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【凱ノ乙女】に乗る二人の眼下に広がっていた光景。それは【飛竜】の血を浴び、白銀の装甲を黒ずんだ赤へと変えた【陸上探査艦‐ŋ】の凄惨な姿だった。
だがその光景の原材料となった【飛竜】たちは、警戒しているようで赤く染まった船から距離を取り始めている。
――今、この瞬間であれば、【陸上探査艦‐ŋ】に近付ける。
同様のことを、【凱ノ乙女】の操縦者も考えていたのだろう。空を飛ぶ【凱ノ乙女】は【飛竜】たちを刺激しないようやや遠回りに旋回し、オレたちが元居た船尾の甲板へと着地する。
そしてオレが降りると、入れ違いで【凱ノ乙女】の周りに【|自己修復人形《BA-クティリエ・ロイド》】たちが群がり、補給を行いはじめた。
「に、ニアズさぁん!」
どうやら腰が抜けてしまって、立ち上がれないらしい。【|自己修復人形《BA-クティリエ・ロイド》】が集う【凱ノ乙女】の掌の上に取り残されたトゥツーが気弱な声を上げる。
「はぁ、まったく……」
仕方がないな。と零しながらトゥツーの元へと戻り、手を差し伸べれば「トゥツー! ニアズ! 無事かい!?」と、大鎌を携えた血濡れのグリズが駆け寄ってきた。
「オレは大丈夫だが、トゥツーは医務室に連れて行った方が良い」
トゥツーに差し出していた手を引っ込め、オレはグリズの方へと顔を向けて小声で「ここにても足手まといになるだけだ」と告げる。すると彼女は「まあ、そうだわなあ!」と軽快に笑い、【凱ノ乙女】の手の中に取り残されているトゥツーへと手を差し出した。
「ほら、トゥツー。立てるかい?」
「え、あ……。すみませんグリズさん。まだ、ダメみたいです……」
「まったく、本当にアンタは世話が掛かるねえ!」
差し出されていたグリズの手におずおずと手を重ねるトゥツー。そんな彼の手を掴み、強引に引っ張ったグリズは、バランスを崩し【凱ノ乙女】の手の中から転げ落ちそうになったトゥツーを軽々と片手で抱き留める。
「ぐ、グリズさん!?」
「ぼ、僕、一人でちゃんと行けますから! 降ろしてくださいぃ!」と赤面し、グリズの腕の中でもがくトゥツー。しかし彼の弱々しい抵抗を気にすることなく、グリズはトゥツーを抱えたままニアズの前で仁王立ちになる。
「はいはい。腰を抜かしてるくせに、良くそんなことが言えるね! ってわけで、アタシは一旦トゥツーを中に連れて行くよ。ニアズは戻って来てくれて早々なんだが、負傷して動けそうにもない奴らを船内に入れておいてくれるかい?」
「入れておくだけで良いのか?」
応急処置をしろ。や、救護班を手伝え。でもなくわざわざ「船内に入れておいてくれ」と言ったグリズに、ニアズは訊ね返す。
「ああ。入れるだけで構わないよ。次、何時【飛竜】が来るか分からない以上、医療班を減らしたくはないからねえ」
「医療班の奴らには、全員船内で待機してもらってるんだよ」と続けたグリズに、オレは「なるほど、そういう意図があってのことか」と頷いた。
「なら、ニアズ。しばらくは頼んだよ!」
ぶん、とトゥツーを抱いていないもう片方の手で大鎌を振り、熊の如きグリズは船内へと入って行く。その姿を見送った後、オレはぐるりと辺りを見渡し、甲板の有様へ目を向ける。
人間と竜種の熾烈な戦闘。それを物語るように、息絶えた【飛竜】たちの姿があちこちに転がる中、負傷した多くの戦闘員を残っている数人の戦闘員たちが急いで船内へと運び入れていた。
そんな彼らの姿に倣い、ニアズもまた負傷した人間を次々と船内へと運び入れていれば、船に対する警戒を緩めたらしい。ずいぶんと数は少なくなったものの、【飛竜】たちが再び集いはじめ、「ギャオギャオ」と威嚇の声を発しだした。
