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第20話


 この街の宿の一つを貸し切っているらしく、そこが私たちの部屋となっていた。

 私は与えられた部屋へと入る。

 イスとテーブル、それに簡素なベッドが置かれていた。

 

 荷物をテーブルに置いてから、私は椅子へと腰掛ける。

 小さな部屋ではあるが、悪くはない。

 個人部屋であり、落ち着いた空気があった。


 冒険者時代はもっと汚れた部屋などにも泊まったことがあった。この部屋はそれに比べたら天国のようだ。


 椅子に腰かけた私の方へ、ティルガがやってきた。

 その頭を撫でていると、ティルガが不思議そうな声を上げた。


「ルクス。先ほど話していたシャーサという女性は、聖女、なんだろう?」

「うん、そうだけど何かあるの?」


 問いかけると、ティルガは考えるような素振りを見せながら頷いた。


「やはり、か。彼女の体内に流れている魔力はまた、ルクスとは違った特別なものだったからな」

「……それってつまり、彼女も霊獣と契約できるってこと?」


 それは少し嬉しいことだった。

 同じような立場の仲間ができるかもしれない。


 それに、この国では従魔の存在が認められている。

 もしかしたらシャーサはすでに霊獣と契約しているかもしれない。

 しかしそんな私の期待を裏切るように、ティルガは首を横に振った。


「いや。そういうわけではないんだ」

「じゃあ、どういうこと?」

「聖女の魔力は少し違うんだ。……例えば、さっきの魔人による怪我についても、聖女の魔力ならば治癒可能だ」


 その言葉に僅かに驚く。


「でも、シャーサはできなそうだった」

「知らないだけだろう。そもそも、我が浄化のやり方を教えてもらったのも聖女からだったからな」

「そうだったんだ」

「ああ。だが、どうやらこの時代に浄化のやり方は伝わってはいないようだな……それは由々しき事態だ。たまに、聖女以外でも治療できる場合もあるが……それ以外の方法では一切治療ができない。それを魔人側に悟られれば、呪いによって攻撃されることが多くなるかもしれない」

「……やっぱり、魔人にもそこまで考える人もいるんだ」

「そうだ。呪いによる攻撃は手間がかかるわりに大して効果はないんだ。相手が呪いを治療できるのならば、普通に攻撃した方がダメージは大きいだろう。だが、治療できる人間がいないなら別だ。呪いを感染させ、周囲の者にまで呪いを移していけるからな」

「……そうなんだ」


 ティルガの言うことが本当ならば、確かに危険だ。

 

「今回の次元穴に関して、ティルガは魔人が関係していると思う?」

「……可能性は高いだろう。そもそも次元穴は魔界へとつながっている。かつて、賢者によって魔界へと追いやられた魔人たちが住み着いている。彼らが何か理由を持って攻撃してきたという可能性は高いだろう」

「……次元穴の先は魔界? そこに魔人がいる?」

「ああ、そうだ。話していなかったか?」

「聞いてない」


 私がぶすっと言って、ティルガの背中をむぎゅっとつかむ。

 ティルガは苦笑だけを返した。


「そもそも、賢者がそのように話を残すと言っていたのだが……時代の流れとともにどうやら薄れていってしまったようだな。……先ほど我が言ったことはすべて本当だ。魔人は微精霊を喰らい、人間さえも喰らおうとした。それを賢者は止めた。共存という道もあり、それを提示した賢者に、魔人は反逆した。だからこそ賢者は、彼らを別の時空へと封印した。そこが魔界と言われている」

「……そうなんだ。そして、この時代に再び魔人たちがこの世界に侵攻している可能性があるってことだよね」

「そういうことになる」


 魔人についての情報は貴重だ。

 けど、今進行してきている魔人がどれほどいるのか考えるよりも、気にしなければならないことがある。


「さっきの話に戻すけど。魔人の呪いってシャーサも解呪できるようになるってこと?」

「ああ、そうだ。……というか、浄化ができるものがいなければ今後困ることも増えてくるかもしれぬ。ルクスよ。あとで教えに向かった方がいいだろう」


 ティルガも私と同じ意見だったようだ。

 ティルガの意見には頷きたいけど。


「私が教えられるの?」


 私は回復魔法を普段と同じように使用しただけ。

 特別なことは何もしてない。


「ルクスが、というよりも我が微精霊に指導しよう。そして、微精霊同士で話をしていけばいいはずだ。ただ、魔法の感覚などは、ルクスからも指導できる。あとで話をしてみるといいさ」

「分かった」

 

 ティルガの言葉にうなずいた。

 色々あったけど、これで今日は終わりだ。

 私は存分にティルガのもふもふを堪能した。


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