グレイの夏休み
以前行ってたキャス内で、ちょっと思い付きで書いたものを、とりあえず投稿
まぁ、大したボリュームでも無いですが、良かったら読んでくんなまし
「たまにはこういうのもいいよな~」
青い空、誰もいない浜辺。
都会の喧騒などとは全く縁の無い、南の無人島。
「それにしても、よくレグルスはこんな場所を知ってたな~」
半径五キロ程の広さしかないが、生態系は意外と多彩。
動物は小動物がメインであるが中型の捕食者も存在している。
植物も食べられるものが多く、ちょっとブッシュに入るだけで様々な果実や野菜が手に入った
「まるで天国みたいだな~」
簡易的な寝場所を作って寝転がりながらレグルスの事を考えていた
「レグルス、用事があってこれないって言ってたけど、何があったんだろう?」
不意にここに来る前の難しい顔のレグルスの顔を思い出していた。
事務所で険しい顔をしたまま俯いていたレグルスが妙に気になった。
「まぁ、何か土産になりそうなものでも…」
さすがにこの島だと何にも手に入りそうもないよな…と苦笑していると不意に爆発音が響き、反射的に体を伏せながら音の方向に目を向ける
「襲撃…?ではないのか…」
美しい光の花が空に浮かぶ
「これが、話に聞いた花火というものか…」
耳を澄ますと、人々の歓声も聞こえてくる
「時間をちょっと戻って、始まる前に行ってみるか…」
腕時計のような装置を調整しつつ呪文のようなものをグレイは詠唱していた
そして、軽く手刀で空中を縦に切るような動きをすると、陽炎のような歪みが目の前に生じた
再度確認するように腕の装置を一瞥するとゆっくりとその陽炎の中に消えていった
「グレイがいない間に何とか始末つけとかないとな…」
レグルスは檻に閉じ込められた熊のように部屋の中をひたすらうろうろしている
本音を言うと、ただ迷っているだけだったのだが。
悪と呼ばれる存在と呼ばれるこの身を、明かしてよいものか…
いや、今はそれどころではない。
正義の名のものの断罪をそろそろ止めねばならない
世界政府は、確実に獣人達の権利を奪うための法整備を急いでいた。
今のところ表立った差別というものは無いが、着実に今の政権は反獣人派を集めつつあった。
「この状況じゃ、下手に動けば更に権利が奪われる…とはいえ、動かなければ…」
最近報道される獣人によって起こされた陰惨な事件
中にはどう考えても冤罪としか思えないものまで含まれている事から、その辺りしか突破口は無いのだが、敵のガードも強く、隙などあろうはずもなかった
「どうすれば…」
その時、胸のスマフォが鳴った
それを見てレグルスの目が光った
まるで何か新しいおもちゃを見つけたような…
「これで、やつらに風穴を開けられる」
「適当だっただけど、意外と大丈夫だったな」
さっと手を振って空間の歪みを消し、あたりを見回した。
時計を探し時間を確認すると、思いの他早い時間になってしまっていた。
「ちょっと時間がはやくなっちまったな」
ちょっと手持無沙汰になりながら、繁華街の方に足を向けると…
「おや、お兄さん内地から来たのかい?」
振り返ると中年のちょっと白髪が混じった、小太りのおっさんが立っていた。
人懐っこそうな笑顔を浮かべながら、こっちにこいというようにクイクイと手招きする
武装しているという感じもないし、むしろ客引きってところか?
まだこんな明るいうちじゃ胡散臭いところってわけでも無さそうなんで行ってみるか
「なんかいいのがあるのかい?」
そうグレイが聞くと顔をくしゃっと崩し笑顔になった
「折角の祭りなんだ。もちっと楽しめる格好になってみないかい?安くしとくから」
そういうと、そんなに広くない店内に招き入れると店員に声をかけて、よくわからない言葉であれこれと見繕ってくれた
「お兄さんよく似合うね~」
男が見立ててくれたのは、浴衣と呼ばれるものだった。
もっとも、動きやすいように裾をたくし上げてなんだか少しすーすーした
「さすがにこれじゃ、外はちょっと…」
と苦笑しながら言うと、忘れてたという感じでよくわからないのようなものを出してきた
「半股引っていうんだが着てみるかい?」
頷くと早速着付けてくれた
「よし、これで大丈夫」
実際の所、股間が強調気味のこれはどうかと思ったけど、伝統的な祭りの装束だって事で無理やり納得した
「そんじゃおっさん、ありがとな~」
勘定をすまし店を出ると、辺りは夕闇をまとっていた
辺りから祭り特有の喧騒と、香ばしい何かが焼ける匂いが漂ってきた
「なんか旨いもんあるかな?」
祭りというのは、気分を盛り立てるもので、いつの間にかあちこちの出店に顔を出すうちにあれやこれやと食べまくっていた