「くそっ、早いな」
全ての負傷者を中に入れきれていない中で集まりはじめた黒の群れ。忌々しげにソレを睨み上げた後、ニアズは持ち場として指定されていた船尾へと戻る。するとそこには【|自己修復人形《BA-クティリエ・ロイド》】からの補給を終えたばかりと思しき【凱ノ乙女】が鳥型の状態で鎮座していた。
「そろそろ【飛竜】たちが来ると思うんだが、アンタは戦わないのか?」
問いかけに対し畳んでいた翼を甲板に広げ、自身の身を低くする【凱ノ乙女】。
「……乗れ、というのか?」
「Pi」
どうやら「乗る」ことで、間違いないらしい。【凱ノ乙女】からの即答に、これで船の損壊を防ぐためにしていた手加減をしないまま、自由に【飛竜】たちを迎撃出来る! と胸を躍らせたオレは【凱ノ乙女】の白い翼に脚を乗せ、本体側へと乗り上がる。そうすれば【凱ノ乙女】がゆっくりとその身を浮かせ、空へと昇りはじめた。
「っと、」
今回は先のように抱えられているわけではないため、気を付けてくれてはいるのだろう。だが落ちてしまっては元も子もないオレは片膝を着け、機体の凹凸部分に竜脚の爪を掛ける。
そうやって徐々に上昇を続けていれば、オレたちの存在に気が付いたらしい。【飛竜】の群れの一部が、こちらへと向かい始めてくる。
「【凱ノ乙女】! 出来るだけオレたちで数を減らすぞ!」
負傷者を全員船内へ入れられていない以上、少しでも上空で【飛竜】を食い止めなければ。
甲板に転がる負傷者たちとソレを運ぶ戦闘員たちの姿を思い出しながら、ニアズは剣に光子を纏わせ、自分たちの方へと迫り来る【飛竜】目がけて光子の斬撃波を撃ち放つ。
「【怒剣・斬波】ッ!!」
甲板での戦闘とは違い、威力を気にすることなく放たれた厚い光子の一線。ソレは近くにまで迫って来ていた【飛竜】の悉くを細々とした消し炭と化せるほどの威力だった。
「少し威力が強すぎたかと思ったが……こちらに気を向かせるには、丁度良かったみたいだな」
この一撃で危機感を覚えたらしい。こちらに構うことなく船へ降下しようとしていた他の個体の視線が集いはじめた中、オレは立ち上がり様に足場となってくれている【凱ノ乙女】へと声を掛ける。
「【凱ノ乙女】! オレは近間の奴らを切るから、周りの奴らは任せていいか?」
既に群れを形成し、こちらへと向かってきている【飛竜】たち。その全てをオレ一人でさばききるのは無謀。となれば光子光線を放てる【凱ノ乙女】に遠い個体を任せ、近くにやって来た個体をオレが一掃する。という戦法で戦った方が現実的だろう。
併せて【飛竜】を切る際に、彼らの背に乗るという手段を用いれば【凱ノ乙女】も心置きなく光子光線を放てるに違いない。
鳥型となっている【凱ノ乙女】の胸部――すなわち光子光線を放つための砲撃口が下を向いてしまっている旨を思い起こせば、「Pi」と足元の機体から音が放たれ、やや緩慢となっていた速度が上がった。
「同意、ってわけか。なら行くぞ、【凱ノ乙女】!」
「Pi」
速度の上昇と共に鋭くなった風圧を耐えるため。ひいては、迎撃態勢を整えるためにニアズは自身の頬や手に【呪い在りし竜】の鱗を生やさせる。そして黒の群れが目前に迫った瞬間を見計らい、光子の斬撃波で直線状に【飛竜】を焼き落とした。
「あとは任せたぞ!」
ニアズの作った直線状の『道』を進む【凱ノ乙女】。その白い背から【飛竜】の身体へと跳び移り、彼はその上で大きく身を捩り強めの斬撃波を放つ。そうすれば自ずとその攻撃は円形となり、ニアズの周囲に居た【飛竜】たちが一掃される。
一方、ニアズが斬撃波で作った『道』を高速で抜けきり、黒の群れの下方へ出た【凱ノ乙女】は自身の光子光線で群れの外周を焼き払う。そして自身の周囲を一掃したニアズの元へ戻り、その足場となった。
