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第16話



 救護所に集められていた人たちのほとんどの治療が終わった。

 まだ、何名かは残っているけど、私やシャーサでなくとも治療ができる。

 だから、ここで一度仕事を切り上げ、休憩をもらえることになった。 


 さすがに私もちょっと疲れてきてたし。


 魔力に余裕はあるけど、魔法を使い続けることは疲れるものだ。

 なんだろう……勉強しすぎて頭が痛くなる感じかな?

 救護所内の隅のほうに設置されていたベンチに腰掛け、用意してもらったジュースを口にしていた。

 救護所内にはいくつかの飲み物がもらえるスペースがあったので、今はそれで水分補給中。

 甘い柑橘系の味が口いっぱいに広がる。


 私がジュースを楽しみ休憩を満喫していると、きょろきょろと何かを探すようにしてあるくシャーサを見つけた。

 遠巻きに彼女を眺めていると、シャーサの目が私に向けられた。

 それから、不安げな足取りは消え、まっすぐにこちらへと歩いてくる。


「る、ルクス様で良かったでしょうか?」

「人違いだと思う……」


 なんだか面倒そうな空気を感じた私が、顔を背けながら答える。


「え、ええ!? で、でもさっきも話しかけましたし、間違いないと思います! ルクス様ですよね!?」

「……違うけど」

「ルクス様ですよぉ!」


 シャーサが涙目になりながらそう言ってくるものだから、私はため息交じりに頷くしかない。


「あなたは聖女のシャーサ……でいいんだよね?」


 お互い同じような立場で治療を行っていたとはいえ、自己紹介をしたわけではない。

 私が確認するように問いかけると、微笑とともに頷いてくれた。


「はい。私はシャーサです。ルクス様、隣よろしいですか?」

「よろしくない、かな」

「それじゃあ、失礼します!」

「聞いてた、人の話?」


 私の言葉などまるで聞こえないかのように隣に腰かけた。

 わりと図々しい子だ。見た目はほんわか落ち着いたような子なのに。


「別に様をつけて呼ばなくてもいいから」


 ていうか、むしろ私の方が敬称をつけて呼ぶべきではないだろうか。

 聖女様がどのくらいの立場か分からないけど、周りの反応を見るにそれなりの立場のようにも見えるし。

 しかし、シャーサは首を横に振る。おっとりとした表情が、少し真剣なものになる。


「いえ。私はこれが普通ですので。ルクス様。まずはお礼を言わせてください」

「……お礼?」

「はい。私だけでは対応できなかった傷病者への対応をしていただき、とても助かりました。……正直な話をさせていただきますと、私だけではどうしても対応に限界がありました。あなたが負担してくれたおかげで、より多くの命を救うことができました。本当に、ありがとうございます」


 シャーサは深く頭を下げてくる。

 こちらが驚くほどの低姿勢だ。

 別にそこまでしなくてもいいのに。

 おかげで、近くにいた人からも視線を集めてしまっている。


「別に、これが私の仕事だから。お礼を言ってもらう必要は別にないから」

「そんなことありません。本当に助かりました」


 ぺこりぺこり、と何度も頭を下げてくる。

 さっき言った通り、これが私の仕事なんだから、別にシャーサがわざわざ言うことはないんだけど、シャーサ自身のやさしさ故なのかもしれない。

 ひとしきりお礼を言い終えた彼女は、どこかほっとしたように息を吐いていた。

 胸元にあったペンダントを握りしめていたシャーサはそれから落ち着いた様子で笑顔を浮かべる。

 私は再び、ジュースを口につけたところで、シャーサが顔を覗きこんできた。


「あの少し聞きたいのですが、いいですか?」

「今ちょっと忙しい」

「暇そうに見えますよ! 聞きますね!?」


 彼女の目は興味の色に染まっている。

 鼻息もどこか荒い。

 ……最初、シャーサは落ち着いた子なのかなと思っていたけど前言撤回。

 かなり、強引な人のようだ。


「どうしたの?」


 仕方なく問いかけると、待っていたとばかりに彼女は口を開いた。


「ルクス様はどのようにして回復魔法の腕を磨いたのでしょうか? あれほど多くの人たちを治療できる回復魔法は、中々いません。きっと、とても凄い訓練を行ったのだと察することができます! 一体師匠はどのような方なんでしょうか!? やはり、北の国にも聖女に準ずるような立場があるのでしょうか!?」


 どのように。その質問に対して、私は即答することができない。

 私たちの魔法技術の上達は、自分に付き従う微精霊の成長や相性が関係している。

 魔法を使えば使うほど、微精霊が成長していってより効率的に魔法を使用できるようになっていく。

 

 回復魔法を専門に鍛えたいのなら、回復魔法を使い続けることが一番だ。

 また、回復魔法に関しては相性もあるため、より多くの種類の微精霊を従えることが必要でもある。

 シャーサはこれまでにどのような回復魔法の経験があるのかを聞きたいんだと思うけど……別にそんな特別なことがあるわけじゃないんだよね。


 なにより、私の魔法の師匠は微精霊たちだ。

 さすがに、それを直接伝えるのは問題が出るみたいだし、ごまかすことにした。


「私はほとんど独学、かな」

「え!? そうなんですか!? ……世の中には、天才というものが本当にいるのですね」


 天才、と言われるのはちょっと苦手だ。

 確かに、才能はあるのかもしれないけど、それにしたって、努力だってしているんだし。

 天才という言葉一つで片付けられるのは、私はあまり好きじゃなかった。

 

 シャーサにそう表現させてしまったのは、「独学」という返事そのものに問題もあったかもしれない。

 独学で身に着けた、ではなく微精霊に教えてもらったという方が良かったのかな?

 でもそれはそれで変な誤解をさせちゃうかも。


 うーん、難しい……。

 この話をこのまま続けていると、色々ぼろが出そうだったので、話題を変えることにした。


「シャーサの回復魔法もとても凄かった。やっぱり、たくさん練習したの?」


 シャーサの周りにもたくさんの微精霊がいる。

 私の微精霊たちと何やら楽しそうに話をしている。

 だから、シャーサもかなり優れた魔法の使い手なんだろうけど、彼女の表情は少し曇る。


「……そんなことはございません。私の師匠である先代の聖女様の方が私などよりも優れた腕をしていましたし」


 それまでの明るさが一瞬で消えてしまった。

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