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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原皐月
第3章 そして事態は混迷を深める

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(10)疑問

 夜に薬師所の診察室で診療録を広げて目を通していたアメリアのところに、ランデルがお茶が入ったカップを手に現れた。


「遅くまで大変だな」

「ありがとう、ランデル」

「仕事熱心なのは良いことだが、そろそろ切り上げて休んだほうがいいぞ?」

 カップを受け取りながら、アメリアはその忠告を素直に受け入れた。


「うん、分かってる。そろそろ切り上げようと思っていたの。それにしても……」

 そこで彼女は、目の前に広げていた複数人の診療録に視線を落としながら、溜め息を吐く。それを横目で見たランデルも、同様の苦々しい顔つきになった。


「ああ、例の、変な咳が長引いている患者の症例か」

「そうなの。いろいろ考えてみたけど、いまだに原因がはっきりしなくて。本当に何なのかしら……。この治ったかと思うとぶり返すって言う、気持ちの悪さ。原因がはっきりすれば、根本的な治療ができるはずなのに……」

 その愚痴っぽい呟きに、ランデルも真顔で同意した。


「本当だよな。俺も同じ症状が出ている患者の診療録全部に目を通してみたが、共通する項目が全く見当たらないとは。解決の糸口すら掴めないのが、しゃくに障って仕方がない」

「しかも咳が早期に治った人は問題がないのに、何回もぶり返している人に限って他にも頭痛とか倦怠感とか手足のしびれとか、色々な症状が発現しているのよね」

「それが益々謎なんだよな。そんな特殊な経過を辿る症例なら単なる風邪ではないはずだし、幾ら何でも生活習慣とか病歴とか性差や年齢とか思い当たる項目が出てきそうなものだが」

 ランデルが考え込みながら告げると、ここでアメリアが自信なさげに言い出す。


「共通する事柄が、全くない、ということは、ないかもしれないんだけど……」

 もの凄く歯切れの悪い物言いに、ランデルは不審に思いながら詳細について尋ねた。


「アメリア? 何か思い当たることがあるのか?」

「ええと……、共通すると言えば共通するかな、という感じだけど……。この患者さんたちの家って、割と裕福な人たちなのよ」

「うん? どういうことだ?」

 さすがに意表を突かれたランデルが、当惑しながら問いを重ねた。それに彼女は、自嘲気味に答える。


「ここは庶民の街だから、お金持ちと言う意味合いではないの。周りの人たちと比べて、生活に余裕があるという程度の話だけど。それに、色々聞き取りをした上での情報でしかないし……。漠然としすぎているわよね」

「それはまた、なんとも微妙な表現だな……。言いたいことはわかるが」

「これは私の主観的なものだし、だから、どうだと言われても困るんだけど」

「『比較的裕福』か……」

 そこまで話を聞いたランデルは、真顔で考え込んだ。それを見たアメリアは、焦ったように声をかける。


「ごめんね、ランデル。変なことを言ってしまって。今言ったことは気にしないで」

 しかし彼は、真剣な面持ちのまま首を振る。


「いや、俺は薬師としてのアメリアの勘を信じるぞ? 意外に、こういう勘が核心をついてるって事が往々にしてあるからな。気になるなら、その方向で少し考えてみてもいいと思う」

「うん、そうね。そうしてみる。じゃあそろそろ切り上げるわ。ご馳走様」

「どういたしまして」

 会話の合間に少しずつ飲み進めていたアメリアは、手早く診療録を元通り棚にしまい込み、空のカップを持って診察室から出て行った。対するランデルは、そのまま診療録の棚を眺めながら、真剣な表情のまま独りごちる。


「どういうことなんだろうな……、じいさんに報告するのは最終手段だと思うが……。それに患者の他にも、何となく嫌な感じがするんだよな……」

 ブツブツと考えにふけっていたランデルの耳に、サラザールの声が聞こえた。



 



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