第28話
「つまり、二人を追い出したい?」
「そ、そうではありませんよ! ど、どこか別の場所で話をしませんか?」
「それならシャーサ。ついでに従魔舎の様子も見てもらえないかな? ルクス様にも見てもらいたかったしね」
「従魔舎……!」
従魔といえば、魔物たちだ。つまり、様々な魔物がいるに違いない。
興味をそそられないわけがない。
ただ、少し気になったのは私に見てもらいたいという意味だ。
「ルクス様。あれから、従魔の中にも黒い傷を負ってしまった子が何体かいてね。それらの様子を見てもらってもいいかな?」
私に見てもらいたいっていうのは、そういう意味だったようだ。
納得と同時に、その頼みを断るはずもない。
私はすぐに頷いた。
「分かった。ガルス、別にいいよね?」
私の問いかけに、ガルスはこくりと頷いた。
それを見たルーエンがシャーサへと視線をやる。
「ありがとう、ルクス様。それじゃあシャーサ。ルクス様の案内をお願いしてもいいかな?」
「分かりました。それではルクス様。ついてきてくれますか?」
「うん、わかった」
私たちはルーエンの屋敷を後にし、従魔舎へと向かって歩き出す。
「ここからそう遠くはないので、歩いていきましょうか」
「うん、分かった」
シャーサと並んで歩いていく。
従魔舎への思いは膨らみつつあったけれど、それと同じくらい気になっていたこともある。
それは彼女の相談だった。私からも彼女に伝えたいことがあったので、問いかけてみた。
「そういえば、相談って何なの?」
私が首をかしげると、シャーサは真剣な目を向けてくる。
決意のこもった彼女の瞳が私をとらえてくる。
「……呪いの力を浄化する方法を知りたいのです」
それは、私が彼女に話したかった内容と合致していた。
シャーサのまっすぐな瞳には、聖女としてのやる気がこもっているように感じた。
「そうなんだ。私も」
「本当ですか!? それは良かったです! 私、今のままではダメダメな聖女ですから!」
今のシャーサだって十分凄い力を持っている。
それでも、聖女としてさらに上を目指す、か。
私は職業と能力の両方から成長しようとする彼女を素直に尊敬していた。
私はそこまで考えて今の仕事をしてはいない。
……うーん、私ももっとこう精霊術師としての誇りとかを意識した方がいいのだろうか?
シャーサのやる気や前向きな様子に私は少し考えさせられてしまう。
「ダメな聖女じゃないと思うけど」
「ダメなんです! ……かつての聖女様はそれはもうすべての傷を癒せる女神様だったそうです。しかし……! 今の私はなんと無様なのでしょうか! 呪い一つも治療できないで聖女だなんて、そんなことあってはいけません!」
シャーサはたまに暴走状態になる。今がまさにそれだ。
鼻息荒く興奮した様子で、シャーサは私のほうに詰め寄ってくる。
「ですから! 私も頑張ってどうにかして呪いを解呪できるようになりたいのです! かつての聖女様ができたのなら、私にもできなければなりませんから! そうでしょう、ティルガ様!」
熱意は私だけではなくティルガにも向けられた。
ティルガはまさか自分に話が振られるとは思っていなかったようで、驚いている。
「そうなの、ティルガ?」
シャーサたちに話したことで、彼女の前では堂々と話しができるのは良かった。
ただ、もちろんすれ違う人たちに聞かれたら困ることではある。
「確かにシャーサの言う通りだ。我が知っている聖女は、ありとあらゆる治療を行うことができたな。ただ、聖女だって初めからそれが可能だったわけでは――」
ティルガが何かを伝えようとしたが、それをシャーサは遮る。
「そうです、そうです! ですが……今の私には魔人の力を浄化する術がありません。……これでは、とてもではありませんが聖女を名乗ることなどできません! かつての聖女様が大聖女というのなら、私なんて小聖女なんです!」
「名乗ってる」
「はっ! それでは、もう小です! 私、小なんです!」
シャーサは暴走するとおかしくなるようだ。
どちらにせよ、私がやることは変わらない。
「とりあえず、シャーサ落ち着いて。深呼吸して」
「すーはーすーはー! これで話しやすくなりました! ありがとうございます!」
もう十分うるさいから。
深呼吸させたのは間違いだったかもしれない。
「私も元々シャーサに用事があった。その理由は、解呪のやり方についてティルガが教えられるって話していたからなの」
「そうなのですかティルガ様!?」
血走った眼でティルガに詰め寄る。
今のティルガは中型犬くらいのサイズになっていて、その目線に合わせるようにしゃがんだものだからまるでティルガにひれ伏すかのようだった。
幸い、私たちが歩いている場所は貴族たちが暮らしている場所なので人通りはあまりない。
でも、ちょっとはあるため、変質者扱いされないか心配だった。
「あ、ああ。そうだ」
「ありがとうございます!」
「ただ、少し条件がある」
ティルガがそういうと、シャーサは臆することなく笑顔を浮かべる。





