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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原 皐月
第2章 世知辛い世間
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(30)魔術師との交流

「やあ、アメリア。また寄らせて貰ったよ」

 昼過ぎの、ちょうど客の途切れた時間帯。総白髪で好々爺にしか見えない老人が、静かに店内に入って来た。その人物を一目見て、アメリアとランデルは僅かに顔を引き攣らせたが、何事もなかったかのように笑顔で出迎える。


「サイさん、いらっしゃいませ」

「今日もお元気そうで何よりです……」

「いやいや、この年になると、さすがにあちこちガタがきてしまってな。この前の湿布、あれは良かったぞ? 腰の痛みが、次の日には感じなくなった」

「それは良かったです……」

 カラカラと笑うサイ・アジェンダは魔術師組合長その人であり、その頃にはこの店の常連と言っても良い頻度で出入りしていた。


(バルナーさん、恨みますよ!? あれ以来、魔術師組合でも上層部の人ばかり、入れ替わり立ち替わり出入りするようになってしまって!! 腕が良い薬師だと宣伝していただいたのは、本当に、本っ当に嬉しいんですが!?)

 サイ以下、魔術師組合でも長老の部類に入る面々が良く顔を見せるのが周囲に知れ渡るのも早く、店内であからさまにラリサに言い寄る男はいなくなった。更にそのせいかどうかは不明だが、あれ以降薬師組合からのあからさまな妨害工作なども鳴りを潜めており、それはそれとして良かったものの、代わりに別の心労が増えた気がしているアメリアだった。


「それはそうと……、そこのお嬢さん」

 唐突に呼びかけられたランデルは、慌ててラリサとしての笑顔を取り繕う。


「はっ、はいっ! 何でしょうか!?」

「お名前を聞いてもよろしいかな?」

「あ、は、はい……。ラリサと申しますが、何か……」

「うむ、ラリサさんか。良い名だ」

「ありがとうございます……」

「実は、ラリサさんをこの前始めて見てから、思っていたことがあるのだがな」

「はぁ……、あの、何でしょうか?」

 すこぶる真剣な面持ちでサイから凝視されたランデルは、一気に全身に緊張を漲らせながら問い返した。そんな緊迫感溢れる情景に、アメリアも迂闊に口を挟めないまま事態の推移を見守る。


(ええと……、まさか、ランデルが怪しまれているわけじゃないわよね!? 組合長だし相当魔術に長けた人だろうから、さすがにランデルが実は竜なのがバレていたとか、怪しまれていたとか!?)

 アメリアが内心の動揺を必死に押し隠していると、そんな彼女の視線の先で、サイがヘラッと緊張感の欠片もない笑顔を浮かべながら褒め言葉を口にした。


「本当に、この辺りでは見かけない系統の別嬪さんだの~。わしがあと二十歳若かったら、口説かせて貰ったんだがなぁ。いやあ、実に惜しい」

「……組合長さんにそう言っていただけて、光栄です」

(ランデル! 『二十年どころか、五十年若くてもお呼びじゃねえよ』とか言いそうな顔は止めて!!)

 表情が抜け落ちた顔のランデルは、辛うじて丁寧な言葉づかいで礼を述べた。それに何度か軽く頷いてから、サイはアメリアに向き直って声をかけてくる。


「バルナーやルーファから話を聞いた時は驚いたが、良く無事に素直に育ったものだな。いや、本当に感心する」

 しみじみとした口調での独り言めいた台詞に、アメリアは思わず問い返した。


「あの……、それって、魔力持ちなのに支障なく育ったと、そういう意味合いでしょうか?」

「そういうことだな」

「その……、魔術師組合に所属されている方は、それなりに魔力が強い方達の筈ですから、そのせいで色々ご苦労されたのでしょうか?」

「まあ、確かにそうだが……。若い娘さんに、わざわざ話して聞かせる事ではないな。愉快でない内容が多いし」

「そうですか……。すみません」

「いや、アメリアが謝ることではないぞ?」

 サイは苦笑の表情で、穏やかなに宥めてきた。そんな彼を見たアメリアは、ある決心をして口を開く。


「サイさんに、一つお伺いしても良いですか?」

「うん? 何かな?」

「サイさんは、竜についてどう思いますか?」

「竜?」

「はい」

「これはまた……、唐突に、答えにくい事を聞かれたものだな……」

 そこでサイは、難しい顔になって真剣に考え込んだ。その予想外の問いかけに、ランデルが慌ててアメリアに声をかける。


「ちょっと、アメリア! いきなり何を言っているのよ!?」

「だって! 竜の血が混ざったことで魔力持ちになって、苦労されてきたみたいだし。だから魔術師の人って、竜について色々と思う所があるんじゃないかと思うから、この際それを聞いてみたいの」

「そうは言っても! いきなり、面と向かっては失礼じゃないの!?」

「いや、ラリサさん。自分が魔力持ちだと知ったばかりなのだから、他の魔力持ちがどんな事を考えているのか知りたいと思うのは当然だろう。自分のルーツについて知りたいというのは、自然な欲求だと思うしな」

 そこでランデルを宥めてから、サイはアメリアと視線を合わせ、徐に口を開いた。


「あくまでも……、私個人の考えでも良いかな?」

「はい。勿論です。他の方に知られたくないと仰るなら、内容は漏らしません」

「そこまで気にする事ではないよ」

 固い表情で、アメリアが力強く頷く。それを見て表情を緩めてから、サイは正直に自身の心情を口にした。



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