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横尾くんは語る、全然期待していないと



 いよいよ運動会の本番が明日に迫って来ている。

 正直かなり憂鬱だ。明日が明後日になればいいのにと本気で思っている。

 というか何か具合悪い気がしてきた。

 あれかも。熱とかないし咳も鼻水もまるで出ないけど風邪に限りなく近い風邪的なサムシングかもしれない。

 みんなに移すと悪いから明日は家で大人しくしていた方がいいような気がしないでもない。



「メグ~、とうとう中学校生活最後の運動会明日だよ。なんかうちめっちゃやる気出てきた。メグも頑張ろうね。あ、サボりとかまじ許さないからね?」



 ぷにぷに、とふいに美咲が私の頬を指でつついてくる。

 そして私の軽薄な考えを見透かしたかのように彼女は釘をさすのだった。


「まったくたかだが運動会でなにをそんなにはしゃいでいるのやら。運動会なんて去年もやったし、一昨年もやったし、三年前だって小学校でやっただろう。いったい何回やったら満足するんだ」


 やれやれ、と溜め息を吐きながら隣りの席の横尾くんが首を振る。

 その言葉に美咲はあからさまに不機嫌そうな表情を見せた。


「はぁ? 去年とも一昨年ともメンツが違うじゃん。全然べつものだし。というか小学校とかもうよく覚えてない」

「僕は小学校の頃の運動会も覚えている。クラスメイトの顔も名前も全てね。なんとも君は薄情な奴だな。友達甲斐がないよ。どうせ明日のこともすぐに忘れるんじゃないか?」

「わ、忘れないし! もう! なんなわけ!? 横尾って本当にムカつく!」


 まさに水と油。この二人は徹底的に合わない。

 でもたしかこの二人は三年連続同じクラスのはず。

 これが本当の腐れ縁という奴なのだろうか。うん。私から見ても中々に腐っている感は出てるように思える。


「というか横尾は今年こそ大丈夫なんでしょうね!? 一昨年は体育委員の子にゴネてリレーのメンバーから外れてたからいいとして、去年は本番の日の前日に捻挫してまともに走れなかったじゃん! つかもしかして去年の捻挫わざとだったんじゃない?」

「わざと捻挫ってなんだ。そこまで僕は自分の身体を軽んじたりはしていない。それに去年に関してはクラスメイトの皆に迷惑をかけたと思って反省しているよ。もっとも最初からリレーなんてやりたくなかったのは本心だけれどね」


 そういえば足が速いらしい横尾くんだが、彼が全速力で走っている姿を見た記憶が全くなかった。

 一年生の頃は私も横尾くんと一緒のクラスだったけれど、まだ運動会の行われる六月頃は今ほど仲良くなかったので、彼が巧妙にリレーの役割から逃げ出していることに気づかなかったのだろう。


「……もう、メグからも何か言ってやってよ。ほら、私のために走ってって言えば横尾走るから」


 い、言わないしそんなこと。というかいきなりその変な振りするのやめてよ。

 美咲は私の耳元に口を寄せると、わけのわからない事を言ってくる。


「メグが横尾が頑張ったらご褒美くれるって」

「なにっ!? ご褒美、だと?」


 おいこら美咲。どこのメグさんがそんなことを言ったのかしら?

 そしてなぜか横尾くんも横尾くんで生唾を飲み込み目を見開いている。

 一周回ってこの二人本当は仲が良いんじゃないのかな。

 もはや関わるのが面倒臭くなってきた私は視線で横尾くんに訴えておく。

 当然、私は何も言っていないと。



「勘違いするなよ。やるからには当然勝つつもりでやる。ベストは尽くすつもりだ。べつに君たちに囃し立てられたからではないと先に言っておこう……ち、ちなみに、そのご、ご褒美とか何とかいうのは全然期待していないからなっ! 本当だぞ!?」

「いやめっちゃ期待してんじゃんそれ。メグ、明日は色々頑張ってね!」


 

 美咲許すまじ。

 私は二重の意味で明日の運動会に行きたくなくなるのだった。

 




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