そんな戦法を主にしながら【飛竜】たちを迎撃し続けていれば徐々に彼らの数は減り、遂に最後の一体がニアズたち前で雪の大地へと焦げ落ちていった。
「やっと終わったな。【凱ノ乙女】、このまま船に降りてくれるか?」
「Pi」
オレの問いに対し、即座に発された電子音。正直【凱ノ乙女】が何を言っているのかは、共に戦った今であっても分からない。だが言葉こそ分からずとも、オレの中には【凱ノ乙女】と心が繋がっているかのような一体感が間違いなくあった。
というのも、「足場が欲しい」と思った時には即座にオレの足元へ着き、「あの個体が邪魔だ」と思えば光子光線で撃ち落としてくれる――という事が幾度となく先の戦闘で起きたからだ。
おそらくそれらは全て【凱ノ乙女】の操縦者が周りを見るのに長けているが故なのだろう。しかし、例えそうであったとしても言葉を交わさずとも意思の伝達が出来ていた以上、「心が繋がっている」と表現したとしてもあながち間違いではあるまい。
悶々と、今回の戦いについて思い出していれば、いつの間にか船尾へと帰ってきていたらしい。【凱ノ乙女】から催促のようにして「Pi」と音が発されたのを聞いたオレは、慌ててその純白の背から血ぬれの甲板へと降り立つ。
「【凱ノ乙女】、今日は本当に――」
「助かった」とニアズが振り返った瞬間、ごぅ、と強い風を巻き起こし、空へと飛び上がる【凱ノ乙女】。その小ざっぱりとした態度に物寂しさを感じていれば、甲板へと戻ってきた彼の元へ、グリズが駆け寄ってくる。
「ニアズ! アンタたち、すごく良い戦いぶりだったじゃないか! 甲板で待機していた奴ら全員、アンタたちの戦いに釘づけだったよ!」
「オレは出来ることをしたまでだ。それより、トゥツーの方はどうなったんだ?」
「ああ、あの子かい? 怪我自体は安静にして居れば大丈夫だそうだ。ただ精神的にかなり参ってるみたいだからねえ。今後戦闘に参加できるかは難しいね」
「そうか、無事ならそれでいい」
「まあ、無事であることに越したこたあ無いんだけどね。ただアタシとしては、あの子は目を離すとすぐに厄介ごとに巻き込まれるから、傍に置いておきたいんだよ」
「やっかい?」
トゥツーは何か問題ごとでも抱えているのだろうか?
不思議に思ったニアズが小首をかしげれば、「実は……」とグリズが声を潜めた。
「トゥツーは元々ドゥムの下っ端でね。あの子に対するアイツらの横暴さがあんまりにも目に余ったから、アタシが引き取ったんだ」
「……金で、買ったのか?」
管制室に行く際に、図らずも知ってしまったドゥムの価値観。そのことを踏まえて発言すれば、「知っていたのかい?」とグリズが自身の頭を掻く。
「知っていた、というよりドゥム本人が『買った』と言っていたからな。手放す場合も同じ手段を使うだろうと思っただけだ」
「はぁ……、まあいいか。何にせよ、アンタの言う通りアタシはトゥツーを金で買った。けど、あの子はアイツらから縁を切れないでいるみたいでね。目を離すとすぐに絡まれちまうんだ」
気弱であることが目に見えて分かるトゥツーは、彼らにとっては格好の獲物だろう。弱者へのいたぶりが好きそうなドゥムやその取り巻きの姿。そして、それらに囲まれて委縮するトゥツーの姿は容易に思い浮かべられる。
「だから自分の傍に置こうとしていたのか」
「ああ。少なくともあの子もアレでこの船の試験には合格しているからね。ただ、実戦となるとどうしても腰が引けちまうみたいだけど」
「スジ自体は悪くはないんだよ?」と、グリズはこの場に居ないトゥツーを擁護する。
「それで? ここまで話しておいて、お終い。って訳じゃあないんだろ」
「アンタ、察しが良いねぇ」
