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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原 皐月
第2章 世知辛い世間
39/61

(21)露見

「いらっしゃいませ! あ、ルーファさん、と……、エストさん……」

 ドアが開く音を耳にしたアメリアは、反射的に振り返りつつ声をかけた。その声が尻つぼみになるのと対照的に、エストの生気溢れる声が店内に響き渡る。


「やあ、アメリアちゃん! 今日も元気で可愛いね!」

「どうも……」

 なんとか顔が引き攣りそうになるのを堪えつつ、アメリアは言葉を返した。するとエストは真っ直ぐランデルに歩み寄り、手にしていた色とりどりの大振りの花束を差し出す。


「ラリサさん、三日ぶりですね。この前は、あの無礼で粗野な三人組に押しかけられて、怖い思いをされたでしょう。すぐに再訪できなくて、もうしわけありません。少しでもあなたの心の慰めになるかと思って、これを持参しました。どうか受け取ってください」

「まあ、エストさん。ご親切にありがとうございます。皆に見て貰うように、店に飾っておきますね?」

 ラリサの姿であるランデルは、びくともせずに満面の笑顔でその花束を受け取った。そのまま世間話に突入した二人を眺めながら、アメリアは溜め息を吐く。


「エストさんは絶好調のようですね……」

「来るたびに騒がしくて、本当にすまない」

 ここでルーファが、心底申し訳なさそうに頭を下げてきた。それを見たアメリアは、苦笑しながら応じる。


「今は他にお客さんがいませんから大丈夫です。ルーファさん達こそ、お仕事は大丈夫ですか?」

「ああ。今日は偶々、時間が空いていたから」

「そうですか」

 するとルーファが、神妙に話を切り出す。


「その……、三日前にあの薬師達からの圧力で、乾物商達が君に薬材の販売を拒否していると聞いたので、この周辺の乾物商に出向いて話をしてみたんだ。一応、道理を説いてみたんだが、『誰に何を売ろうと売るまいと、人の勝手だ』と一蹴されてしまって……」

 ルーファはそこで、少し苛立たしげに口を閉ざした。それを聞いたアメリアは驚き、慌てて彼を宥める。


「ルーファさんが気にする事じゃありません! 寧ろ、本来無関係なルーファさんにそこまでしてもらって恐縮です! 本当にありがとうございました!」

「いや、大した事ではないし。当面はあのラリサさんの兄さんが運んでくれた分で間に合うと聞いていたが、定期的に仕入れが必要な物もあるだろう? 今はともかく、先々大丈夫なのか?」

「確かに、先々の事を考えると少々不安ではありますが、まずはここを軌道に乗せる事が第一ですから。その後の事は、後で考えます」

「潔いな」

 きっぱりと断言したアメリアを見て、ルーファは思わず笑ってしまった。するとここで真顔になったアメリアが、ルーファに尋ねる。


「少し聞いても良いですか?」

「ああ。何かな?」

「ルーファさんは、どうして私に親切にしてくれるんですか?」

 その問いかけに、ルーファは一瞬考えてから答える。


「そうだな……、危なっかしくて心配だから、と言うのが一番近いかな?」

「え? 私、そんなに信用がないんですか?」

「それとも少し違うんだが……。俺からも少し聞いても良い?」

「はい、何でしょうか?」

「君の故郷に、魔術師がいなかった?」

「……は、はいぃ!?」

(なんで!? どうして、前住んでいたところに魔術師が居る居ないの話になるわけ!?)

 魔術が使える人間どころか、強力な魔力保持者の竜ばかりでしたなど口が裂けても言えなかったアメリアは、激しく狼狽した。その動揺も露わな叫び声に、ランデルとエストも話を止め、何事かと視線を向ける。


「ああ、そんなに驚かなくて良いよ。困ったな……。魔術師は、一部の人間が声高に喧伝しているような、怖い存在じゃないから。単に遠い先祖に入っていた竜の血のおかげで魔力を保持していて魔術が使えるだけの、普通の人間だよ?」

 アメリアが動揺しているのは、過去に魔術師について恐ろしげな話を誰かから吹き込まれたせいかと想像したルーファは、穏やかな口調で彼女を宥めた。どうやら彼が、自分の動揺の理由を誤解しているのが分かったアメリアは、必死に考えを巡らせながら言葉を返す。


「え、あ、ええと………、そ、そうですよね。いえ、魔術師が怖い存在だと思っているわけではなくて、魔術師なんて見た事がないのに、どうしているとかいないとかの話になっているのかなぁ、と……、ちょっと驚いてしまって……」

「じゃあ、やっぱり身内とか同じ集落内に、魔術師とかはいなかったんだね?」

「はいっ! 微塵も! これっぽっちも居ませんでしたけど!」

 ここぞとばかりに、アメリアは力一杯頷いた。それを見たルーファが、しみじみとした口調で呟く。


「それなら、君が知らなかったのも道理だな」

「な、なにが、でしょう?」

「アメリア。今まで誰にも指摘されなかったと思うけど、君、魔力保持者だよ?」

「…………」

 真顔でルーファが指摘してきた内容に、正直アメリアは気が遠くなりかけた。しかしここで現実逃避してどうすると自分自身を叱咤し、気合を入れ直して彼に言葉を返した。



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