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第23話


「本当に話したのはそれだけなの?」

「それだけ。逆に聞きたい。何を期待していたの?」

「それはもう、密会の打ち合わせとか……っ!」


 キャー! と勝手に盛り上がるラツィ。

 ラツィは本とかの読みすぎだと思う。一人で勝手に妄想して盛り上がる彼女に軽くため息を返した。

 パクパクと白米を口に運んでいると、ラツィがはっとこちらを見てきた。


「でも、ちょっと待って。さっきルーエン様に呼ばれたって言っていたわよね?」

「うん」

「それって結構凄いことよね。……と、取り合いになったりとかするんじゃない!?」


 ラツィがそう言うと、アレアが目をキラキラとさせる。

 勝手に変な期待をしないでもらいたい。

 ため息交じりに口を開いた。


「そもそも、取り合いって……。私はそもそもそんな立場じゃない」


 そもそもガルスにしたって、私を風除けとしていいように使っているだけだろう。


「ルクスはそうは思っていなくても向こうは違うかもしれないわ! ていうか、……ルーエン様もかっこいい人だし立場もあるし、そんな人にお呼ばれするだけでも純粋にうらやましいわ! ルクスばっかりずるい!」

「なら、代わってほしい……」


 私は別にそんなのはどうでもいい。

 自由な時間があるのなら、街とか見て回っていた方がよっぽど楽しいだろうし。

 私がそういうと、ラツィがきっと鋭い目を向けてきた。


「あたしの身長じゃ無理でしょ! 胸のサイズは一緒でも!」

「……別に一緒じゃない。私の方が少しはある」


 そこは非常に重要な問題なので、訂正させてもらうとラツィはうぐっと怯んだ様子を見せる。

 しかし、次の瞬間には再び目を吊り上げた。


「い、一緒よ! アレアみたいなバインバインじゃないんだから!」


 ラツィが叫ぶと、近くを通って行った男性の集団がちらとアレアを見ていた。

 ……確かに、アレアのそれは皆の視線を引き付けるだけの力がある。

 そんな視線の対象にされてしまったアレアは恥ずかしそうに顔をうつ向かせる。


「ふ、二人ともあんまり大きな声でそういう話しないでくれますか……?」


 その両目は少しだけ鋭くラツィを睨んでいた。

 とりあえず、私は朝食をゆっくり噛んで食べることにした。

 少しでも、ルーエンと会う時間を遅らせるために。




 食事を終えた私は、ガルスと合流してルーエンがいるという屋敷へと向かう。

 まだ昨日の傷が完全には癒えていないそうで、今は療養中なのだとか。

 傷自体はふさがっていると思うけど、受けた時のダメージは残っているんだと思う。

 そこから先は、自己治癒力で直していくしかない。回復魔法では9割治せても、残りの1割が治らず、後遺症として残ってしまうこともあるのだとか。


 ポーションで自己治癒力を高めることで、ほとんどの場合は完治する。

 とにかく大きな怪我はしないに越したことはないということだ。


「ここが、ルーエンの屋敷だな」


 ガルスがぴたりと足を止める。

 私も同じように足を止め、眼前に広がる屋敷を眺めた。

 大きな庭が屋敷の入り口につながるまで広がっている。

 美しく手入れのされたそれを見ていると、やはり貴族って色々凄いと思ってしまう。


 別に大きな屋敷や庭に興味があるわけではないけど、これだけ目立つものがあればそれなりに。


「ガルス様とルクス様ですね。お待ちしておりました」


 入口に待っていた執事らしい人が一礼をする。

 私もつられて頭を下げたけど、ガルスはそのまま堂々とした態度のままだ。

 基本的に、貴族が使用人に頭を下げることはないからね。


「ああ。ルーエンは大丈夫か?」

「はい。朝からとても元気です。念のため、今日は休みを取りましたが、明日からはいつも通りに仕事に復帰できるかと」

「そうか」


 それだけ回復しているのなら良かった。

 私たちは執事の案内のもと、敷地へと踏み込む。


 広大な庭の中で、私は少し気になるものを見つけた。

 大きな竜が横になって眠っていたのだ。

 見たところ、野生の竜ではないようだ。気持ちよさそうに、穏やかな表情で眠っている。


 竜のどんな種族かはわからないけど、人を乗せて飛べそうなほどだ。


「あれは、ルーエンの従魔だな」


 私がじっと見ていたからか、ガルスが苦笑交じりに答えた。


「そうなんだ。強い?」

「強いとは思うな」

「戦ってみたい……」

「おいおい。頼むから斬りかからないでくれよ」


 もちろん、分かっている。

 でも、竜か……。

  

「空を飛べるのはとても便利そう」


 何より、人間では不可能に近い飛行を疑似体験できるというのは、きっと想像以上の楽しさがあるだろう。

 ぽつりとそんな言葉を漏らすと、ついてきていたティルガが慌てた様子で声を上げた。


「……わ、我だって地上を走る速度なら竜にだって負けはしないぞ」


 もしかしたら、ティルガは少し嫉妬したのかもしれない。

 別にティルガと比べたつもりはなかったけど、確かにそう聞こえてしまうのかもしれない。


 そんな風に眺めていると、竜は翼を動かし、目を開いた。

 それから、こちらに気づくと、のそのそと近づいてきた。


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