(11)相談
「アメリア?」
「ああ、入れ違ったな。アメリアはさっき部屋に引き上げたぞ」
「そうか」
すぐに踵を返しかけたサラザールの背中に、ランデルが声をかけた。
「なあ、サラザール。ちょっと聞いて良いか?」
「何だ?」
「最近、王都内の治安はどうだ?」
さりげない問いかけに、振り返ったサラザールは若干警戒しながら問い返す。
「……特に問題はないな。何が聞きたい?」
「アメリアの勘を聞いて、ちょっと俺も勘働きしてみようかと思ったんだ。ここに来てから、どうにも嫌な感じがする」
「例えば?」
「例の妙な咳をしている患者。話を聞いているだろう?」
その問いかけに、サラザールは真剣な面持ちで頷く。
「勿論知っている。警備隊でも症状が長引いている奴がいるからな」
それを聞いたランデルは、素で驚いた顔つきになった。
「いるのか? 警備隊なら、若くて体格的にも恵まれている人間が多いと思っていたが」
「若くて体格的に恵まれていても、不健康な人間はいるさ」
「そいつ、結構裕福か?」
唐突な上、脈絡がなさそうな問いかけに、サラザールは軽く目を見張った。
「……いきなり何を言い出す」
「いいから答えろ」
有無を言わさない物言いに、サラザールは怪訝な顔で少しだけ考え込んでから告げた。
「そいつが裕福というわけではないが、父親がかなり羽振りの良い商人だったはずだ。所謂、典型的な怠け者のドラ息子だな。店の中で遊ばせていたら他の従業員のやる気を削ぐから、コネを使って警備隊に押し込んで働いている体をとっているというわけだ」
「なるほど……」
「それがどうした?」
どうしてそんなことを尋ねるのかと問い返されたランデルだったが、それには直接答えずに質問を続ける。
「他にも症状が出ている隊員はいるか?」
そこで何やら重要な内容らしいと察したサラザールは、顔つきを改めて確認を入れた。
「隊員全員と面識があるわけではないが、可能な限り調べてみた方が良いか?」
「ああ。ひょっとしたら、ひょっとするかもしれない。経済状況や生活習慣とかもさりげなく確認してくれたら助かる」
「分かった。周囲から不審に思われない程度に、慎重に調べてみよう。最近、魔術師が視界に入る事が多くて、あまり不安要素を増やしたくないからな」
それを聞いたランデルは、不思議そうに尋ね返した。
「店にいる俺達はともかく、どうしてお前が?」
「ギブス人材紹介所の近くを歩いていたら、副組合長に出くわした」
それだけで状況を察してしまったランデルは、思わず額を押さえながら溜息を吐く。
「お前……、下手に探りに行くなよ……」
「そんなことはしていない。たまたまだ」
「話が逸れたが、その咳が流行り出した時期を再確認したい」
不毛な会話を早々に打ち切り、ランデルは話を進めた。それにサラザールが即座に応じる。
「俺が自覚したのは、夏の暑い時期が終わりかけた頃だな。他の人間に聞いても、同じ時期と答えると思うぞ?」
「俺も以前、そう聞いている。その直前、もしくは少し前に世間で気になることはなかったか?」
「そうは言ってもな……、今年の夏はいつもより暑くて、虫が大量発生して困ったくらいだな。もっとも俺に虫は寄ってこないし、周りの人間がそう言っていたのを聞いたんだが」
サラザールは考え込みながら意見を述べた。対するランデルも小耳に挟んでいた情報であり、考えを巡らせる。
「虫……、虫刺されが誘因か? だが、それならアメリアも気がつくだろうしな……。診療録に、それらしい記述もなかった……」
そのまま小声でブツブツと呟いているランデルを少しだけ眺めてから、サラザールが話を続けた。
「さっき治安がどうとか言っただろう? 治安は悪くないが、一部の住人の不平不満が溜まりつつある事柄だったらあるな」
「何だ?」
「さっきの妙な咳の話に関係しているが、咳止めが高騰している。それで薬代が嵩んで、患者とその家族が困っているらしい」
それを聞いたランデルは、納得して頷く。
「ああ、その話は聞いている。原料の生産地が隣国のバルザードだが、今年は不作であまり入って来ないんだろう? それに咳の患者が増えて、余計に値が釣り上がっているとか」
「どうせどこかで買いだめしているとか、そんなことじゃないのか?」
「その可能性はあるが、現時点では良く分からないな」
そんなことを話していると、新たな声が割り込んだ。




