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横尾くんは語る、名古屋で生まれたかったと



 季節は移り変わってすっかり夏。

 男子はもちろん、ぎりぎりまでカーディガンを着たがる女子の半分程度まで夏服を着るようになってきた。

 比較的暑がりの私もとっくのとうに半袖になって、ブレザーはクローゼットの奥にしまい込んでしまった。



「夏だ。夏といえばウナギだ。僕はとてつもなく今ひつまぶしが食べたい気分だよ」


 

 私と同じように熱への耐性が低いのか、学校で制服移行期間に入った瞬間、真っ先に夏服に着替えていた隣の席の横尾くんが例の如く唐突に話しかけてくる。

 ウナギか。たしかに私も食べたいか食べたくないかでいえば、食べたい。

 我が家でウナギが出るのはそれこそ土用の丑の日くらいだ。

 でもウナギなら毎月は当然三日連続くらいならいける気がしないこともない。


「ただのウナギじゃ駄目だ。僕はひつまぶしが食べたい。うな重ではなく、絶対にひつまぶしだ」


 夏の日差しより高温なひつまぶしへの情熱。

 なんで普通のうな重じゃだめなんだろ。というかひつまぶしってなんだっけ。ウナギ茶漬けみたいな感じかな。


「うな重とひつまぶしの違いは、重箱に入っているかおひつに入っているか。あとは食べ方を選べるかどうかかな。君の言うようにひつまぶしは茶漬けにしたり、薬味で味を変えたりすることができる」


 おひつってなんだろうと横尾くんに尋ねてみると、なんかご飯をよそう木の箱みたいな奴というふわっとした回答を貰えた。

 ご飯をおひつに移すと米の水分が木に吸われてちょうどいい感じになるとかならないとか。私は全国の米が全て同じ味に感じる能力者なのであまり関係ないと思うけど。


「うな重の方は本当は食べ方に順序というかルールがあるんだ。もっとも今時気にするような人はあまりいないと思うけれどね」


 横尾くんいわく、ひつまぶしと違いうな重は一番最初に箸をつける場所すら本当は決まっているらしい。初耳だ。

 あと一緒についてくることの多い肝吸いを食べるタイミングも決まっていて、うな重を食べ終えた後に肝吸いが残っているのはNGだという。

 うな重おそるべし。私もひつまぶし派になってきた。


「ああ、ひつまぶしを食べたい。最初はそのままウナギ本来の旨味を堪能して、その後に海苔、ネギ、ワサビ辺りの薬味を使い風味を楽しみ、最後に茶漬けにしてするすると一気にかきこみたい」


 軽く垂れ落ちかけた涎をハンカチで横尾くんは拭う。どんだけひつまぶし食べたいんだよ。

 でもどうしていきなりそんなにひつまぶしを食べたくなったんだろう。


「べつにいきなりじゃないさ。僕は三か月前からずっとひつまぶしが食べたいなと思っていた。なにもいきなりじゃない」


 いや知らんがな。しかも三か月前ってそれもう夏関係ないし。

 今更何を言いだすんだ、みたいな顔をする横尾くんに私は思わず突っ込む。私はべつにメンタリストでもなんでもない。



「はぁ、僕も名古屋で生まれたかった。そうすればきっと毎月のように土用の丑の日がやってくる生活を過ごせたのに」



 毎月土用の丑の日がやってくる。

 それはたしかに素晴らしい環境だけど、たぶん名古屋の人も土用の丑の日は年に一回しかないと思った。

 



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