綿あめにクレープやかき氷にやきそば。
ほかにも変わったものが色々と並んでいる。
食べるものばかりではない。かわいい色をした小さな魚、『金魚』というらしい、をぽいと呼ばれる平たい紙でできた網で掬う遊びらしいものをさせてくれるところもあった。
「こいつ掬ったら食べるの?」
そう聞いたら
「食べてもいいだろうけど、食いではないと思いますよ」
と苦笑しながら言われて、だよなって苦笑しながら返しながらも、試しにと一回だけやってみた
いざ!と意気込んで水面をきっと見つめていると、不意に視線を感じた。
害意は無さそうだが…
わずかな逡巡の後に視線の方向に不自然にならないように視線を向けたが…
そこにいたのは小学生くらいの男の子だった。
「ねぇねぇ、おじさんって金魚すくえる?」
おじさんって…とちょっとショックを受けながらも、周囲を見回す
状況から判断するに、おそらくこの子は迷子のようだった。今のところ本人は気づいていないようだが。
「おじさんはないだろ…まだお兄さんだぜ」
と苦笑した風で誰ときたのか聞いてみたが、一向に要領を得ない
「お兄さん、このこ迷子みたいですわ
お手間ですけど、祭りの本部の方に連れてっていただけませんかね」
金魚すくいの代金を押し付けられつつ、追いやられるように少年と本部の方に行く羽目になってしまった。
「さてと、本部ってところに行ってみるか?」
と、その前にと名前を聞いてみると
「…ゆうま。工藤ゆうまだよ」
すんなり答えた。
なんでそんなことを聞くの?といった感じで見つめるゆうまに、中腰になって視線を合わせながら聞いてみた
「ゆうまは誰ときたの?」
その言葉に、ゆうまはかおをくしゃくしゃにしながら一言
「おかあさん」
その言葉にグレイは違和感を感じていたが、その違和感が何かと思いつく前にゆうまが何かに興味を持ったのかいきなり走り出した。
まったく子供ってどこの世界でも同じだな…
「ゆうま、そんなに焦んなって」
追いかけながらも、意外とこの状況を楽しんでいる自分にちょっと驚いているグレイだった
「これで終わりか?」
辺りには硝煙のような匂いと、焦げた肉の匂い、そして…
濃密な血の匂いにあふれかえっていたが、まるで気にしてもいないような調子でわずかに動いている相手に近づき足で顎を上げる
「これで、話を聞いてもらう準備ができたようですね」
相手が頷くのを確認すると少しかがんで襟首を掴み、ソファーに無理やり座らせた
「では、話し合いとまいりましょうか」
レグルスは向かい合うように座ると、すっと目を細めた
そして、その口角をわずかに歪め、笑みに似た何かを張り付けていた
こいつ、もしかしてこういうところに来たのが初めてなんじゃないか?
そう思えるほど、ゆうまは色んなことに興味を持ちグレイに聞いてきた
そのたびに、「俺も良くわかんねぇんだよな…。なぁ、これってどんなん何だ?」と店主に質問を繰り返していた。
そして何かするたびに、歓声を上げたりして本気で喜んでいるようだった。
俺が小さいころにこんなところに来てたらどんなだったかな?
と、グレイは昔のことを思い出していた。
だが、軽く首を振ってその考えを振り払う。
当時の俺だと、ゆうまみたいには楽しめなかっただろうな。
硝煙と血の匂いにまみれていたあの時は、敵か味方かって事しか考えてなかったし、こんな風に無邪気に楽しむって事は出来なかっただろうな…
だが、どうもきな臭い感じがしてくる…
祭りの喧騒で、ちょっと神経質になっているのかと思っていたが、間違いなくゆうまに絡みつくような視線を感じる
最低でも3人って所か。
とはいえ、気配丸見えって奴だけってのは考えづらい。少なくとも司令官もしくは連絡係がいることを考えると最大でも5、6人は想定してなきゃいけねぇな。
ならば…
「おいゆうま、ちょっとこっちの方に行ってみようぜ」
まずは有利な地形に誘導しねぇとな
気配が移動するのを感じながら物陰に隠れると一気にゆうまを小脇に抱えて移動する
ゆうまが驚いたようにこっちを見るからにっこり笑ってしーっと合図する
「ちょっくらざわざわすると思うけど、声立てんなよ」
わかったっていうようににっと笑顔を見せて口にチャックってしぐさを見せる
よしよし、奴さんたちもついてきてるな
十分引き離した事を確認しつつ、身を隠す。
息をひそめていると数人の男たちがざわつきながら集まってくる
三人か…まぁ肩慣らしとしちゃ物足りねぇがいっちょやるか
一瞬、グレイから表情が消えたかと思うと次の瞬間にはその場から消えていた
次に現れた時には、三人の男が横たわっていた
グレイは手際よく三人を縛り上げると、周囲を見回した
「そこに隠れてる皆さんも出てきたらどうです?
