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渡辺さんは贈る、天使のように優しい言葉だけを



 昼休みが終わったら、英語の授業だ。

 それなのに私はまだ課題を終わらせることができないでいた。

 なんでこう私は計画性というものがないのかな。

 英語の辞書を引きながら、自らの治らないサボリ癖に辟易する。

 

 こんな時、英語の得意な横尾くんが隣りにいれば。

 あの人なら、文句を言いながらなんだかんだで課題の答えを教えてくれるのに。


 左隣りをちょっと覗いてみるけれど、そこは空っぽで、もし仮に席の持ち主が戻って来ても、その男子は私に課題の答えを教えることもなければ、私を面白おかしくからかうこともしない。

 どうしてだろう。

 横尾くんが隣りにいなくなってから、むしろ私は彼のことを考える時間が増えている。



「メグさん。それ、次の英語の授業で提出する課題ですか?」



 そぞろな気持ちで英単語を組み合わせる私に、頭の上からほんわかした声がかかる。

 顔を上げてみればそこには渡辺さんがいて、水筒を片手に彼女は私の一つ前の席に座った。

 席替えの日は渡辺さんは夏風邪を引いて休んでいたのだけれど、どうやら私の一つ前の席に座ることになったらしかった。


「まだ終わってないんですか? 意外にメグさんって不真面目なところありますよね。これがギャップ萌えってやつなんですかね?」


 うーん、なんか微妙に違うような気がしないでもないけど、そういうことにしておいて。 

 ぷふふと楽しそうに笑う渡辺さんを眺めながら、私は課題に取り掛かる。

 正直渡辺さんの課題を写させて欲しいな、なんてよこしま気持ちでいっぱいだけど、気づいてないのか見せる気がないのか彼女はただ笑うだけだ。


「でも残念です。メグさんと一つ違いの席だって知った時は、今月末の修学旅行も一緒の班なのかなって期待したんですけど。……まさか班は違うなんて、本当に残念です」


 悲しそうな表情をする渡辺さん。

 私たちのクラスは一班六人構成なのだけれど、ちょうど渡辺さんと私の席の境目が班の境目になってしまっていたのだった。

 渡辺さんとも美咲とも私は違う班だ。

 同じ班でかろうじてまともに話したことがあるのは青山くんくらいだった。


「修学旅行は京都でしたよね? メグさんと一緒に回りたかったです」


 まあまあ、泊る部屋は同じなんだからいいじゃん。

 私が慰めの言葉をかけると、純粋な渡辺さんはそうですね! ありがとうございます! 夜は楽しみましょう! と一変して明るい表情になった。

 宿泊の際の部屋割りはある程度自由になっていて、寝る場所に関しては私も渡辺さんも美咲も同じところになっていた。


「あ、というかあれですよね? もしかしなくても私、課題の邪魔ですよね? 時間もあんまりないのに」


 はっとしたような顔をすると、渡辺さんは大変なことに気づいてしまったかのように急に焦り出す。

 むしろ焦らなくちゃいけないのは、どう考えても私の方。

 楽しいお喋りしている場合じゃない。


「思ったんですけど、私ので良ければ課題写しますか?」


 え!? ほんと! 助かるよ!

 すると不真面目な私に、天使のように優しい渡辺さんは救済の道を示してくれる。

 できればもっと早くにその言葉が欲しかったと思う私には、罰が当たるだろうか。



「じゃあ今、私の課題を……ってあれ? ない? もしかして家に忘れてきちゃった……?」



 しかし、鞄と机の中をあさる渡辺さんの顔は見る見るうちに暗くなっていき、結局、私が彼女の課題を写すことはなかった。

 貰えたのは天使のように優しい言葉だけ。欲しかったものは手に入らない。

 渡辺さんは堕天した。

 そして私も無事、課題の提出に間に合わなかったのだった。

 




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