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竜の薬師は自立したい  作者: 篠原 皐月
第1章 竜の国、人間の国
18/61

(18)旅立ち

「うん、快晴! これ以上はないくらいの、旅立ち日和!」

 当面必要な大きな荷物を背負い、王城の広い前庭に出たアメリアは、晴れ渡った空を見上げて満足げに笑った。すると背後からリリアが近づきながら、声をかけてくる。


「おはよう、アメリア。天気が良くて良かったわね。向こうには私が送っていくわ。サラザールの住んでいる場所も把握しているし」

「ありがとう、リリア。でも天気が良いと、大勢の人間に見つからない?」

「魔術で姿を消していくから大丈夫よ。念のため人里離れた場所で下りて、後は人の姿で送っていくから。人間の街道での移動の様子も観察して覚えた方が良いでしょうから、私が乗せていくのは国境代わりの崖付近まで。後は人の姿で移動して、ゆっくり二日の旅程よ。金銭感覚の把握のためにも、人間の宿屋に泊まったり、お店で買い物や食事もしましょうね」

「お願い、リリア。頼りにしてる」

「ええ、任せて」

 常駐の調査員ではないものの、リリアは既に調査員との連絡役として、頻繁に人間の国に出向いていた。それを知っていたアメリアは、安堵の笑顔を向ける。

 それからリリアは竜の姿になり、アメリアを促した。それを受けて、アメリアは名残惜しそうな顔つきながらも、それを振り切るように勢い良く地面を蹴って跳び上がる。そして地に伏せているリリアの脚から背中へと飛び移り、一番安定すると思われる場所で腰を落ち着けた。


「それでは、元気でな。しばらくは月に1回は手紙を書いて、暮らしぶりを伝えるように。それはサラザールに送らせるからな。それから偶に調査員に様子を見に行かせるから、何か困った事があればその者に相談するように。もしくは直接連絡してくるのだぞ?」

「はい、母様。分かりました」

(過保護だなぁ……、向こうでは当面、兄様と一緒に暮らすのに)

 少し離れた地面からも、魔術で声をきちんと伝えてくるエマリールが、真顔で言い聞かせてくる。正直、そこまで心配しなくても良いのではと思ったものの、アメリアは下手に反論せず素直に頷いておいた。すると上機嫌な叫び声が、城の城壁の上から響いてくる。


「アメリア、得物はちゃんと持っただろうな!」

 その問いかけにアメリアは両手を高く差し上げ、手の甲をタウラスがいる方に向けながら、叫び返した。


「はい、師匠! いざというときは、遠慮なく使わせて貰います!」

「おう! 遠慮なんかせずにぶちかませ!」

 武芸一般の他に、若干保持している魔力を効率的に行使できる訓練をタウラスから受けていたアメリアは、軽く自分の両手に魔力を集めた。すると彼女の両手の甲に、ピンク色の竜の鱗が一つづつ浮かび上がる。

 それはタウラスが餞別代りにアメリアに贈った自らの鱗で、普段魔術で人間の目には全く見えないようになっているが、その中には魔力を媒介として攻撃ができる、竜仕様の剣と弓と槍が収納されていた。それを遠目にもはっきりと認識したタウラスが上機嫌に笑い飛ばしていると、その隣に立っていたリドヴァーンが呆れたように溜め息を吐く。


「何を物騒な事を言っているのですか……。アメリア、環境が異なる場所での生活になるから最初はあまり無理せず、体調管理には十分留意しなさい」

「はい、先生。気をつけます」

「それじゃあ、そろそろ行くわよ?」

「うん、お願い」

 先輩薬師であり師匠でもあるリドヴァーンにも、アメリアは笑顔で手を振った。そしてリリアがアメリアに確認し、彼女を乗せて空高く舞い上がる。


「アメリア! 元気でな!」

「苛められたら、すぐに帰って来なさいね!」

「俺達が馬鹿な人間達を、こらしめてやるからな!」

「皆、大丈夫だから! 今までありがとう! さようなら!」

 この十年強の間、アメリアは城内城下の竜達にその存在を認められ、可愛がられていた。その旅立ちを当然知らぬ者はなく、空中にリリアの姿を認めた彼らがあちこちで声を上げてくる。アメリアはなんとか涙を堪えながらそれらに律義に応え、大陸を分断している崖と、その向こうにある人間の国を目指していった。


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