第10話
私たちが視線を向けたところで、その窓が開いた。
「ガルス様。前方に魔物の姿を確認しました。どうしましょうか?」
「魔物か……それなら、オレが対応しようか」
「我々でも対応できますが……」
「馬の操縦に集中していてくれ。そのために、オレがいるのだからな」
ガルスはそう言って窓の外へと視線を向けた。私もつられるようにして逆側の窓から外を見てみた。
御者がいうように、遠くに魔物がいるのを確認できた。
まだ距離はあるけど、よく見つけられたと思う。
御者の人たちは、周囲の探知を行っているのかもしれない。
「ガルス、私も手伝おうか?」
「いや、大丈夫だ。あの魔物程度ならば、オレ一人で十分だ」
彼はからかう調子で微笑み、それから魔法を打ち上げた。
それは別の馬車への合図のようだ。ほかの馬車たちは速度を落とすなどせず、そのまま進んでいく。
魔法を打ち終えたガルスは、すぐに次の精霊魔法の準備を開始する。
大きな魔力が集まっていく。
前方には、こちらに気づいた魔物が威嚇するように吠えていた。
距離がどんどんと近づいていく。
肉眼でも捉えられる程度になったところで、ガルスの魔法が放たれた。
風の魔法だ。
まるで竜巻のような風が巻き起こると、その魔物は空へと飛んで行った。
凄い魔法。無駄がなく、威力の高い魔法。
芸術品のような魔法に、私は感情の高ぶりを抑えられない。
やっぱり、ガルスは強い。
……ぜひ一度手合わせをしてみたい。
私たちの馬車が通過した後、地面へとたたきつけられている。
落下地点までも計算していたのだろう。他の馬車の進行を妨げることはない。
ガルスは窓の外に向けていた手を引き戻し、それから席に座る。
それから、にやりと調子よく笑った。
「この辺の魔物なら、相手にならんな」
「凄い魔法だった。風が得意なの?」
「まあな」
「他の属性はどう? 近接戦闘の際にはどんな風に組み合わせて戦うの?」
ガルスに質問を重ねると、彼は驚いた様子でこちらを見てきた。
「おまえ……さっきまであんまり興味なさそうだったくせに戦いに関してとなると途端に別人になるな……」
「別にそんなことはない」
「そんなことあるっての。戦い方だったか? オレは基本的に風をまとって、動きの補助をしたり攻撃の時の補助に使うくらいだな。ルクスはどうなんだ? 得意な属性とかはあるのか?」
「私はだいたい全部同じくらい使えるけど……今は風が得意な方かも?」
ティルガが風魔法が得意なため、風魔法ならそれなりに使用することができる。
私が答えると、ガルスは頬をひきつらせた。
「ぜ、全部同じくらいって……全属性の魔法が使えるのか?」
「まあ、使える」
私が答えると、ガルスは乾いた笑いを浮かべる。
「あっけらかんと言いやがって……ルクス。言っておくが、全属性の魔法を使えるって結構異常なことなんだからな?」
「まあ、珍しいとは聞くけど」
「そのくらいの認識じゃないんだって! まったく……おまえがいれば向こうでの次元穴の破壊も問題なくできそうだな」
「そういえば、確認したいけど、次元穴の破壊って魔力をぶつけ続ければいいんだよね?」
私が知っている知識は、聞いたことがある、というもの。
自分で破壊したことはなかったので、この機会に再確認しておきたかった。
私の問いに、ガルスがこくりと頷いた。
「その認識で間違いないな。魔力をぶつけ続けていれば壊せる。まあ、結構な魔力が必要になるから、それなりに余裕のある人たちを集める必要はあるけどな」
「なるほど……」
だから、私も誘われたのかもしれない。
「ルクスは魔力量もそれなりにあるんだろ?」
「ある方だとは思う」
「まあ、そう聞いてたからこうして誘ったわけだしな」
ガルスはそう言って椅子の背もたれに深く腰掛けた。
「とりあえず、まだまだ旅は長い。ゆっくり休んでてくれ」
「うん、そうする。そうだ、ガルス」
「なんだ?」
「あとで模擬戦とかしない?」
「しない。おまえと戦ったら模擬じゃなくなりそうだ」
じろっとこちらを見てきたガルスは、そのまま目を閉じる。
まだまだ旅は長い。
私も少し休んでおこうかな。





