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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原 皐月
第2章 世知辛い世間
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(33)問題山積

「サラザール!! 何訳知り顔でほざいてるのよっ!! アメリアの最終的な希望が、竜と人間の和解と相互理解って知っていたわよね!? それならそれで、魔術師の生活環境とか人々の竜に対する意識調査なんてものは、あなたが予め調べてアメリアに伝えておくべき事柄でしょうがっ!! こっちに来て一年以上、何をしていたわけ!?」

「リリア!? お前、どこから湧いて出た!?」

「失礼ね!! 人を虫みたいに言わないで頂戴!!」

 ドアを乱暴に開けると同時に怒声を放ったリリアを見て、サラザールは動揺した声を上げた。そんな幼馴染を一喝したリリアは、彼の横で腰を浮かせたランデルもまとめて叱りつける。


「だいたい、ランデル!! あなたまでどうしてここにいるの!? そして二人揃っていながら、一体何をやっているわけ!? 何がどうなったら、アメリアと魔術師が親しく会話する関係になっているのよっ!!」

 その詰問に、ランデルは狼狽しながら問い返す。


「リリア、落ち着け! これには、色々と深いわけがあってだな!? それよりお前、どこから話を聞いてたんだ!?」

「 アメリアが『今日サイさんと、他の魔術師の人にも、竜についてどう思うか聞いてみたんだけど』とか話していた辺りからよ!」

「殆ど最初からかよ……」

「 話の内容が内容だから何事かと思って慎重に聞き耳を立てていたら、ろくでもない話になっているし!! アメリアがこっちに来てから、一体何があったのよ!?」

「いや、それは……」

「色々と込み入った事情が……」

「ガタガタ言ってないで、洗いざらいとっとと吐け!!」

「……はい」

 興奮しきった憤怒の形相のリリアを宥めるのは無理だと判断したサラザール達は、神妙にこれまでの一部始終を語って聞かせた。そして一通り聞き終えたリリアは、テーブルに両肘をつき、両手で額を押さえながら呻くように告げる。


「なるほど……、薬師として働こうとしたら、有無を言わさず薬師組合とやらの怪しげな共助組織に取り込まれそうになって、それを拒否したら人間風情が露骨な営業妨害をしてきやがったわけね……」

「あ、あのね? リリア。最近は入会を無理強いするような行為は無くなったし、ランデルに運んできてもらった分で当面の在庫は間に合っているから、大した問題ではなくて……」

 おろおろしながらも、アメリアは精一杯弁解した。しかしリリアの追及は止まらなかった。


「それで? その嫌がらせの意趣返しを派手にやらかしたせいで、アメリアが魔力持ちだと魔術師にバレてしまって、確認のためにここに乗り込まれてしまったわけよね?」

「確かに、魔術師がここに乗り込んできたのは計算外だったが、俺達がやった事はタチの悪い魔術師の仕業と誤解されているんだから、別に問題ないだろう」

 ここで憮然とした表情でサラザールが口を挟み、アメリアは身振り手振りで(黙ってて!)と訴えた。そんな微妙な空気の中、リリアの怒りを内包した声が伝わってくる。


「その挙句……、この店が魔術師の溜まり場になっているのも問題ないとか言って、開き直るつもり?」

「溜まり場とか言わなくても……。単に、複数の魔術師が、ここの常連になったってだけの話だろう。固い事を言うな」

「…………」

 完全に自棄になっている口調で、ランデルが素っ気なく言い放った。そこでリリアが顔を上げ、男二人を睨みつける。その緊迫した空気に耐え切れなかったアメリアは、涙目でリリアに頭を下げた。


「り、リリア。心配かけてしまって、本当にごめんなさい! でも今のところ、魔術師の皆さんにも身元を怪しまれてはいないし、店も軌道に乗り始めたし、本当に大丈夫だから!!」

 今にも泣きだしそうなアメリアを見て不憫に思ったリリアは、何とか怒りを抑え込んで優しく声をかける。


「……分かったわ、アメリア。あなたの言葉を信じるから」

「ありがとう、リリア!」

 安堵したアメリアだったが、ここでリリアが顔つきを改めて指摘してきた。


「だけどね? 目下のところ、かなり難しい問題が一つあるのよ」

「な、何?」

「アメリア。あなた、何か忘れている事はない?」

「え? 忘れている事?」

「どうして私が、ここに来ていると思う?」

「どうして、って……」

 重ねて問われたアメリアは、困惑しながら考え込んだ。そんな彼女に対して、リリアが淡々とある事を伝える。


「国を出る時に、当面、ひと月に一回はエマリール様に手紙を送るって約束したわよね? もうひと月半近く過ぎているけど、あなたやサラザールから全く連絡がないから、あなたが病気になっているんじゃないかとか、そんなあなたを放置してサラザールが遊び歩いているんじゃないかと、エマリール様が相当気を揉んでいらっしゃるのだけど」

 それを聞いた瞬間、アメリアの顔から血の気が引いた。そして狼狽しながら謝罪の言葉を口にする。


「すっかり忘れてた!! ごめんなさい、リリア!!」

「ええ、事情は分かったわ。色々あり過ぎて、頭から抜け落ちていたのよね」

「そうなの! 本当にごめんなさい!!」

「私には謝らなくて良いのよ。謝るべきなのはエマリール様にでしょう?」

「うん、そうよね!! すぐに手紙を書くから!! リリア、急いで届けてくれる!?」

「それは構わないけど……、どんな風に書くの? 正直に書いたりしたら、エマリール様が激怒すると思うのだけど。そうなるとサラザールとランデルは、制裁対象確定ね」

「…………」

「リ、リリアぁ……」

 冷静に問題点を指摘されたアメリアは、瞬時に固まった。そしてサラザール達も、何とも言えない顔を無言で見合わせる。


「ごめんなさいね、アメリア。私も仕事だから、ここにある書いてある内容は本当か嘘かと聞かれたら、正直に答えるしかないわ。だからまるっきりの嘘は書かず、だけど余計な事は書かず、それでも順調に生活している表現にすれば良いと思うけど。書けるかしら? ああ、勿論、連絡が遅くなったことに対する謝罪の言葉は必須だけど」

 それが、リリアなりの最大限のアドバイスだと分かったアメリアは、がっくりと肩を落としながら懇願した。


「リリア……、少しだけ時間を頂戴。なんとかして、朝までには書き上げるから……」

「分かったわ。頑張ってね」

 その夜。アメリアは机に向かって一晩かかってエマリールへの手紙を書き上げ、リリアは朝まで男達への説教に勤しんだのだった。








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