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横尾くんは語る、雨の日に折り畳み傘を使う人は部屋が汚いと



 灰鼠の空から冷たい雨粒が降り注ぎ、教室の窓を打ちつけている。

 私はしっとりと濡れたコートを脱ぐと、憂鬱な溜め息を吐いた。

 服のいたるところが水分を吸っていて、何とくなく気分が悪い。

 雨自体は嫌いではなかったが、私は濡れた感触があまり得意ではなかった。



「おはよう。今日はあいにくの天気だけれど、君はどんな傘を使って登校したんだい? 普通の大きな傘かい? それとも折り畳み傘かな?」



 するとこんな曇天の朝に似合わないご機嫌な調子で話しかけてくるクラスメイトが一人いる。

 隣りの席の横尾くんだ。今日も私より先に学校に来ていたらしい。

 思えば彼が学校を休んだり、私より後に登校してきた事がこれまで一度もないような気がする。まあどうでもいいけど。


「そうか。折り畳み傘か。なんとなくそんな気がしていたよ。君は普段からぼうっとしていることが多いし、面倒くさがりの気があるからね」


 おはよう。折り畳み傘だけどそれがどうしたの。

 そんな風に私は言葉を返すと、何がそれほど楽しいのか唇を尖らせて横尾くんは笑みを浮かべた。


「僕の統計によれば、雨の日に折り畳み傘を使う人は部屋が汚いんだ。おそらく君もそうだろう? 自分の部屋の片づけができないタイプに違いない」


 失礼ね。べつに私の部屋汚くないし。

 こう見えて私も一応女子なのに、異性への配慮というものを知らない横尾くんはまた意味のわからない事をのたまわっている。


「考えてみたまえ。昨日から、いや下手をすればもっと前から今日の天気は雨だと予報が出ていたんだ。それにも関わらず君はわざわざ折り畳み傘を使った。これがどういうことを意味するかわかるかい? これはつまり君が雨がちょうど振り出すまで傘をさそうという意志を持たなかったということになる」


 たしかにそれは横尾くんの言う通りだ。

 天気予報で今日が雨なのは知っていたけど、家を出るときはまだ曇り空のままだったので傘を持ってこなかった。

 私がリュックから折り畳み傘を取り出したのはまさに雨が降り出してからだった。

 でもだからって私の部屋が汚いことにどう繋がるのだろう。いや、そもそもべつに汚くないし。ただちょっと床に物を置いても気にならないタイプなだけだし。


「天気予報で雨だと言っているのに、傘を手に持って外出することすら面倒だと君は思ったわけだ。そんなことすら億劫がる人間の部屋が常日頃から整理整頓されているはずがない。まったく何のために天気予報を見ているんだか」


 だって天気予報が雨だからといって本当に降るかわからないじゃん。だいたい私の部屋汚くないし。片付けしようと思えばすぐできるし。

 意気揚々と私を面倒くさがり屋認定する横尾くんに言い返す。私の部屋だっていつも散らかっているわけではない。今がたまたまそういう時期なだけだ。


「べつに君が片付ける能力を持っていないとは言ってないさ。たぶん、やればできる子なんだろう。部屋を片付けなければいけない理由ができれば、下手をすれば普通の人以上に拘って掃除を始めるかもしれない。でも、それはあくまで必要に迫られた時だけだ。どうせ宿題も提出日ギリギリまで手を付けないタイプだろう? テストも一夜漬けに決まってる」


 そ、そんなことないし。宿題もテスト勉強も期限の三日前くらいにはやろうかなって思い始めるし。

 いつも偏見と見当違いに塗れている横尾くんにしては珍しく、私の図星をついていくる。やるじゃない。雨の日は調子がいいみたいね。


 じゃあ、横尾くんは今日は普通の傘持ってきたの? それで部屋も毎日掃除してるってわけ?


 とりあえずこれ以上攻め込まれてはいけないと、私は話題の中心を横尾くんの方にずらす。



「むろんだ。お気に入りの頑丈な傘を持ってきたし、今日は雨だと知っていたからレインコートも被っておいた。いざというとき用に学校にも傘を一つ予備として置いてあるんだ。当然折り畳み傘も毎日鞄の中に入れてある。僕の部屋に関しても、毎朝、あと毎回寝る前に掃除機をかけているよ」



 あ、そ、そうなんだ。す、すごいね。

 

 横尾くんは私の想像以上に雨への対策を用意周到に行っていた。

 

 でもそれはそれで天気予報とか関係ないんじゃないかと思わなくもない私だった。




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