第17話
「そうなの?」
「はい。私はまだまだ学ぶべきことが多い日々です。……今回も、ルクス様に手伝っていただいたおかげで何とか対応しきれましたが、私一人では治療できなかった人も多くいました。ですから、本当に感謝しております」
「まあ、相性もあるから、仕方ない部分もある」
「……仕方ない、では済ませられないのです」
私の言葉にシャーサは視線を落とす。
彼女はかなり気にしてしまっているが、実際仕方ない部分が大きい。
例えば、私だってほとんどの人は治療できるけどすべてではない。その対応できない人ばかりがいれば、私だって治療できない人なんだし。
「誰だって相性の悪い相手の一人や二人はいる」
「ですが、聖女はすべての人を癒す必要があります。それが、私の役目ですから」
気にしてもいられないんだけど……シャーサの立場だと難しいのかもしれない。
聖女って言っていたし。義務付けられてしまっているのかも。
「……それは、大変そう」
「そうですね。ですが、いつかはすべての人を癒せる聖女になりたいです」
シャーサは明るく微笑んでみせた。
現状の自分の力のなさを気にはしているけど、それでも前向きな人でもあるみたい。
凄い人だと思うし、純粋に応援したいと思った。
「そういえば、ルクス様は聖女様なのですか?」
「ううん、私は違う。ていうか、私たちの国には聖女っていないから」
「そうなのですね……あれほどの回復魔法を使えるのなら、聖女を名乗っても問題ないと思いますよ。この国の聖女である私からのお墨付きです!」
「別にいらない」
「えー、そんなー!」
そんな風に話していると、何やら慌てた様子の男性たちを見つけることができた。
その中央には……ガルスもいる。
何かあったのかな?
「聖女様! 聖女様はいるか!?」
声を張りあげながらこちらへとやってきたガルス。
ガルスの近くには兵士もたくさんいる。
担架に乗せられた男性の姿もあり、重傷者が出たのは一目瞭然だった。
シャーサも慌てた様子でベンチから立ち上がり、そちらへと向かう。
そのままジュースを飲み続けているわけにもいかず、私もその後を追った。
「私が聖女シャーサです。どうされたのですか?」
ガルスの前まで来たところで、シャーサが首を傾げる。
……問いかけながらも、彼女の両目は担架に乗せられた傷だらけの男性へと向けられている。
酷い傷だ。その傷の深さに、シャーサもさすがに表情を顰めている。
ガルスの視線が、担架の男性へと向けられる。
……その表情には、焦りのようなものも見られた。
「ルーメンだ。聖女様も知っているだろう?」
「は、はい……っ! すぐに治療を行います!」
担架の傍で治療を行っていた女性と入れ替わるようにして、シャーサがルーエンのもとへと向かう。
それを心配そうに見ているガルスを見ると、彼も私に気づいた。
笑顔を浮かべはしたが、いつもと違い煮え切らない笑みだった。
「……ルクス、聖女様と一緒だったんだな」
「うん。……彼は?」
「……ルーエンだ。この街の領主を務めている。街の指揮も執っているんだ」
「……彼に何かあると、色々まずい……ってこと?」
「そうだな……それに――」
ガルスはぎゅっと唇を噛んでから、ルーエンへと視線を向ける。
「……オレの友人なんだ」
ガルスがそういった時の表情は、悲しげにしていた。
……ガルスの本音を見たことは少ない。
紛れもなく、今の彼は本心を口にした。
普段のような態度ではなく、今のようなガルスと初めて出会っていれば、もう少し彼への評価も変わっていたかもしれない。
「……それは、大変」
私も治療を手伝いたいけれど、回復魔法は繊細な作業だ。
二人同時に行うのは普段から訓練をしていない限り、難しい。
ルーエンの怪我は、シャーサの回復魔法によってどんどんふさがっていく。
恐らくこれで出血多量で亡くなってしまうことはないだろう。
しかし……一つだけ。
胸に刻まれたもっとも大きな傷だけは、中々塞がらない。
「……なんですか、これは」
回復魔法を使用していくが、傷はやはり埋まらない。
それどころか、傷を守るように黒い霧が生まれる。
一瞬目をこすってしまうけど、錯覚、ではないはずだ。
その証拠にガルスたちも驚いたようにのぞき込んでいる。
「……なんだこの傷は? 毒か!?」
「ど、毒ではありません。……しかし、とても禍々しい力を感じます……っ!」
「なんだと……? 一体なんなんだこれは」
血が変色しているわけでもなさそうだ。
シャーサが再び魔法を使用したが、ダメ。
まったく改善する様子がない。
しばらくして、シャーサの微精霊たちが何か訴えかけるようにこちらを見てきたのが分かった。
私の微精霊が近づいていき、それから慌てた様子で戻ってきた。
『ルクスルクス! これ、魔人の力が感じられるよ!』
「……魔人の?」
周囲の人々に聞かれないよう、声は抑えて問いかける。





