第11話
「おい、起きろルクス。一度目の野営予定地についたぞ」
「……ん? そうなの?」
ガルスの声に反応して、私は目を開けた。彼の顔がこちらをのぞき込んできていた。
馬車は止まっているようだ。
まだ覚醒しきっていない頭で状況を確認していく。
「もう街に着いたの?」
「いや、野営予定の場所に着いたんだ。もう夜も遅いから今夜はここで一夜を過ごす予定だ」
ガルスが言う通り、外は暗くなり始めている。
急いで野営の準備をしなければ、瞬く間に暗くなってしまうだろう。
「オレは先に出ている。今夜はこの場所で夜が明けるのを待って、それから明日の日の出とともに出発だ」
「分かった」
ガルスが馬車から降りて、私も服装を確認してから外へと出た。
外に出ると、あちこちで野営の準備をしているのが分かった。
テントがしかれ、焚火も用意されている。
明かり用の魔石も用意されていて、これならば夜も問題ないだろうと思う。
たくさん並んでいる馬車から、一度馬は離されている。
皆、教育が行き届いている子たちで、近くで体を休めるように食事をしていた。
近づいてみると、馬もこちらに気づく。
視線を向けていると、馬は上機嫌な様子を見せる。
試しに軽く撫でてみると嬉しそうに頭をこすりつけてきた。
「ルクスは魔物によく好かれるな」
私の後をついてきていたティルガの声が聞こえた。
この馬は普通のものではなく、魔物だ。
魔物に好かれるのは悪い気はしない。
強い魔物ならなおよしだ。
そんな風に馬と戯れていると、
「ルクスさーん。お久しぶりです」
手を振りながらアレアがこちらへとやってきた。
彼女の隣では、疲れ切った顔のラツィもいる。
青ざめた顔を見るに、ナーサと何かあったのは明白だ。
「うん、久しぶり。アレアたちのテントって、私が入っても大丈夫?」
「はいっ、三人用なので問題ないです。きっと来るだろうって思って確保しておいたんです」
「ありがとう。ラツィも元気そうで何より」
私が冗談めかして言うと、彼女はきっとこちらを見てきた。
「……元気そうに見える?」
「うん、顔真っ青」
「どう考えても元気じゃないでしょう! あんたがガルス様とイチャイチャ馬車の旅をしている間、どれだけ苦しい思いをしていたかわかってるの!?」
不服な言葉があったけど、今はラツィをからかう方を優先したい。
「何してたの?」
「色々面倒な話を聞かされたの! 婚活失敗した話とか、色々ね! ああ、もう! あんな陰鬱な話聞かされてると、こっちまで呪われちゃいそうだわ!」
それは確かに疲れそう。
「あんたは何してたの!? 膝枕とかさせてもらったとか!?」
「いや、別にそんなことはしてない。ただ、戦いに関しての話を色々としてた」
「戦い?」
「うん。ガルスの魔法への考え方や、戦いでの使い方について。色々とためになった」
とても有意義な時間ではあった。
ガルスを変な男から、戦いに対して熱心に考えている男へと格上げしたし。
「……まあ、そっちはそっちで何もなかったのね。ならよし!」
ラツィの何がよしなのかはわからないけど、とりあえず納得はしてくれたようだ。
「でも、二人きりで何も関係が進まないってのも、ちょっとダメね。ルクスもナーサみたいになっちゃうわよ?」
「だって、ナーサ」
「え!?」
私がラツィの背後を見ながらそう言うと、ラツィがばっと振り返った。
そこには誰もいない。
私がくすくすと笑っていると、ラツィが目を吊り上げる。
「もう、心臓に悪いじゃない!」
「ほら、アレアが夕食作り始めたし、私たちも準備を手伝おう」
「……そうね。……ふぅ、こっちはこっちで疲れるわね」
ラツィが小さく息を吐き、私たちはアレアの元へと向かう。
料理は数人単位で行う。
アレアだけではなく、他の精霊術師たちも集まっている。
「あっ、ルクスさん、ラツィさん。手伝ってくれるんですか?」
「うん、任せて」
「ふふんっ、任せなさい! 何すればいいの!?」
ばしっとラツィが胸をたたいた。
「それじゃあ、野菜を洗ってもらえますか?」
「わかったわ! 石鹸はどこにあるの!?」
「せ、石鹸!?」
「ええ! 洗うなら、必要でしょ!?」
当然のこととばかりに叫ぶラツィに、アレアが頬を引きつらせている。
「……ラツィさん、料理をしたことはありますか?」
「ないわ! でも、任せて! やる気はあるわ!」
「……分かりました。皿を並べるのを手伝ってください」
あっ、ラツィが戦力外通告をくらっちゃった。
当の本人は特に気にした様子はない。
「ルクスさんは料理の経験はありますか?」
「ないけど、戦いも料理もそんなに変わらないとは思う」
「ラツィさんのお手伝いお願いします」
……。
私たちは料理に深くかかわることはなく、遠巻きに眺めているだけになった。





