデの姿が通路側に確認できた。


「クソがっ!」


 あの野郎、目的の為であれば手段を選ばないのか! こんなことなら、初撃の内に相手の武器を破壊するなりしておくべきだった!

 今更悔やんでも遅いが、次からは間違えない。と、固く自身に誓いながらニアズはヒルデを守るべく再度竜脚で床を蹴る。

 一方、まさかニアズの模擬戦を見ていただけの自分が攻撃対象になるとは思っていなかったヒルデは、目の前でメイスを振り上げているドゥムを声も出せぬまま見ていた。

 防寒服を纏う、幼い少女。その頭上めがけて、勢いよく振り降ろされる殺意の塊。

 その場に居た者たちが起こり得るだろう事象に目を見張った瞬間、ヒルデの目の前に黒い影と光の刃が走る。


「……ニアズ、さん?」


 ぱちくりと目を瞬かせ、呆けた声でニアズの名を呼ぶヒルデ。そんな彼女の目の前には、薄いながらも光子を纏った光子剣でメイスを受け止めるニアズの姿が在った。


「ほぉら、当たっただろぅ?」

「アンタ、何考えてやがる!」

「何を考えているかぁ? そんなの、テメェをひき肉にすることだけだろ!」


 どうやら、今のドゥムにはオレを殺す以外の考えがないらしい。何時もであれば殺意は殺意を持って返しているのだが、流石に模擬戦で相手の身体を両断するのは得策ではないだろう。

 であるならば――オレがするべきことは『攻撃』ではなく『防衛』だ。

 パキパキと黒衣の内で竜化を増させ、それに伴いドゥムの攻撃を受け止めていた光子剣を横薙ぎに降るニアズ。そうすればメイスと共にドゥムの身体がホール中央部へと吹き飛んだ。


「ヒルデ、そこから離れるなよ!」

「う、うん!」


 ドゥムがヒルデを狙った以上、今後彼女を狙わないという確証はない。となれば、オレの傍に居るのが一番安全であり最善だ。

 勿論、ドゥムが攻撃の矛先を別の人間に変える可能性もありはする。が、今ホールの中央部から憎々しげにオレを睨んでくる彼に限ってそんな心変わりはないだろう。


「クソが、クソが、クソがっ! オレ様を怒らせるのもいい加減にしろよ、ガキが!」


 自分の思い通りにならないことがよほど気に入らないらしい。地団太を踏んだドゥムは、怒りの表情でオレを睨み上げると、再び跳躍し、メイスを振りかぶって来た。


「ガキは、アンタの方だろう!」


 頭上高らかにあるメイスを受け止めるべく、体勢を低くするニアズ。だがメイスが振り降ろされた瞬間、黒衣の影は跳躍し、ドゥムの懐付近へと接近する。


「なっ!?」

「受け身ぐらいは、取ってくれよ!」


 メイスを握るドゥムの前腕をわし掴み、重力と腕力に合わせてその身体を引き落とすニアズ。

 たったそれだけの動作。だが、ソレに逆らえぬまま大柄なドゥムの身体は一直線にホールの最奥壁へとぶち当たり、メイスはバッキリと折れ曲がった。

 その隙にヒルデの傍へと戻ったニアズは、ドゥムから距離を取るべくヒルデの身体を小脇に抱え移動する。

 だが力量こそ無いものの、頑丈さは折り紙付きであるらしい。壁にぶち当たったにも関わらずドゥムはすぐに起き上がると、その場から離れようとしていたニアズ目がけて素手で殴りかかってきた。


「ったく! ヒトにしては、頑丈すぎるだろ!」


 悪態を吐きながら、ドゥムの拳を避け続けるニアズ。けれども遮蔽物たるベンチが多く並ぶこの場所での戦闘は明らかに不利。しかも小脇に守るべきヒルデさえ抱えている状態では、戦うにしても限度がある。


