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横尾くんは語る、願いたいことがあったんだと


 ついに年が明けてしまった。

 ひんやりとした風から身を守るように、しっかりと首をマフラーで固める私は、それなりに人気の多い神社で澄み渡る青空を見仰ぐ。

 両親と妹の静は少し離れたところで、破魔矢を物色していた。



〔今、ちょうど、私初詣に来てるんだ~〕



 夜更かしした後の元旦ということで、少しだけ頭が浮ついている私は、横尾くんに神社の写真を撮って送りつける。

 クリスマス以来、横尾くんに会っていない。

 寂しいなんて言葉を口にするほど私は強くないけれど、痛みを誤魔化すための足掻きくらいはできそうだ。


〔奇遇だね。僕が朝行ったところと同じ場所だ。まあもっとも、受験生だったら誰だってそこに行くかもしれないね。でも君はそういうの気にしないタイプだと思っていたよ。お参りなんてどこでしても同じと思ってそうな顔をしてる〕


 珍しくほぼノータイムで横尾くんから返信がくる。

 どうやら私たち本田家より一足先に、横尾家は初詣を終えてしまっているらしい。

 そしてここはやっぱり受験生御用達の神社みたいだ。


〔私はこれからお参りして、その後おみくじ引く予定~〕


 私のところに戻ってきた両親と静と一緒になって、お賽銭箱の前につらつらと伸びる列に加わる。

 見た感じ周りに知り合いこそいないけれど、同年代と思わしき少年少女はけっこう目に入る。

 中学生として私が初詣に来るのも、今日が最後だ。

 今回の私はもちろん受験のことをお祈りすると思うけれど、来年の私はいったい何を願うのかな。


〔お参りの仕方はちゃんと覚えているかい?〕


 変なところで心配性な横尾くん。

 彼のそんな不器用な優しさに触れられるのも、あと数えられるくらいだ。

 行列が前に進むたび、私が必死で忘れようとしている現実が近づいてくるようだった。


〔わかってるよ~ 2礼2拍手1礼でしょ~?〕


 去年の今頃は、まさかこうやって横尾くんと直接顔を合わせていない時にも、言葉のやり取りをすることなんて想像できなかった。

 たった一年で、沢山のことが変わってしまった。

 これが良いことなのか、悪いことなのか、それはまだわからない。


〔さすがにそれくらいは君でも知ってるか。でも気をつけるんだよ。2礼2拍手1礼は全部お賽銭にお金を入れた後だ。あと投げ入れる金額はご縁にちなんで5円玉がメジャーだけど、ちょっと欲張って10円とかにはしちゃだめだ。遠縁とおえんという意味になって、縁起が悪い》


 いつもこうやって横尾くんは、どうでもいい、でもちょっとためになる事を私に教えてくれる。

 離れていても、まるで隣りの席にいるみたいに。


〔それは知らなかった~、横尾くんは何円くらい投げ入れたの?〕


 でも、それもきっと、今だけだ。

 永遠なんてない。

 私と横尾くんは、何もしないままずっと隣り同士でいられるわけじゃない。

 隣りにいようとしないと、そう望まないと、届かないものがある。



〔僕は393円いれたよ。願いたいことがあったんだ〕



 なんで393円? と返信したけれど、そこで横尾くんとのやりとりが途絶えてしまう。

 気づけば私は行列の一番前にいて、慌ててケータイをポケットにしまう。

 私にも、願いたいことがある。



 どうか、ずっと隣りにいさせてください。



 2礼2拍手1礼の前に、私はお賽銭を投げ入れる。

 5円でも、10円でもなく、450円。

 簡単な語呂合わせだ。神様もこれくらいなら気づいてくれるだろう。


 まったく受験のことなんて願わなかった私は、眩い冬の太陽に目を細めるばかりだった。


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