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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原 皐月
第3章 そして事態は混迷を深める
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(2)リリアの追及

 店先で茶を飲むわけにもいかず、患者がいないのを幸い、アメリアはルーファを奥の診察室に招き入れた。そしてリリアと共に折り畳み式のテーブルを広げ、椅子を引き寄せる。そして三人でテーブルを囲んでいるうちに、ランデルが茶器と菓子皿を運んで来た。


「お待たせしました。どうぞ」

「ありがとうございます。ご馳走になります」

 引き攣り気味の笑顔で、ランデルはお茶を注いだカップをテーブルに置いた。それにルーファが神妙に礼を述べる。そして全員がカップを手にして一口飲み終えたところで、リリアが満面の笑みで自己紹介を始めた。


「ルーファさん、私はリリアと言います。初めまして。アメリアとは以前同じ田舎に住んでいて王都には出稼ぎに来ていたのですが、アメリアがこちらで薬師所を開いてちょっと人手が足りなそうだと聞いて、暫く手伝う事になりました。これからお目にかかる事が多いと思いますし、宜しくお願いします」

「ご丁寧にどうも。ギブス人材紹介所に所属しているルーファ・ガルダーです」

 礼儀正しくルーファが頭を下げて応じると、ここからリリアが質問攻めにし始める。 


「それじゃあアメリアと同じように、ルーファさんと呼ばせていただきますね? ルーファさんはご家族は? お一人でお暮しですか?」

「ああ、いや……、父親と兄と、兄嫁がいます。良く家族がいる所に顔を出してはいますが、一応別居しているもので……」

「お一人暮らし? あ、もしかしてご結婚されてます?」

「いえ、独身です」

「お仕事は傭兵だと伺ってますけど、そうなると仕事とか収入はやっぱり不安定ですか?」

「はあ……、一定数の仕事は入りますしある程度の収入は入りますが、不安定と言えば不安定ですね……」

 若干たじろぎながらも、ルーファは律儀に質問に答えた。しかしとても傍観できなかったランデルは、慌てて二人の会話に割り込む。


「ちょっとリリア! あなた初対面の人に、なにをズケズケ失礼な事を聞いているのよ!?」

「あら、これくらい良いじゃない」

「ちょっと店舗に来て! 在庫数を確認するから!」

「あ、ちょっとラリサ! 引っ張らないでよ!」

 そこで有無を言わさずリリアの腕を掴んだランデルは、呆気に取られた様子のアメリアとルーファをその場に残し、店舗へとリリアを引きずって行った。そして声を押し殺しながら叱りつける。


「おい、何を考えてるんだよ!! あんな根掘り葉掘り聞いたら、幾ら何でも不審がられるだろうが!?」

 しかしそれに対し、リリアは堂々と言い返した。


「何を言ってるのよ。さっそくアメリアの交友関係が広がっているのに、手をこまねいているなんて駄目でしょうが。かと言って、片端から出会いを潰していくなんて論外よ。それだったら目の届く範囲で、変な男かどうかきちんと見極めてあげれば良いじゃない」

「はぁ!? お前まさか、あの男がアメリアに纏わりついても構わないとか言う気か!?」

「話を聞く限り、魔力持ちで魔術師組合の関係者ではあるけど、魔術師ではないし性格は良さそうだもの。暫く観察してみても問題はないでしょう?」

「お前、正気か!? サラザールに聞かれたら、消し炭にされかねないぞ!?」

「サラザールの過保護ぶりも、いい加減にした方が良いと思うわ。アメリアが自立しようと頑張っているんだから、一々あの子の人付き合いに口を出すのは控えた方が良いと思わない?」

 そう言い聞かされたランデルは、相手の言い分にも理があるのを認めざるをえなかった。


「それは、まあ……、確かに一理あるかもしれないが……」

「わざわざお菓子を持って、ここまで顔を見に来るのよ? これは絶対、脈ありと見たわ」

「リリア……。お前絶対、面白がっているだけだろう?」

 そこでニヤリと笑って診察室に顔を向けたリリアを見て、ランデルはうんざりした様子で溜め息を吐いた。




 一方、診察室に取り残されたアメリアは、気を取り直してルーファに謝罪した。


「すみません、騒がしくて。リリアは社交的なもので、初対面の人に物怖じしないで話しかけてしまうんです」

 それにルーファは、苦笑で応じる。


「いや、気にしていないから。というか、ちょっと警戒されていたかな?」

「警戒? どうしてそんな風に思うんですか?」

「うん、まあ……、その、彼女もラリサさんと同じく、君の保護者の空気が漂っているなぁと……」

「保護者の空気、ですか?」

「実のお兄さんが側にいるし、正直ちょっと羨ましいかな」

 そんな事を、複雑な表情で口にしたルーファを見て、アメリアは慎重に尋ねてみた。


「さっきご家族とは別居しているって聞きましたけど、ご家族と仲が悪いんですか?」

「あ、いや、そんなに悪くはないけど、色々と事情があってね」

「そうですか……」

(あまり家族の話はしない方が良さそう……。私も、突っ込んで聞かれたりしたら、色々拙いものね)

 微妙に次の話題に困ったアメリアだったが、ここでルーファが控え目に声をかけてくる。


「その……、ここに来たついでと言っては何だが、少し君の意見を聞きたい事があるのだが……」

「何ですか? 私に答えられる事であれば、お答えしますけど」

 話題が変わる気配を察したアメリアは、安堵しながらルーファの言葉を待った。



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