「少し飛ぶぞ。ヒルデ、舌を噛むなよ!」

「……へ?」


 ヒルデの了承も得ぬまま、だんっ、と力強く床を蹴り跳び上がるニアズ。彼は本来戦うべき場であったホールへと降りると、抱えていたヒルデをすぐに足元へと降ろした。


「ヒルデ。オレからあまり、離れないようにしてくれ」

「……う。ぁ、はい……」


 襲われている、という恐怖故だろう。防寒服越しでも分かるほど震えているヒルデを前に、ニアズは一旦膝を折る。


「すぐに終わらせる。だから、もうしばらく我慢してくれ」

「わ、分かり、ました……」


 漏れ出るような声と共に、頭を縦に振るヒルデ。

 彼女の頭を軽く撫でた後、ニアズは立ち上がり、振り返り様に腰元に納め直していた光子剣を引き抜いた。


「アンタ、まだやるつもりか?」

「オレ様がっ、オレ様がぁあっ! すぐに、終わるわけがねぇだろ!」



 どうやら身体が頑丈であると同時に、聴覚も優秀であるらしい。ホールの上階部分からドスン、と降りてきたドゥムが改めてオレに向かって拳を突き出してくる。


「次こそ、テメェのその頭をひき肉に変えてやる!」

「力任せなその攻撃で、出来るものならな」


 互いに睨み合うドゥムとニアズ。だが両者が動こうとした瞬間、「そこまでだ! 両者離れろ!」と戦闘開始の合図をしたきり、一切口出しをしてこなかったフィオナが静止の声を上げた。

 流石に艦長であるフィオナに「止めろ」と言われた以上、続ける理由はない。大した活躍を見せることなく終わってしまったことは口惜しいが、それもまた実力の内だろう。そう受け入れたニアズは握っていた光子剣を腰元へと納め直す。

 だが、相対していたドゥムはソレを隙と捉えたらしい。「止めるわけが、ねぇだろうが!」と咆哮し、ニアズ目がけて飛びかかる。


「はぁ……」


 いい加減、ドゥムからの執拗な攻撃にも飽き飽きとしていたニアズは溜め息を吐き、収めたばかりの光子剣を引き抜く。そして煌々とした光子を纏わせ、ドゥムの腕を両断するべく下から斬り上げようとすれば――ドゥムの拳をヴィーザルが大盾で受け止め、、ニアズの光子剣をソールが光子鎚で受け止めた。


「いやー。悪いな、ニアズ。もしもの時は止めろ、って艦長に言われててさ!」

「構わない。オレもヒトを切る趣味は無いからな」


 ソールの光子鎚から剣を離し、纏わせていた光子を解くニアズ。彼の武器が腰元へと納められるのを確認した後、ソールもまた自身の武器である光子鎚から光子を解き、後ろに居るヴィーザルへと視線を向ける。


「ヴィーザル、そっちはどんな感じだ?」

「今は麻痺で動けない状態だな」

「あー、今は盾にビリビリッてなる機能つけてるんだっけ?」

「スタン機能な。こういった奴らには、直接身体に言い聞かせた方が有効なんだよ」


 身体を痙攣させ、横たわるドゥムを目に「ひえー、おっかねぇ」と肩を竦めながらも笑うソール。そんな彼を「うるせぇよ」と肘で小突きながらヴィーザルもまた、表情を緩める。

