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横尾くんは語る、選ぶことはできると


 卒業まで、あと二日。

 これ以上ないほどに一日が短く感じる。

 私の隣りには、まだ横尾くんがいる。



「この世界には、二種類の後悔があるといわれている」



 何か決意をしたように、はっきりとした声で横尾くんは語り出す。

 もうほとんど時間がないのにも関わらず、足踏みしているどころか、少し遠ざかり始めている私は、ただ静かに耳を傾けるだけ。


「“やらなかった後悔”と、“やってしまった後悔”だ。前者はあの時、ああしていればと悔やむこと。そして後者はあの時、どうしてあんなことをと悔やむことを指すのは、君も分かると思う」


 やらなかった後悔とやってしまった後悔。

 私はこれまで、どちらの後悔の方を多くしてきただろうか。


「中島敦は自らの著作で言っている、“私は自分のした事に就いて後悔したことはなかった。しなかった事に就いてのみ、何時も後悔を感じていた”、と」


 臆病な自尊心と尊大な羞恥心。

 いったい私はいまさら何に怯えているのだろう。

 

「一方、村上春樹はやらなかった後悔のことを、“可能性の貯金”と呼び、それはいつの日か心を暖める綺麗な思い出になると評した」


 遠くからみれば、大抵のものは美しくみえる。

 だからこそ、今、私の方から近づくべきなのかもしれない。


「きっとどちらが正しいとか、間違っているとかじゃないんだ。ただ僕らは、選び続けるだけ。後悔することを避けることはできないけれど、たぶん、後悔の種類を選ぶことはできる」


 私は沈黙に慣れ過ぎていた。

 語らないままで、耳を澄ますだけで、物語は進んでいった。

 でも、それじゃあ、だめなんだ。

 横尾くんにはもう、語らせない。

 今度は、私が語る番だ。



「僕は村上春樹より、中島敦の方が好きなんだ」

 


 何も変わらないなら、何かを変えていかないと。

 

 いつものように語る横尾くんは、どこかいつもと違う熱意をみせる。

 

 私たちが交わし合う言葉は、日に日に限られていった。





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