それとも、子供を追い回してるような卑怯な連中は、こっちから出向いた方がいいですかね?」
そう声をかけると、両手を上げた状態で二人の男が出てくる
「いやはや、まさか君のような腕の立つ用心棒がいるとは聞いてなかったな」
そう漏らす男は、夏とは思えない格好をしていた。
「もっとも、事情はよくわかってないようですがね」
と、顎をしゃくる。
警戒しつつ後ろを振り返ると、ゆうまがそいつに向かって走っていくところだった
「しどおじさん!」
ゆうまの方に優しい笑顔を見せつついいのか?という感じでグレイに視線を向ける
どうぞ、という感じで肩をすくめる
「ということは、俺の勘違いって事かい?」
先ほど倒した男たちに活を入れつつ油断していると
「そこは、そうでもないみたいですけどね」
と、何かを嗅がせてゆうまを眠らせた
「誘拐しようとしてたってのは間違いじゃなかったわけか…」
「誘拐とはちょっと事情は違うんですがね。
まぁ、利用されないように芽は早いうちにつぶしておくってのが正解ですかね」
ゆうま…
助けに動こうとした瞬間、足元の男たちが組み付き動きが封じられる
それに呼応するようにゆうまを連れて一気に撤退する
再度三人を眠らせたグレイ
かなりイライラした様子でその場を後にする。
畜生…失態だ
いくらこっちに来て油断してたとは言え、だらしなすぎだろ…
きっちり借りを返してやんよ
くんっ
獣人ならではの嗅覚で、ゆうまの匂いを追いかける
ほどなく追いつくと、躊躇うことなくゆうまを抱いている腕ごともぎ取った
返り血を浴びないよう軽く離れたところで血しぶきと、悲鳴が響いた
「事情は分からんし、わかりたくもないが、少なくともお前らはゆうまの保護者って訳でもなさそうだ
それに、俺は舐めた真似をするやつをほっておけるほど温厚じゃないんでね」
ゆうまを抱えたまま二人を無力化する。
「運が良ければ生きて帰れるだろうさ」
そろそろ本部の方に行くか…
そう思った瞬間頭上で爆発音
敵襲?
そう思って視線を向けた先には、大輪の花のような光が浮かんでいた
「うひょ~、これこれ!これを見に来たんだった」
さっきまでの殺伐とした空気から一変、いつもの緩い感じのグレイに戻り、ゆうまを連れて祭りの本部へと向かっていった
「迷子の届けですか…」
慌ただしい様子の本部の連中は、どうにも要領を得ない。
押し問答をしていると
「ゆうま!ゆうま!」
ゆうまを呼ぶ声が聞こえ、それに応えるように「ママ!」とゆうまが叫び声の方に向かっていった
ようやくお役ごめんだな。
ちょっと寂しかったが、抱き合っている二人を横目に出店の方に戻ろうとすると
「待ってください」
と呼び止める声
「このお兄ちゃんに助けてもらったの」
ゆうまが浴衣の裾を引っ張りながらくっついてくる
「お礼もしたいので、よろしければもう少しお付き合いいただいてもよろしいでしょうか?」
そう微笑む彼女の姿が、妙にきれいに見えた
彼女の名前はゆきなと言って、ゆうまと二人で暮らしているらしい。
いつもは事情があって家から出さないようにしているが、せめて祭りだけでもと油断していたのだと彼女は言った。
そういう彼女の横顔が寂しげで、胸のどこかが小さく痛んだ。
「花火…本当にきれい」
そろそろクライマックスなのか、次々と大輪の花が夜空を飾る
その明かりに照らされた彼女は、笑顔なもののどこか儚げで、思わず抱きしめたく衝動に駆られた
が、それは俺の役目じゃない
そう言い聞かせ、ゆうまに目を向けた
はじけるような笑顔を見せてはしゃいでいる
こういうのもいいよな…
こういう日常ってのも、悪くないよな…
「で、グレイ。何かいいことあったのかい?」
呆れ顔のレグルスに、グレイは何か言いかけたけど、少し寂しそうな顔になって
「まぁな」
とだけ答えた。
グレイの守りたいという言葉を静かな笑みで返した彼女の言葉
「お気遣いありがとうございます。
ですが、見ず知らずの方にこれ以上の迷惑は…
それに、あなたでは余計に目立ってしまいますから…」
抱きしめたい
その気持ちを必死に抑えながら、グレイは後ろ髪をひかれる思いでその場を後にした
きっと二人は、仲良く暮らしていっているはず、そうに違いない
「んじゃまぁ、ちょっと出てくるわ」
そういうとグレイは部屋を後にする
レグルスは、少し悲しそうな顔をしながらそれを見送った
グレイ…君は俺の事を軽蔑するだろうか…
君の人の好さを利用しようとしている俺の事を…
レグルスは手元のスマフォを操作し、あるニュースの記事を見る。
そこには資産家の息子の誘拐の記事が書かれていた。
祭り会場で警察に確保された旨が書かれていたのだが、その主犯として写真が掲載されていたのは、ゆうまの母と名乗ったあの女の姿だった
グレイの夏休み(了)