 どこか和やかささえ感じさせる二人の様子に、この二人仲が良いんだな。と一人納得したニアズは、背後に居るはずのヒルデを振り返る。


「ヒルデ、無事か?」

「う、うん。大丈夫……」


 にこ、と口元を緩めるヒルデ。あどけないその笑みに少し驚きながら、ニアズは「無事なら良かった」と、彼女の頭をフード越しに撫でてやる。


「ニアズさんも、怪我はない……です、か?」

「ああ、無い」

「そっか、よかった……」


 ニアズの手を甘んじて受け入れるヒルデ。その様子に面倒事の集束を察したフィオナが「ヴィーザルはドゥムを連れていけ! ソールは代打で私の補佐をしろ!」と声を上げる。


「了解だ」

「了解っす!」


 艦長たる彼女からの命令により、ヴィーザルは横たわるドゥムの襟首を掴み、ホールの外へと引き摺り出す。


「ならオレは艦長の所に行くから、ニアズはさっきみたいに上で観戦しててくれよ!」

「わかった」


 ソールからの言葉に短いながらも返事をすれば、彼は「じゃあな!」と軽快な笑みを浮かべ壇上の方へと駆け走って行く。その後ろ姿を見送った後、自身もまた二階席へと向かうべくニアズは傍に居るヒルデの脇へと手を差し入れ、抱え上げた。


「に、ニアズさん!?」


 ニアズの唐突な行動に驚いたのだろう。慌てたように声を漏らすヒルデ。


「元居た場所に戻るぞ」

「え、あ? は、はい。……はい?」


 抵抗らしい抵抗は見せないものの、ヒルデの戸惑いは続いているらしい。腕の中からこちらを見上げてくる彼女の視線に貫かれるオレは、「……ヒルデの歩調に合わせていたら、後に試験を受ける奴らの邪魔になるからな」と補足の言葉を述べてみる。


「そ、ソレはそうですけど……、これは、目立つというか……恥ずかしいというか……」


 言葉尻をすぼめ、俯くヒルデ。彼女を抱えながら、ニアズは足早に階段を上がり、模擬戦が始まる前まで座っていた最奥のベンチにヒルデを下ろした。


「ごめんなさい……、ニアズさんを急かすつもりは、なかったのだけれど……」

「謝らなくていい。むしろオレの方こそ、怖い思いをさせてしまって悪かった」

「そんな、わたしは……大丈夫です」


 力なく頭を横に振るヒルデ。その動きから、彼女の言葉が嘘であることを見抜いたニアズは「はぁ」と浅く息を吐く。

 おそらくここで彼女に「それは嘘だろ」と言及したところで、余計に負担をかけてしまうだけだ。となれば、何にも気付かなかったフリをしてやるべきだろう。

「そうか、なら良いんだ」と言った後、オレはヒルデから目を逸らし、第二試験が再開されたホール中央部へと視線を向ける。そうすれば、小さく息を飲む音が聞こえ――微かなれど「……に、ニアズさんが……守ってくれたから」と、ヒルデの声が耳に届いた。


「……ヒルデ?」

「!? あ、ぁあ……も、もしかして……きこえ、ました?」

「ああ、聴こえたな」

「そ、そ、そう、です……かぁ……」


 耳に届いたことを正直に肯定すれば、頬を真っ赤に染め上げたヒルデが自身のフードを深く被り直す。

 恥ずかしいのだ。と言わずとも理解出来た彼女の所作に、ここもまた知らないフリをした方が良かったのだろうな。と、ニアズは反省の情を抱く。

 とはいえ、過ぎてしまったことは仕方がない。今度からは気を付けるようにしよう。と、反省をすぐに消化したニアズはホールの中央部へと視線を戻した。

 互いに無言のまま、第二試験の様子を眺めていれば、直に試合のすべてが終わり、同時に合格者の名前が次々と読み上げられ始める。

 その内に、自身の名は有るだろうか。と内心焦るニアズ。だがソレは杞憂であり、無事「ニアズ」と、フィオナの口から彼の名が呼ばれた。


「合格おめでとうございます。えっと、これからもわたしと、仲良く……してくれます、か?」


 こわごわと、ニアズの顔色を窺うヒルデ。その様子を見たニアズは、すかさず彼女の頭に手を乗せ、優しく撫出た。


「ああ。こちらこそよろしくな、ヒルデ」

「……は、はい!」


 ニアズの言葉を聞くや否や、ヒルデは心配げだった表情から嬉々とした笑顔へと表情を一変させる。そして彼女の表情に影響されたニアズもまた、自身の顔に穏やかな笑みを浮かべた。


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