第27話
それから、一度場の状況を整理することになった。
シャーサも、霊獣などの存在については知っていたため、私のおかれている立場を理解するまでに時間はかからなかった。
わりと、賢者様については絵本などでみんな知っているようだ。
……私は、侍についてくらいしか読んでいなかったからなぁ。
逆に侍のことならもっと詳しく知っている。
侍がいるという大陸は、私たちがいるこの大陸ではなく海を挟んだ北の大陸にあるとか。
他にもいろいろだ。
状況を理解したシャーサは見開いた目をこちらへと向けていた。
「……な、なるほど。そういうことだったのですね。だから、あれほど素晴らしい回復魔法が使えるのですか」
納得と安堵の入り混じった表情をしているシャーサに、多少は落ち着いたが未だどこか興奮気味のルーエンが続く。
「そういうこと……だね。ルクス様は……あー、いや。ルクスは……や、やっぱり、こういうときくらいは丁寧な口調で話してはダメかな? 恐れ多いんだけど……」
ルーエンはどうやら私を格上の存在として認識しているようだ。
ガルスが、ルーエンにため息を返す。
「ダメに決まっているだろ……おまえ、万が一ルクスを様づけで呼んでいるところを他人に見られてみろ。ルクスの立場を説明する必要が出てくるだろう」
「それは……ならば、そういうプレイだというのはどうだ?」
「おまえが誤解されるぞ?」
「僕はそれでもかまわないよ。誤解されようとも、尊敬する賢者様に並ぶ力を持つルクス様を。そして霊獣様を崇められるのであれば!」
ルーエンが鼻息荒く声を上げる。
……ダメだこの人。
今の彼に、まともな返答は期待できない。
ガルスも頭を抱え、ため息を吐く。
「少しは気にしろまったく……」
ガルスがそういったところで、シャーサがちらとこちらを見てきた。
「で、でも……このことは公にしたら、まずい……というか、混乱しますよね。て、ていうか私も出来れば忘れてしまったほうがいいんじゃないかと思うんですけど……誰かに殴ってもらえれば記憶消えますかね?」
ただ痛いだけだと思う。
シャーサも少し混乱しているようだ。
……今一番頼りにできるのがガルスというのが、最悪だった。
「……そうだな。色々問題はあるが、まず第一にルクスと関係を持とうとする人間が大量に増えるだろうな」
ガルスが上げた一つめの問題点には、少し首をかしげたくなる。
「別に私と何か関係があってもどうしようもないと思うけど?」
「ルクスがそう思っていたとしてもだ。伝説の精霊術師……賢者様と並ぶほどの者と分かれば、その立場は別格だ。懇意にしておいて損はなくて……まあ、貴族のかかわりが増えるってわけだ」
「……それはとても面倒」
想像しただけで頭が痛くなってきてしまった。
「そうだろう? それにだ。……魔人だってそうだろ?」
「魔人も仲良くしたいと?」
「そんなわけあるか。魔人からすれば伝説の精霊術師に近しい存在は厄介なはずだ。敵がルクスの存在に気づいたら真っ先に狙ってくるだろう」
確かに、そうなれば厄介だ。
「他にも色々とあるが……とにかくだ。ひとまず、このことは全員黙っておいてくれ。ルクスのためにも、それぞれのためにも、な」
ガルスはそこで言葉を区切り、全員を睨むように見た。
残念という様子ではあるが、ルーエンは頷き、シャーサはガルスの迫力にすっかり飲まれたように首を何度も縦に振っていた。
ガルスのおかげで、どうにか治まってくれた。
ルーエンは自分の席へと座り、咳ばらいを一つする。
「ひとまず、今日の話はこれで終わりだよ。本当にありがとう、ルクス……さ――」
ルーエンが私の名前を言いかけた時、ガルスの目が吊り上がる。
「ルーエン?」
きっとまた、様をつけて呼ぼうとしたのだろう。
ガルスにたしなめられたルーエンは複雑そうな表情を作る。
「……まったく。ガルス。君が無茶なお願いをしているというのは理解しているかな?」
「そこまで無茶なことは言っていないだろ?」
「いやいや。僕にとっては霊獣のような存在を従えた本当に憧れの人なんだからね?」
「だとしても、ルクスのことも考えてくれ。お礼をしたいと言っていただろう?」
ガルスがそういうと、ルーエンは少し不満が残ってはいるようだったけど頷いた。
「そうだね。ルクス様に何かあっては問題だしね。人前では、呼ばないようにしよう」
「うっかり外でも出すなよ。それじゃあ、ルクス。ここからは別の要件だ」
ガルスはそう言って、部屋にいたシャーサへと視線を向ける。
注目が集まったことで自分の番だと理解したようで、シャーサが一歩前へと出てきた。
「私が相談したいことがありまして、今日はこの場に呼んでいただきました」
それはちょうど良かった。
私も実はルーエンと話した後にシャーサに会おうと考えていたからだ。
「相談したいことって……何?」
私が問いかけると、シャーサは少し表情を変えてから周囲を見た。
「ちょ、ちょっと……できれば二人きりで話をしたいといいますか……」
シャーサの相談内容は分からないけど、ガルスとルーエンに聞かれている中で話したくはないということなのかもしれない。
それは激しく同意できたので、私はどうしようかと思う。





