横尾くんと語る、冬の終わりを
卒業まで、あと一日。
気づけば時間は過ぎ去っていて、もうその一日すら終わりかけている。
私の隣りに、まだ横尾くんはいない。
「じゃあ、うちは先に帰るね。じゃあね、メグ。また明日」
「では私も、お先に失礼します。それじゃあメグさん、また明日」
うん。二人とも、また明日。
こうやってまた明日、なんてありふれた挨拶を交わすのも、今日が最後になるかもしれない。
まだ卒業式じゃないのに、ちょっと涙ぐんでいる美咲。
いつもの穏やかな笑みに、たしかな寂しさを滲ませる渡辺さん。
私は大切な友人たちに手を振って、冬の終わりを感じる。
隣りの席は、まだ空白のまま。
私以外のクラスメイトは明日に備えてか、皆もう帰ってしまった。
がらんどうの教室で、私は彼を待っている。
卒業の前日、学校を休んで朝からいなかったあの人を、私はずっと待っている。
話したいことが、いっぱいあった。
聞きたいことが、たくさんあった。
知りたいことが、まだまだあった。
語りたいことが、いくらでもあった。
だから私は、ここで待っている。
だって私には分かっていたから、きっと彼なら来てくれるって。
「……もうじきに、冬が終わるね。待たせてしまったかい?」
待ちくたびれた私の背中に、遠慮がちな声がかかる。
やっとだ。やっとこの時がきた。
私は大きく息を吸って、呼吸を整える。
緊張は仕方ない。
後悔を選ぶ準備はとっくのとうにできていた。
だってこれから初めて、私は君と語り合うんだから。
「……うん、待ってたよ、横尾くん。だってもう冬が終わっちゃうから」
ゆっくりと振り返ればそこには横尾くんがいて、私は小さく手を振る。
冬が終わり、春がやってくる。
また一つ季節が変わっていく中で、横尾くんも手を振り返してくれる。
私の隣りに、横尾くんは来てくれた。