ニカッ、と歯を見せて笑ったグリズは、ドン、とニアズの肩を抱き、顔を近付けてきた。
「もしトゥツーが絡まれていたら助けてやってくれないかい? アタシや班員の奴らもずっと一緒に居られるわけじゃないからさ」
「……オレとて彼と一緒煮られるわけでもないし、そもそも厄介ごとはごめんなんだがな」
「とか言っても、アンタも弱い奴は見捨てられない質だろう? それに無償でやってくれ、って言ってるわけじゃあないんだ。もしアンタに困りごとがあったりした時は、アタシが手を貸してやるよ?」
厄介ごとは確かにごめんだ。だがもしもの際に、戦闘でも優れた実力を持ち、人間的な評価も高いであろう彼女の手が借りられることが確約されるのであれば、断るなど以ての外だろう。
僅かな逡巡の後、「わかった、トゥツーが困っているようだったら助ける」と答えれば、肩を抱くグリズが「なら、契約成立ってことで、よろしく頼むよ!」と背を叩いてくる。
「アンタはトゥツーを助ける。アタシはその見返りとして、アンタを助ける」
「ああ、それで構わない」
互いに視線を交わし、契約を成立させれば、「おーい! ニアズ!」と資材回収に行っていたソールが嬉々とした表情でオレたちの方へと走って来た。
「ソール、戻って来たのか」
「ああ! ニアズと【凱ノ乙女】が上でドンパチやってる時に戻って来れそうだったから、戻って来たんだ! って、グリズさんと一緒に居るってことは……もしかして!」
はっ、と息を飲み、グリズの顔を見るソール。
「あっはっは! 察しが良いねえソール! そうだよ! この有能なニアズはアタシの班で、そりゃあもういっぱいに活躍してくれたよ! それにたった今、契約もしたばかりだ!」
「なっ! ニアズは俺のところの班員だぞ!」
「はっはっは! わーかってるよ! アンタのとこから引き抜いたりはしないって」
ぐしゃぐしゃ、とソールの頭を撫で繰り回しながら「今はまだね!」と付け加え、グリズはパッとソールの頭から手を離す。
「じゃあアタシは班員の所に戻るとするよ! ニアズ、契約のことよろしくな!」
「ああ」
「って……、ニアズは俺のところの班員だから、例えグリズさんであっても引き抜きはさせないっすからね!」
手を振りながら離れていくグリズ。その姿を見ながら自身の髪を整えた後、ソールがオレの方へと視線を向けた。
「で、グリズさんとの契約って何だ?」
「ちょっとした人助けを頼まれただけだ」
「ああ、トゥツーってやつのか」
トゥツーについてのことは把握しているらしい。詳しいことを話さなくても、言葉の意味を理解したソールは「しっかし、ニアズは運が良いよな!」とオレの背を軽く叩く。
「どうしてだ?」
「いやだって、こうやってグリズさんに気に入られてるし、あの【凱ノ乙女】とも共闘できてるし!」
「それは、運が良いことに入るのか?」
「自覚ないのかよ! 良いか!? グリズさんはこの船でもかなり信頼の厚い人だから、あの人に気に入られたら百どころか千人力になるんだぜ! それに【凱ノ乙女】は艦長の私物だから、よっぽどのことが無いと出撃しないって話だし! なのにもうあんな息ぴったりで戦えるなんて、運が良くないと出来ないだろ!?」
「傍から見ても、以心伝心! って感じですごかったし!」とソールがニアズの背を再び叩く。すると、そんな二人の背後から「ソレは運というより、相性と言うべきなのではないのか? なあ、ソール隊員?」と鋭い女の声が発せられた。
「ひっ、フィオナ艦長ぅ!?」
後ろに居た人物を見るや否や、ソールは顔色を真っ青にさせ震えはじめる。
「ソール。貴様、私の所に報告せずに此処でお喋りをしているとは、良い度胸だな? 自己判断で強行的に戻って来たにも関わらず、生存報告をするのがそんなに手間か?」
