(15)休日の過ごし方
「アメリア、ありがとうね」
「はい、ヨランダさん。お大事に」
喉が痛いと訴えてきた患者の診察を終え、店内に客もいなくなったタイミングで、アメリアはランデルに声をかけた。
「さて。一段落したし、休憩しない?」
「そうね」
そして店の奥でお茶を飲み始めながら、二人は会話を交わす。
「先生の所にはリリアが直接届けてくれることになったから、明後日には戻るわよね」
「そうだな。じいさんが内容を確認するのに、少し時間がかかるかもしれないが。そう言えば、リリアと入れ替わりで、俺も一度向こうに戻ろうかと思うんだが」
「え? 何かあった?」
「まだ乾物商から薬種材を売って貰えないだろう? そろそろ在庫が少なくなってきている物があるからな」
その指摘に、アメリアはがっくりと項垂れる。
「う……、ランデル、本当にごめんなさい……」
それにランデルは笑って応じた。
「気にするな。しかし薬師組合も組合長が替わったのに、相変わらず嫌がらせを続けているとは、本当にろくでなし揃いだな」
「それはある程度予想してはいたけど」
「それに加えて、最近、他で咳止めを貰えなくて、他の患者から紹介されてここに来る奴がぼちぼちいるんだよな」
「そうなのよね。患者が増えるのは良いんだけど、それで予想以上に薬の減りも速くなっているし……」
憂い顔になった彼女を宥めるように、ランデルが声をかける。
「繁盛していて結構なことじゃないか。安心しろ。しっかり確保して来てやる。運送料を含めて、代金は後払いで良いからな」
「ありがとう。お願いね」
そこでランデルが、唐突に話題を変えた。
「それにしても……、アメリア。お前、ちょっと働き過ぎだと思うぞ?」
「え? どこが?」
「この薬師所、開設してから毎日開けているだろう?」
「それはそうだけど。それがどうかした?」
「軌道に乗るまではできるだけ開けておきたい気持ちは分かるがな。ちょっとは休め。適度な休息を取らないと、自分の体調と判断に支障を来すぞ?」
真剣な面持ちで忠告してきたランデルに、アメリアは微妙に納得しかねる表情になる。
「う~ん、まだそんなに疲れている感じはしないんだけど……」
「そう自覚してからじゃ遅いって事だ。他の所だって、連日開けている所は働いている人間が大勢いるところだろう」
「まあ、それは確かに、そうだと思うけど……」
「ただ休むにしても、急に休むと訪れた人間が困ると思うから、予め休日を決めて看板でも出しておけば良いと思うが」
「そうね……、うん、分かった。考えてみる」
そこで新たな客が来店したため、定休日についての話題は終了した。
※※※
予定通りリリアが戻ってくるのと入れ替わりで、ランデルは薬材調達のために旅立った。そしてリリアはアメリアと共に店に立ちながら、自分がいなかった間のことを尋ね、店の表に掲げられた看板について知る事となった。
「ああ、それで表に営業時間のお知らせの看板が出ていたのね」
「うん。そういえばすっかり忘れていたなって。二ヶ月以上経って言われてから気付くなんて、迂闊だったけどね」
「まあ、暗くなってから出歩く人なんかいないから、頃合いをみて適当に閉めて支障はなかったけど。きちんと決めておいた方が良いのは確かね」
「そういうわけで、取りあえず明後日は休みにしてみるから。急患がいれば対応するけど」
事もなげにそんなことを言われたリリアは、怪訝な顔で問い返した。
「え? それなら一日、この家にいるつもり?」
「そのつもりだけど?」
「せっかくの休みだし、仕事を忘れてゆっくりしてきたら? そうしないと本当の意味で休みにならないんじゃない?」
「そうかしら?」
「そうよ。もしかして、ここに来てから買い出しとか必要な時以外に外に出ていないんじゃない?」
「……言われてみれば、そうかも」
思わず考え込んでしまったアメリアを見て、リリアは小さく舌打ちした。
「本当にサラザールったら、気が利かないにも程があるわね。生活に必要な所だけじゃなくて、王都の案内くらいしなさいよ」
そこでアメリアは、慌てて兄をかばった。
「そこまで兄さんに面倒をみて貰わなくても。分かった。明後日は今まで出向いてない所で、息抜きしてくることにするから」
そこですかさずリリアが、更なる助言を繰り出す。
「それなら、それはサラザールには内緒にしておきなさい」
「え? どうして?」
「絶対、保護者同伴で王都観光をする羽目になるか、尾行される未来しか見えないわ」
「……分かった。そうする」
大真面目に断言された内容を否定できなかったアメリアは、多少脱力しながら頷いたのだった。




