(14)不審な虫除け
ほどなく到着した紹介された店は、これまでに何度も門前払いを食らった、因縁があり過ぎる乾物商の店だった。
「いらっしゃい、……なんだ、また、あんたか」
自分の顔を見るなり露骨に嫌な顔になったゴーシュに対し、アメリアは冷静に話を切り出す。
「安心してください。今日は薬の仕入れではありませんから」
「じゃあなんでうちに来たんだい?」
「売って欲しいものがあるんです。薬の原料じゃなかったら、別に構いませんよね?」
「……何が欲しいんだよ?」
若干警戒しながら尋ねてきた彼に、アメリアは淡々と問い返した。
「夏ごろに流行った、虫除けの籠はありますか? もちろん中身入りでお願いしたいのですが」
それを聞いた彼は、意外そうな顔つきになる。
「ああ、あれか。だが虫の季節はとっくに終わったが?」
「少し確認したいことがあるので。季節ではないから、今は在庫はありませんか?」
「いや、今でもぼちぼち売れているから、在庫はある。ちょっと待ってくれ」
そこで一旦奥に消えたゴーシュは、すぐにエルマの家で見た物と寸分違わぬ物を持ってきた。それをカウンターに置いて、アメリアに説明してくる。
「ほら、これだ。使い方は分かっているか? 一応使い方の説明書をつけてあるから、一通り読んでくれ。香らなくなってきたと感じたら、詰め替え用も売ってるから、また来てくれればいい」
「ご親切にどうも。それで、これは全部まとめておいくらですか?」
皮肉を交えて値段を確認したアメリアは、手持ちのお金で間に合ったのを幸い、早速購入して薬師所に持ち帰った。
※※※
戻ってすぐ、店をリリアに任せたアメリアは、ランデルと共に診察室に籠もった。そして机の上に買ってきた物を載せ、彼に一通り事の次第を語って聞かせた。
「それで、買ってきた問題の虫除けがこれか……」
「そうなの」
アメリアは説明しながら、円筒部に摘められていた薬草を取り出し、横に広げた白い布の上に広げた。ランデルは、その中身と虫除けの素材を凝視しながら呻くように口にする。その反応を見たアメリアは、困惑顔で意見を求めた。
「筒から薬草を出してみたけど、特に怪しいところは無いわよね?」
「そうだよなぁ……。これはどこからどう見てもミリジャー、シュオウ、リーキルのブレンドだな。すべて気持ちを落ち着かせる作用のあるもので、香りも出やすいタイプの物だ。確かにミリジャーとシュオウには虫除け効果もあると言われているし、一見、特に不審なところはないが……」
「ランデルもそう思うわよね? もちろん、こっちの香油もそうなんだけど……」
セットになっている小さな瓶の蓋を開けていたアメリアは、中身の香りを嗅ぎながらそれが何かを見当づけた。手渡されたランデルもその内容を確認し、彼女の意見に賛同する。
「まぁ、そうだな。薬草の含有成分を普通に揮発しやすくするものだし、今のところ不審な感じはしない。世間に普通に出回っているものだしな」
「やっぱり考えすぎかなぁ……」
自分の意見と同様であったことに安堵する反面、疑問を解消する突破口にならなかったことで落胆する気持ちを抑えられなかったアメリアは、重い溜め息を吐いた。そんな彼女に対し、ランデルが提案をしてくる。
「そうは言っても……。俺もなんとなく引っかかるんだよな。なあ、アメリア。ここは一つじいさんの判断を仰がないか?」
「先生に?」
「あぁ。薬師として独り立ちしたと認められたいお前にしてみれば、こっちに来て何ヶ月かで頼ることになるのは不本意だろう。だが、俺達だけで悩んでいたら、いつまで経っても解決しない可能性だってある。ここは一つ、先達の知恵を借りるのも悪くはないと思うぞ?」
それを聞いたアメリアは真剣な面持ちで考え込んだが、それほど長くは悩まなかった。
「確かにそうね。変な意地を張っている場合じゃないかもしれないわ。何も問題がなかったら、それはそれで安心できるもの。これをそのまま竜の国に届けて、直に見てもらったほうがいいわよね?」
「そうだな。こちらでは購入しようと思えば、いつでも入手できるから」
「そうと決まれば、早速リリアにお願いしないと。リリアは店よね」
「俺も戻る。店は俺が見ているから、二人で相談して向こうに送る手筈を整えてくれ。アメリアはじいさんに連絡して、調べてもらうように予め頼んでおいた方が良いぞ?」
「分かった。そうするわ」
そこで二人は慌ただしく動き出し、問題解決に向けての一歩を踏み出した。