「なあ?」と圧力をかけてくるフィオナに、ソールは深々と頭を下げ「す、すみませんでしたーっ!」と声を放つ。
「はぁ……。仲間のことを大事に思うのは結構だが、せめて報告をしてからにするように。ヴィーザルとシェリーが来なかったら、他の者らに貴様らを探しに行かせていたところだったぞ」
自身から少し離れた位置に居たヴィーザルに視線を向けた後、フィオナは未だに頭を下げ続けているソールを睨み落とす。
「ソール隊員は、次回以降気を付けるように。そしてニアズ隊員」
「なんですか」
ソールに向けていた鋭い目とは違い、労わりの籠ったフィオナの視線。それを向けられたオレの背筋は自ずとピンと伸びる。
「病み上がりだというのに、今日は良くやってくれた。貴様と【凱ノ乙女】との戦いぶりには、管制室の者たちも目を奪われていたぞ。機会が無いに越したことはないが、万が一、このようなことがまた起きた場合は、同じように【凱ノ乙女】と共に戦ってくれるか?」
「はい、構いません」
「ふふ、潔い返事だな。ならば期待しているぞ」
オレたち以外の所も回らなければならないらしい。「じゃあな」と言葉を残し、フィオナは離れた場所に居たヴィーザルを連れ立って甲板の別場所へと移動する。
「……それで、ソールは自己判断で、しかも強行的に帰って来たんだな?」
「うっ……。だ、だってニアズたちのことがすげー気になったんだよ!」
フィオナたちが居なくなってからやっと頭を上げたソールに、やや辛辣な言葉で話しかければ、彼は腕を振りながら反論する。
「それに、安全だと思ってた旧市街地に【飛竜】が出るなんて思ってなかったし! オレたちの身の安全を考えてのことだとは思うけど、船が離れちまうから心配で心配で!」
「だからと言って、報告しに行かないのは、ダメダメの極みだにゃー! 『うちのソールが御迷惑をお掛けしてすみません』って謝りに行くこっちの身にもなってほしいのにゃ!」
ソールと共に戻って来ていたのだろう。甲板掃除に使う道具一式を持ったマォとシェリーが憤慨した様子でソールの前に立った。
「それにフィオナさんが私たち隊員の事を思っておられるのは、貴方も知っているでしょう」
「これ以上彼女に心労をかけるのは、よくありませんよ」と、付け加えながら持っていた掃除道具の一部をシェリーがソールへと押し付ける。
「うぇー」
「まったく、目を離すとすぐに好奇心にかまけて何処かへ行ってしまうんですから……」
「そうだにゃー! 少しは自制心とか言うモノをその心に芽生えさせてほしいにゃ!」
マォとシェリーから散々に言われながらも、事の重大さについては反省しているらしいソールが「はい、以後自制心を芽生えさせるように精進します……」としょぼくれながら返事をする。
「うむ、よかろうにゃ! ってことで、甲板掃除はソールに任せて、ニアズは船内に入っていいにゃ!」
「いや、オレも手伝う」
シェリーやマォが持っている掃除道具一式を受け取ろうと手を差し伸べるが、両者共にオレには何も渡そうとしない。
「私たちは今日、何も出来ていないので、体力が有り余っているんです」
「それに、ニアズは今日一番の功労者にゃ! 労わらせてほしいにゃ!」
「……そういう、ものなのか?」
頑ななまでに掃除道具を渡そうとしない二人にそう問えば、「そういうものです」「そう言いうモノにゃ!」と計らったようにシェリーとマォは同時に頷いた。しかも「ほらほら、今日はもう身体を休めるにゃ!」と二人に背を押され、オレはぐいぐいと船内へ押し込まれる。
半ば無理矢理に休息を与えられたオレは「まあ、そう言われたなら……休むか」と、空腹になった腹を摩りながら食堂の方へと歩を向けた。




